ファイナンス

自己株式とは?自己株式の取得方法とその意義・目的を徹底解説!

「株式の売り買いについては知っているけど自己株式って何?」
「自分の株式なのに取得するって何?」

株式会社は、自己株式を取得したり消却することができますが、実は以前はこうした行為は認められていなかったものであり、現在でも様々な法規制がなされています。

株式に関する知識がある方であっても、「自己株式」についてはよく分からない、という方は多くいらっしゃいます。

そこで、今回は自己株式の取得方法や、そもそも自己株式とはどういうものであるのか考えていきましょう。

この記事を読めば、自己株式の運用や自己株式取得の利便性について改めて考えることができるようになりますよ!

1.自己株式とは?

自己株式とは、株式会社が期間の制限なく保有する、自己(自社)の株式をいいます(会社法(以下、法令名略)113条4項参照)。

そして、株式会社が自ら発行した株式を株主から取得することを自己株式の取得といいます。

株式会社が、自ら発行した株式を取得するということに違和感を覚える方もいるかもしれません。

しかし、株式会社が自ら発行した株式を取得し、保有することや、自己株式を再び譲渡することは、論理的に不可能というわけではありません。

株式会社が自己株式を取得する目的について詳しくは後ほど解説しますが、多くの場合、剰余金の配当と並んで、株主に金銭等を分配する手段として用いられています。

実務上も多く行われている自己株式の所得ですが、会社債権者の利益が害される・株主間に不平等が生じる・会社支配の公正を害する・相場操縦やインサイダー取引等の不公正な証券取引に用いられるという弊害が生じる恐れもあります。

そのために、実は、かつて自己株式の取得は、原則として禁止されていました。

しかし、現在の会社法では、自己株式の取得を禁止するのではなく、原則として認めつつ、弊害が生じないように様々な規制が設けられています。

2.自己株式を取得する目的

それでは、次に自己株式を取得する意義・目的についてみていきましょう。

株式会社が自己株式を取得する理由としては、主に次の4つの目的に分けられます。

①敵対的買収を防ぐため。

②株主へ金銭等を分配するため。

③株価をテコ入れするため。

④事業承継やM&Aの手段として用いるため。

以下、それぞれ具体的に説明します。

(1)敵対的買収を防ぐ

自己株式を取得することにより、敵対的買収を防ぐことができます。

これは、自己株式を取得することによって、自社と安定株主の合計持ち株数の比率が高まるためです。

持ち株数の比率が上がると、相対的に敵対的買収者の株式取得割合が下がることになります。

また、自己株式の取得によって、株式発行総数が減り、株価の上昇が生じるため、敵対的買収者は通常の相場よりも高い金額での買収を強いられます。

すなわち、敵対的買収を行うコストが上昇し、よって買収防衛策となり得るのです。

(2)株主への金銭等の分配

株式会社は、自らの発行した自己株式を有償で取得するという形を用いることによって、株主への財産の分配を行うことができます(155条)。

有償で取得することによって、自己の株式の売主である株主だけが、その保有株式と引換えに会社から財産の分配を受けることができることになります。

(3)株価のテコ入れ

自己の株式の取得は、株式の需要を調整して株価を高める効果もあります。

市場に流通する株式数が減少すると、1株あたりの価値が上昇します。

そうすると結果的に株価の上昇することになり、自社の株価を上げたい場合に自己株式の取得が行われます。

(4)事業承継やM&Aの手段として

非上場企業では、事業承継対策として自己株式取得が行われることがあります。

会社の事業を承継する後継者は、株式相続の際に、多額の相続税が課されます。

しかし、税金を支払う現金がないという状態では、事業承継を困難なものとし、資金源が課題となってしまいます。

そこで、会社が事業を承継する後継者から自己株式を有償取得することによって、株式を現金化し、相続税納税のための資金源とするのです。

また、M&Aの手段として自己株式取得が行われる場合もあります。

M&Aでは、買収企業との合意のもとに株式交換や会社分割などの株式を対価とし、その際には、新株発行もしくは発行済自己株式によって行われます。

M&Aの対価として自己株式を取得する利点は、新株発行のコストと手続きを削減できることになります。

また、自己株式取得による方法によれば、既存株主の利益も害することがありません。そのため、M&Aの手段として自己株取得がなされるのです。

(5)自己株式取得の注意点

このように自己株式は、様々な目的で行われ、とても便利な方法であるかのように思えます。

しかし、2つの注意点があります。

まず、自己株式を取得する以上、会社は、株式の売買代金として現金を支払う必要があります。

資金は、その時々の株価や取得する株式数によって異なりますが、多額の費用を要する場合も考えられます。

そのため、株価のテコ入れを目的として自己株取得を行ったとしても、会社の資金繰りに問題が生じてしまえば、元も子もありません。

そこで、自己株式取得に際して、十分な資金力や財政の安定性を確保した上で、計画的に行う必要があります。

次に、自己株式を取得したのであれば、処分もいつかしなければなりません。

自己株式の処分には、取締役会の決議などを行う必要があったりと煩雑な手続きが必要です。

そのため、安易に自己株式の取得を行うことはおすすめできません。

3.自己株式の取得方法

では、実際に自己株式の取得するためにはどのような方法があるのでしょうか。

会社法上では、様々な方法が用意されているものの、いずれもとても煩雑な規定となっています。

そこで今回は、自己株式の取得方法の中でオーソドックスな株主からの取得として、3つの方法について解説します。

また、その他の取得方法となる詳細な取得方法については、最後にまとめた表を参照してください。

(1)ミニ公開買付け

ミニ公開買付けとは、すべての株主に保有株式の売却機会を与える方法のことをいいます。

このミニ公開買付けが株主からの取得として原則的な方法とされています(156条から159条)。

ミニ公開買付けをするための方法は、まず、株主総会の決議(普通決議)により、取得株式数、取得と引換えに交付する金銭等の内容およびその総額、株式を取得することができる期限を取得枠の設定として定めることが必要です(156条1項)。

次に取得株式数、取得対価の内容、数もしくは額またはこれらの算定方法、取得対価の総額、取得の申込期日を定めなければなりません(157条1項)。

そして、株主間の公平を図るため、会社が株主との合意により自己の株式を有償取得する際には、原則として、各株主に対する平等の売却機会を与えなければなりません。

各株主に対する病棟の売却機会を保障するために、会社は、自己株式の取得の決定をしたことを各株主に対して決定内容の通知をしなければなりません。

そして、通知を受けた株主は、会社に対して、譲渡しようとする株式数を明示して、保有株式の譲渡の申込みをすることができます。

申込期日までに譲渡の申込みがあった株式数が会社が取得すると決定した株式数を超えるときは、会社は各申込株主から、申込株式数に応じて、按分比例の方式によって株式を買い取ることになります。

このプロセスが、金融商品取引法上の公開買付けにより自己株式を買い付ける手続の簡略版であるため、ミニ公開買付けと呼ばれているのです。

(2)特定株主からの取得

特定の株主から自己の株式を取得する場合には、会社法上、ミニ公開買付けの特則として160条から164条に規定が設けられています。

ミニ公開買付けが原則とされていますが、会社が株主間の対立を解消するために、対立する陣営の一方に属する株主から株式を買い取ろうとする場合のように、特定の株主から自己の株式を取得することが望まれる場合もあります。

会社法は、そのような場合にも特定株主からの取得を認めているものの、特定の株主が不法に優遇されることを防ぐために特に厳しい規制を設けています。

(3)市場取引等による取得

市場取引等による自己株式の取得については、さらに特則として165条に規定が設けられています。

上場会社の場合には、主にこの方法によることが多いため、特に重要な方法となるのでしっかり理解していきましょう。

株式会社が市場において行う取引または金融商品取引法による公開買付け(同法27条の22の2以下)の方法により自己の株式を取得する場合には、157条から160条までの規定が適用されません(165条1項)。

そのため、取締役会設置会社であっても156条1項の取得枠の範囲内で、自己株式宇の取得について決定権限を与えられた業務執行取締役の決定により、自己株式の取得を行うことができます。

また、158条による株主への通知または公告も不要です。

では、なぜ市場取引等による取得は、規制が緩やかなものなのでしょうか。

それは、金融商品取引法によって、株主への情報開示や株主の平等的取り扱いが保障されているからです。

また、市場において行う取引の場合は、市場の需要と供給の関係に基づいて形成される価格で株式が取得され、会社が特定の株主を不当に優遇するといった形で既存株主に不利益を与えるおそれが小さい点も挙げられます。

そのため、市場取引等による取得は、利便性の高い方法として用いられています。

4.自己株式を取得する際の制限

自己株式取得は、会社債権者の利益が害される・株主間に不平等が生じる・会社支配の公正を害する・相場操縦やインサイダー取引等の不公正な証券取引に用いられるという弊害の可能性があるという点から、会社法による制限が設けられています。

そこで、今回は、会社法上に設けられた制限について、手続き上の側面と財源的側面の2つに分けてみていきましょう。

(1)手続き上の制限

まず、自己株式を取得する場合には、株主総会の決議が必要です。

しかし、株主総会が必要といっても誰を売主として取得するかということによって株主総会の決議が種類が異なります。

株主総会の決議方法については、こちらの記事でも詳しく紹介しています!

株主総会と取締役会の違いとは?会社運営に必要な決議事項を総まとめ「何を株主総会で決めて、何を取締役会で決めたら良いの?」 「そもそもどんな違いがあるの?」 会社の意思決定をする際、株主総会決議...

ア 特定株主からの取得

まず、特定株主からの取得の場合、任意の株主を指定し、株主総会の特別決議が必要となります。

特別決議とは、出席議決権の3分の2以上の賛成を必要とし、通常の普通決議よりも条件が厳しい決議です。

特別決議で賛成数が規定を超えた場合にのみ、特定株主からの自己株式の取得が認められることになります。

他方で、対象外の株主自身は、会社に株式を買ってもらえないのでしょうか。

会社法では、対象外の株主にも、自身も自己株式種等の対象に含めるように要求する権利として売主追加請求権が認められています。

そのため、対象外となってしまった場合は、売主追加請求権で自己株式の売主としての立場になることができます。

次に特定株主からの取得の場合には、株主総会決議に加え、取締役会決議も必要です

取締役会決議では、取得株式数、種類、総額などを決議しなければなりません。

そして、取締役会決議で決定した内容については、株主への通知が必要となります。

イ 不特定多数の株主からの取得

次に不特定多数の株主からの取得の場合にも株主総会の決議が必要です。

しかし、特定株主からの取得の場合とは異なり、出席議決権の過半数の賛成という普通決議によって自己株式の取得を行うことができます。

具体的な手続きについては、前述したミニ公開買付けや市場取引等による取得を参照してください。

(2)財源確保

自己株式の取得を行うためには、手続き上の制限のほかに、財源的な規制も設けられています。

株式会社が、自己株式取得に必要な資金がないにもかかわらず、自己株式の取得を行うとすれば、会社内の財源の安定性が損なわれることになります。

会社債権者等に対して、債務の弁済を行うために必要な資金もなく、株主ばかりに財産の分配を行われる結果、会社債権者は債権回収ができなくなり、その会社の債権者になろうとする者がいなくなります。

このような会社の財政的安定性を害することがないように、自己株式取得の場合にも、自己株式取得日における分配可能額の範囲でのみ、自己株式の取得が認められています。

分配可能額とは、①最終事業年度末日における剰余金を計算し、②①の剰余金の額に最終事業年度末日後の資本取引による剰余金の額の変動を加味することにより、現在における剰余金の額を計算します。③②の余剰金の額を基礎に一定の調整をして、分配可能額を計算した額をいいます。

そのため、分配可能額を超える自己株式の取得をすることはできず、取得にあたっては一定以上の資金が必要となります。

まとめ

今までみてきたように自己株式の取得は様々な目的があったり、方法があったりと難しいものです。

今回は、触れていませんが、自己株式の取得には法律上の規制だけではなく、会計上の手続も必要となります。

しっかりと理解し、有効に用いることができるのであれば、とても利便性の高い自己株式の取得ですが、誤った手続きをし、違法を自己株式の取得を行ってしまえば、後々、株式をどうするのか、売却代金を払えなどの法的問題に発展してしまいます。

自己株式の取得はとても難しいものですので、自己株式の取得を考えている場合には、一度専門家に相談してみることをおすすめします。

スタートアップドライブでは、自己株式について会計上の側面からも解説予定ですので、定期的にチェックしてみてください!

取得事由 根拠規定 財源規制の適用 欠損填補責任
取得条項付株式の所得事由の発生による取得 155条1号 170条5項 465条1項5号
譲渡制限付株式の買取人に会社がなる場合 155条2号 461条1項1号 465条1項1号
株主との合意による有償取得 155条3号 461条1項2号3号 465条1項2号3号
取得請求権付株式の取得の請求に基づく取得 155条4号 166条1項但書 465条1項4号
全部取得条項付種類株式の全部取得 155条5号 461条1項4号 465条1項6号
相続人等に対する売渡請求に基づく買取り 155条6号 461条1項5号 465条1項7号
単元未満株式の買取請求に基づく買取り 155条7号 なし なし
所在不明株式の売却手続における買取り 155条8号 461条1項6号 465条1項8号
端数株式の売却手続における買取り 155条9号 461条1項7号 465条1項9号
事業の全部譲渡の際に譲渡会社から譲り受ける場合 155条10号 なし なし
合併の際に消滅会社から承継する場合 155条11号 なし なし
吸収分割をする会社から

承継する場合

155条12号 なし なし
無償取得の場合 155条13号

会則27条1号

なし なし
剰余金の配当または残余財産の分配として取得する場合 155条13号

会則27条2号

なし なし
組織の変更・合併等の

対価として取得する場合

155条13号

会則27条3号

なし なし
新株予約権の取得の対価として取得する場合 155条13号

会則27条4号

なし なし
株式買取請求に応じる場合 155条13号

会則27条5号

[注1]

464条/なし

なし
合併の際に消滅法人(会社以外)から承継する場合 155条13号

会則27条6号

なし なし
事業の全部譲渡の際に譲渡人(会社以外)から譲り受ける場合 155条13号

会則27条7号

なし なし
権利の実行に当たり目的達成のために必要不可欠の場合 155条13号

会則27条8号

なし なし

[注1]116条による株式買取請求に応じる場合は、事業執行者の責任として464条となる。他方、組織再編・事業譲渡等の際の株式買取請求(469条・785条・797条・806条)に応じる場合は、規制がない。

田中亘『会社法 第2版』(東京大学出版、2018年)より

 

ファイナンス/会計/税務に関する専門家相談窓口はこちら

スタートアップドライブでは、ファイナンス/会計/税務の相談に最適な専門家や法律事務所を無料で紹介します。
お電話で03-6206-1106(受付時間 9:00〜18:00(日・祝を除く))、
または24時間365日相談可能な以下のフォームよりお問い合わせください。






 


この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
ブロックを追加