会社法

【株式譲渡制限会社】実はとても身近な会社!特徴やメリット・デメリットなどを完全解説!!


「株式譲渡制限会社
という用語を聞いたことはあるでしょうか?

この用語だけ聞くと、何か特別な制限や難しい規定に縛られている会社のように思われますが、「株式譲渡制限会社」は、私たちにとって最も身近な会社であるかもしれません。

なぜなら、日本国内の企業の大半は中小企業であり、中小企業うち過半数は「株式譲渡制限会社」であるといわれているからです。

今回、この記事では「株式譲渡制限会社」の定義や目的、メリット・デメリットについてわかりやすく解説していきます。

① 株式譲渡制限会社とは?

はじめに、株式譲渡制限会社の定義や目的などの基本的な事項について説明を行います。

株式譲渡制限会社

株式譲渡制限会社とは「すべての株式に譲渡制限に関する規定がある株式会社」と定義されています。
これは、「株式譲渡会社の株式は自由に譲渡できません」という意味です。
つまり、株式譲渡制限会社の株主は、株式を自由に売買することができないのです。

そもそも「株式会社」には公開会社と非公開会社が存在します。
実は、株式譲渡制限会社はこのうち非公開会社と同義です。

公開会社の株主は、自分の都合に応じて出資をした会社の株を自由に売買できるため、株式譲渡制限会社(非公開会社)の株主とは対照的であるといえます。

一方で、株式譲渡制限会社では、株式を他の個人や法人(第三者)に譲渡する場合、「取締役会」ないし「株主総会」で承認を得なければならないことが定款で定められています。この仕組みは、株式を保有してほしくない人物に自社株が渡ってしまうことを避けることを目的とした仕組みです。

公開会社=上場企業??

株式譲渡制限会社は、非公開会社と同義であり、株式の売買を自由にできない会社であることを説明しました。

この非公開会社と異なり、株式を自由に売買できる会社を「公開会社」と呼びます。

「株式」と「公開」という2つのワードから「株式上場」や「株式公開」を連想する方も多いかもしれません。
上場企業とは、この概念の通り「市場へ自社の株式を公開している企業」です。

つまり、東証1部、2部、名証、大証、ジャスダック、マザーズ問わず、株式市場に上場している企業は全て「公開会社」でなければいけません

では、未上場の会社は全て「非公開会社」でしょうか?
ややこしいですが、未上場企業であったとしても、株式を自由に取引できる企業は「公開会社」です。
要するに、「上場企業は公開会社でなければいけない」に対し、「未上場企業は非公開会社であっても公開会社であっても構わない」という構図が成立します。

なお、新聞社など発信する情報の中立性を守るため、未上場会社でありながら規模の大きな会社であり非公開企業である会社も一定数存在します。

② 株式譲渡制限会社の特徴

次に、株式譲渡制限会社の特徴をご紹介します。
株式譲渡制限会社(非公開会社)は、一般的に外部の影響を受けにくく、登記や株主総会などの手続きが簡易的であるとされています。

取締役会を設置する必要がない

公開会社には、取締役会を設置する義務があります。

また、取締役会には取締役を3名以上と、監査役を1名以上置く必要があるため、社内に一定以上の役員が所属している必要があります。

一方、株式譲渡制限会社では、取締役会を設置する必要がなく取締役が1名以上でその要件を満たすことができます。
このことから、社員数が少ない企業や、複数の役員を必要としないような企業は、結果的に株式譲渡制限会社の体系をとるケースが多いとされています。

なお、取締役会や取締役については、以下の記事で詳しい説明を行っているので、ご興味のある方は、是非ご覧ください。

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役員候補を限定できる

株式譲渡制限会社の2つ目の特徴は、定款に一定の条件を記載することで、取締役や監査役などの役員として就任できる人物を限定できる点です。

例えば、「取締役は株主に限る」というような規定を定款で定めた場合、株式を創業者の家族や親戚のみが所有している場合は、必然的に株主である家族や親族の誰かが取締役に就任します。

役員になるということは、「経営に関する重要事項を決定する権限を持つ」という意味です。
そのため、役員を家族や親族で占めるということは、いわゆる「同族経営」であることを意味します。

株式譲渡制限会社は、このように定款を利用し、役員候補を限定できるため、外部の人間に経営に口出しをされたくない場合などは有効な手段であるとされます。

一方、公開会社では、このように役員候補を定款によって限定するような規定を設けることはできません。

役員の任期を延長できる

公開会社では、通常、役員の任期は取締役が2年、監査役が4年とされています。

また、経営の透明化やガバナンス強化を目的とした「委員会設置会社」において、通常の株式会社の「監査役」に該当する「委員会の委員」の任期は1年です。

このように、公開会社や委員会設置会社において、経営や監査に直接関わる役職の任期には期限があり、数年のスパンで更新や解任が求められるポジションです。
さらに、新任が役員として選出された場合はもちろん、任期満了後に同じ人物が同じ役職に就く場合であっても、役員は株主総会で改めて選任される必要があり、就任の際の登記費用(司法書士への手数料)として数万円の費用が費やされます。

さらに、役員を選出する株主総会を開催する場合、原則開催日の2週間前までに書面もしくはメールによって株主総会の開催について株主に対し通達を行わなければなりません。

一方、株式譲渡制限会社では、定款で定めた規定によって、役員の任期は10年まで延長可能とされています。
そのため、役員が少数で異動が少ない会社、同族経営のため役員が世襲制の会社などは、定款を定めることで、登記に必要な手間や経費を抑えることができます。
また、株式譲渡制限会社の場合、株主総会に関しても、開催日の1週間前に口頭での召集を行うことが認められています。

売渡請求権が行使可能である

株式譲渡制限会社では、定款に定めることで、「売渡請求権」が行使可能とされています。

売渡請求権とは株が会社として望まない個人や法人の手に渡ってしまった場合、売渡を請求できるという権利です。
ただし、売渡請求権を行使する際は、3分の2以上の株主の同意を得る必要があるため、その点は注意が必要とされます。
このように、売渡請求権は、株式の不都合な分散や、望ましくない人物が株式を取得することを防ぐことを目的とした規定です。

なお、株式譲渡制限会社の株式を第三者に対し譲渡する場合は、株主総会もしくは取締役会から承認を得て、株式を譲渡する方法が一般的です。

この場合、自分が現在保有している株式譲渡制限会社の株式に関する契約書を譲受側と作成し、その後、完成した契約書を提出することで、会社に対して「株式譲渡の承認」を請求します。
契約書の提出を受け、取締役会や株主総会では株式譲渡の可否について話し合いがおこなれますが、仮に株式譲渡に関して承認を得ることができた場合は、譲渡制限のある株式を第三者に譲渡することが可能です。

また、定款の定めによって、代表取締役の承認のみで株式譲渡の承認を得ることも例外的なケースとして存在します。

以下は、株式譲渡制限会社の主要な特徴です。

株式譲渡制限会社の特徴

・外部にコントロールされにくい経営が可能である。
・定款によって比較的自由な経営可能。
・株主総会や役員の就任に手間やコストがかかりにくい。

また、この説明では、複数回に渡り「定款」というワードが登場しました。
株式譲渡制限会社では、定款に基づいて、役員候補の限定や売渡請求を行使する際の条件など様々な要因が変化します。

「定款」については、以下の記事で詳しい説明を行っているので、ご興味のある方は、是非ご覧ください。

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③ 公開会社となるための条件

株式譲渡制限会社は、外部からの影響を受けにくく、定款の定めによって制限を設けることで経営のコントロールが比較的容易な制度ですが、公開会社に変更しなければいけないケースが存在します。
代表的な例として挙げられるのが、会社の上場を目指す場合です。
前述した通り、上場会社は100%公開会社でなければいけません。
ここでは、株式譲渡制限会社が公開会社へ変更するための条件について解説します。

譲渡制限の廃止

株式譲渡制限会社を公開会社に変更する際の第一条件は、「譲渡制限」を廃止することです。
この譲渡制限は株式譲渡制限会社の「発行株式」に設けられており、公開会社に変更する場合は、定款を変更し譲渡制限を廃止する必要があります。
また、譲渡制限を廃止した場合は、自動的に現在の取締役や監査役の任期が満了となります。

取締役会と監査役の設置が必要

株式譲渡制限会社は、取締役が1人以上でその要件を満たすことができましたが、公開会社は、3名以上の取締役と、1人以上の監査役を選任する必要があります

そのため、株式譲渡制限会社の設立には、必要数の「取締役」や「監査役」といった役員の基準を満たしていない場合、新たに役員を選任することで公開会社の要件を満たさなければいけません。

「発行可能株式総数」の変更が必要

株式譲渡制限会社を公開会社にする場合は、発行可能株式総数の変更が必要な場合があります

株式譲渡制限会社は、株式の発行制限がなく、株式に関しては自由に株を発行することが可能です。
一方、公開会社は、発行可能株数に関して、「発行済株式総数の4倍まで」という制限が規定として予め設定されており、この規定を超える数の株を発行することができないとされています。
この制限は、株を増発することで多くの株式を取得した株主が極端に力を持ち、パワーバランスが崩れ、不利益を被る投資家が出る事態を防ぐことを目的とした制度です。

このようなことから、株式譲渡制限会社を公開会社に変更する際に、現在登記されている「発行可能株式総数」が「発行済株式総数の4倍」以上である場合、登記変更を行い株式数を調整し、公開会社の規定にあわせる必要があります。

④ メリットとデメリット

株式譲渡制限会社のメリット

以下が、株式譲渡制限会社の主要なメリットです。
株式譲渡制限会社のメリットは、外部の影響や手間・コストの低減を中心としたものであるとされます。

  1. 役員の選出や就任に関して手間がかかりにくい。
    株主譲渡制限会社は、取締役が最低1名であっても要件を満たすことが可能であり、任期を10年まで延長できるため、公開会社と比較して召集や就任に関する手間やコストを大幅に軽減することが可能です。
    役員の異動が少ない企業や世襲制が代々続いてる中小企業にとっては、無駄なコストを削減できるため魅力的な仕組みであるといえます。
  2. クーデターを防止できる。
    株式譲渡制限会社は、株主が自由に株の売買をすることできず、株式譲渡にも取締役会や株主総会の承認が必要であるため、会社にとって不都合な法人や個人に株式が渡りにくい仕組みとなっています。
    そのため、クーデターなどで会社が乗っ取られるリスクなどを軽減することが可能です。

  3. 株主総会の召集が簡易的である。
    公開会社では、株主総会を召集する際、原則的には2週間前までに書面やメールで株主にお通知しなければなりません。
    一方、株式譲渡制限会社では、株主総会の召集は総会の1週間前まで、口頭で通知も可能とされています。

株式譲渡制限会社のデメリット

以下が、株式譲渡制限会社における主要なデメリットです。

  1. 会社の風通しが悪くなる可能性がある。
    株式譲渡制限会社は、外部の影響を受けにくく、取締役の任期も10年まで延長が可能です。
    しかし、そのような構図は、内部の風通しが悪くなることで封建的な組織になりがちであったり、役員の入れ替わりが少ないことから会社が私物化したり、組織が腐敗するリスクを負う可能性が高くなります。
  2. 上場は不可能。
    「上場」は、企業にとって決してメリットばかりではない一方、知名度の向上や社会的信用の獲得、幅広い投資家から資金を集めることを可能とする大きなチャンスであるため、上場を目標に定め、日々奮闘する経営者は少なくありません。
    しかし、上場する場合、「公開会社」であることは絶対条件です。
    また、株式譲渡制限会社を公開会社に変更すること自体は可能ですが、現行の役員などにとって有利とはいえない要件が複数必要であるため、一概に公開会社への変更は容易でないことが考えられます。

⑤ まとめ

以上が、株式譲渡制限会社(非公開会社)の基礎的な概要です。

会社規模が小さい場合や、世襲が恒例化している会社の場合は、あまり気にする必要がないかもしれませんが、いざ上場を目指す場合などは、必然的に公開会社化する必要があります。

また、仮に上場を目指し、公開会社化しようとしても、株式譲渡制限会社であることの恩恵を被っている役員や株主が存在する場合、簡単に公開会社化することは難しいケースも十分に考えられます。

そのようなケースに直面した場合は、必ず経験やノウハウを持つ信頼できる専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

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この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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