誹謗中傷

誹謗中傷と批判の違いは?具体例・訴えられる基準もわかりやすく解説

誹謗中傷と批判はどう違うのでしょうか?

「違法・有害情報相談センター」の2022年の統計によると、誹謗中傷や悪質な投稿に関する相談件数は8年連続で5,000件を超えており、ネットやSNSの発達でこうした相談は増加しています。

また、2020年5月に女性プロレスラーの木村花さんが亡くなったことも大きな社会問題になり、法律改正などの動きが加速しました。

「誹謗中傷」とは相手の悪口を言ったり、名誉を損ねるような発言や書き込みをするなど、なんとなくのイメージはあるかもしれませんが、正確な意味や定義を理解している人は少ないのではないでしょうか?

この記事では、誹謗中傷の言葉の意味を丁寧に説明し、どのような行為が誹謗中傷に該当する可能性があるのかについて解説します。

なお、誹謗中傷に関する包括的な解説や対策方法については、以下の記事を参照してしてください。

「誹謗中傷」の意味・定義

「誹謗中傷」という言葉の意味

新語時事用語辞典によると、「誹謗中傷」とは次のように定義されています。

誹謗中傷とは、根拠のない悪口を言いふらして他人の名誉を損なう行いのことである。「誹謗」は「人の悪口を言う」ことであり、「中傷」は「根拠のない内容で人を貶める」ことである。厳密な意味は異なるが、どちらも悪意を持って他人を攻撃する行為である点は共通しており、類語の関係に位置づけられる。
【引用:誹謗中傷 – weblio

まとめると、「根拠のない悪口を言って他人の名誉を損なう」「人の悪口を言うこと」です。

「誹謗中傷」という単語には、一般的にイメージされるような「悪口を言う」「他人の名誉を傷つける」という意味合いの他に「根拠がない」という意味合いが含まれます。

この「根拠がない」というポイントは、「誹謗中傷」に該当するかどうかの有無や法律面から検討する場合、非常に重要な概念です。

 「誹謗中傷」と「批評」「批判」との違い

「誹謗中傷」と似た言葉として、「批評」や「批判」が挙げられます。

各言葉の違いは次の通りです。

誹謗中傷 根拠のない悪口で相手を傷つけること、相手の信用を下げること
批判
  • 評定・評価をすること
  • 人の言動などの欠点を指摘して、正すべきと論じること
批評 物事の是非や善悪などを指摘して、自分の評価を述べること

【参考:goo辞書

上表からも明らかですが、「批判」「批評」には相手の欠点や悪い点を指摘して、正そうとしたり、自分の評価を述べるものです。

一方、誹謗中傷は、「根拠のない悪口」を指し、根拠に基づいていない単なる悪口であることがわかります。

では誹謗中傷と批判の違いをさらに事例付きで紹介しましょう。

誹謗中傷に該当するケースとは?

誹謗中傷に該当する場合

「誹謗中傷」にはどのようなケースが該当するのでしょうか?

この場合、先に説明したような「批判」や「批評」と「誹謗中傷」の最大の違いである「根拠の有無」が重要です。

例えば、SNSや掲示板に書き込みが、正当な理由や根拠のない悪口や嫌がらせである場合、誹謗中傷とみなされる可能性が高くなります。

また、発信者自身が「正義感」や「正当性」があると思う内容であっても、根拠が薄かったり、思い違いだったりする場合は、誹謗中傷に該当してしまうことです。

さらに、誹謗中傷の場合は、根拠に乏しいだけでなく、相手を攻撃する言葉が該当します。

仮に事実であっても、相手の人格や容姿を否定する「悪口」は誹謗中傷だと考えられるでしょう。

具体例①相手の間違いを正す場合

相手が何かを間違えて、その間違いを正す場合、誹謗中傷と批判は次のように違います。

  • 誹謗中傷:「それは間違っているよ、これだから低能は困るよ。」
  • 批判:「それは間違っているよ、これを○○すれば解決するんじゃないのかな?」

間違いの指摘と、自分の意見を述べている場合は、批判に当たります。

相手の間違いを正す際に、いちいち相手をバカにしたり、人格等を否定する言葉を使っている場合、誹謗中傷に該当します。

また「低能」という言葉を使った場合、どこからどこまでが「低能」であるのかの定義は存在しません。

例えば、論文で「低能」が定義されていれば別ですが、「低能」というのは相対的な評価であるため、自分が「低能」だと思っても、他の人は「低能」だと思わない可能性もあります。

このように根拠が乏しく、侮辱や否定する言葉を使うと誹謗中傷やハラスメントに該当する可能性が高いです。

具体例②芸能人の不倫に対する意見を言う場合

芸能人の不倫のニュースを見て、自分の考えを言う場合、誹謗中傷と批判は次のように違います。

  • 誹謗中傷の場合:「不倫をするなんて許せない!こいつは死ぬべきだ。」
  • 批判の場合:「不倫をするなんて許せない!ちゃんと反省をすべきだ。」

「不倫をするのは許せない!ちゃんと反省をすべき」というのは、自分の考えを述べているに過ぎません。

一方で、「死ぬべきだ」というのは相手を罵る言葉であるため、誹謗中傷だと考えられるでしょう。

誹謗中傷に該当しない場合

SNSや掲示板での悪口であっても、誹謗中傷に該当しないケースは、主に2つ挙げられます。

1つ目は、根拠があり、批判や反対意見に該当する発言や書き込みです。

「誹謗中傷」と「批評」・「批判」を分ける最大のポイントは「根拠の有無」です。

このことから、根拠や正当な理由がある場合、誹謗中傷と似たようなニュアンスの発言や書き込みであっても、批判や批評、反対意見であるとみなされる可能性もあります。

誹謗中傷に該当しないケースの2つ目は、否定・肯定の両義にとれる発言や書き込みである場合です。

例えば、「Aという遊園地のスタッフの手際が悪くて真夏にゲートの前で長時間待たされた」という投稿があるとします。

この投稿は、一見遊園地に対する悪口のように捉えられがちです。

しかし、解釈の角度を変えてみると、「人気の遊園地であるため混雑していて並ばなければならなかった」という事実に基づく批判的な解釈も可能な投稿であるといえます。

根拠があれば誹謗中傷に該当しない?

ここまで誹謗中傷や批判の違いについて解説してきましたが、根拠があれば誹謗中傷に該当しないとは言い切れません。

ここまで説明してきたのはあくまでも言葉の意味というだけで、実際はネットの書き込みの内容が、「法律に違反しているかどうか?」で判断されるためです。

例えば、根拠があったとしても「誹謗中傷」に該当するケースがあります。

1つ目は、根拠のある事実であっても「公然の場」で、相手の評価を著しく下げる発言や書き込みを行った場合です。

この場合の「公然の場」は、公共の場はもちろん、不特定多数の人の目に触れる場所は全て該当すると認識してください。

つまり、「公然の場」にはSNSやネット掲示板などインターネット上の場も含まれるのです。

例えば、近隣住民とのトラブルが発生した場合、トラブルの内容自体は事実だとしても、実名などプライバシー情報を書き込んでしまった場合は、誹謗中傷に該当してしまいます。

2つ目は、常軌を逸した回数の悪口の発言や書き込みを行った場合です。

このケースとしては、例えばSNS上で「アホ」「バカ」という書き込みを繰り返し行った場合も誹謗中傷と判断される場合があります。

このように、事実や根拠の有無に関わらず、相手のプライバシーを侵害したり、過度な暴言を繰り返した場合は、誹謗中傷に該当する可能性があるため、充分に注意しましょう。

誹謗中傷で訴えられる基準

ここでは、誹謗中傷で訴えられる基準や、可能性がある行為について解説します。

また「訴えられる」といっても、罰則が科されるケースと、慰謝料を請求されるケースがあります。

逮捕や有罪や罰則が科されるケース 刑法に違反した場合
慰謝料を請求されるケース 民法に違反した場合

もちろん、どちらでも訴えられる可能性もあります。今回は罰則が科される場合を解説します。

名誉毀損罪

事実を示して、公然と人の社会的評価を低下させる行為をすると、名誉毀損罪に問われる可能性があります。

今まで解説してきた誹謗中傷とはやや違い、単なる悪口ではなく、具多的な事実を「公の場」で示して人の社会的評価を低下させた場合に該当します。

「具体的な事実」については、根拠や事実であるかどうかは問いません。

例えば、「Aさんは覚せい剤を使用している」「BさんはCさんと不倫している」といった具体的な内容で、事実かどうかは問われません。

名誉毀損罪に問われた場合、3年以下の懲役、もしくは禁固または50万円以下の罰金が科されます。

ただし、例外的に罪に問われないケースもあります。

  1. 公共の利害に関する事実
  2. その内容が公益を図るためにあったと認められること
  3. 事実の証明があったこと

例えば、犯罪の報道などは、治安など公共の利害に関する事実であるため、名誉毀損罪に該当しません。

侮辱罪

また、事実を示さなくても「公然と人を侮辱する」と侮辱罪に問われます。

ネットなど第三者も見られる場で、相手の悪口を言ったり、罵る行為が該当する可能性があるでしょう。

侮辱罪は、2020年7月から、拘留や科料といった罰則に1年以下の懲役もしくは禁固、もしくは30万円以下の罰金が追加され、厳罰化されました。

最悪懲役刑が科される可能性があります。

脅迫罪

脅迫罪はその名の通り、相手を脅迫した場合に問われる罪です。

脅迫罪が成立するのは、相手や相手の親族に対して「生命、身体、財産、自由、名誉などに危害を加える告知」をして脅迫した場合に該当します。

脅迫罪の場合は、公然でなくても成立します。

脅迫罪は、2年以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されることになります。

誹謗中傷や批判でよくある誤解

ネットの誹謗中傷や批判でよく誤解されている部分について回答します。

匿名なら罪にならない

たまに「匿名なら罪にならない」「相手に誰かわからない」と思っている人がいるようですが、大きな誤解です。

匿名であっても、誹謗中傷で逮捕されたり、訴えられたりする可能性はあります。

というのも、ネット上には投稿者の記録が残りますし、相手が裁判の手続きなどを行えばその情報を入手して加害者を訴えることも可能だからです。

有名人だから批判や誹謗中傷されるのは仕方がない

ネットで芸能人が誹謗中傷を受ける際に、「有名人だから仕方ない」「有名税」と言う人がいます。

「有名で顔が知られ知名度が高く、それで仕事をしているのだから、多少批判をされても仕方ない」という考え方のことです。

しかし、有名人であっても誹謗中傷で法律に違反すれば、逮捕や慰謝料を請求される可能性があります。

また、著名な相手に対して誹謗中傷を行い、イメージを低下させるなど仕事に影響を与えれば、その分の損失を損害賠償請求で受ける可能性もあります。

誹謗中傷を受けてもいいというのは、仕事や人種などに左右されず、存在しません。

まとめ

今回、この記事では、そもそもどのような発言や書き込みが誹謗中傷に該当するのかという基本的な事項について説明しました。

「根拠の有無」というクリアな定義は存在しますが、SNSやネット掲示板では、相手の気分を害する投稿は行わないことが賢明です。

なお、当メディアでは、以下の記事で誹謗中傷行為と抵触する可能性のある具体的な法律について詳しく解説しています。

また、スタートアップドライブでは、誹謗中傷に関して総合的に詳細を網羅した記事を公開しているので、誹謗中傷対策について、より詳しい詳細を知りたい方は下記の記事も是非併せてご覧ください。


この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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