「種類株って何?普通の株式との違いって?」
「どうやって発行するの?」
資金調達を考えている経営者の方で、「種類株」という言葉を聞いたことがある人はいませんか?
ベンチャーやスタートアップが資金調達する場合には、普通株式ではなく種類株式を発行することが一般的です。
とはいえ、種類株にはたくさんの種類があり、それぞれどのような違いがあるのかを理解できている人は少ないのではないでしょうか。
今回は、種類株式を発行する目的や、どのようなタイプのものがあるのか、また、どのような発行手続が必要なのかについて徹底的に解説します。
VCや投資家と交渉するためにも、種類株式に関する基礎知識をしっかりと身につけておきましょう!
目次
1.種類株式とは?
種類株式とは、株式会社が株式に付与する権利の内容が異なる2種以上の株式を発行した場合の各株式のことをいいます。
種類株式を発行する株式会社のことを種類株式発行会社といい、種類株式とは異なり特殊な権利が設定されていない株式のことを普通株式といいます。
少しややこしい表現なのですが、例えば譲渡制限株式だけを発行している場合には、「種類株式」とは呼ばず、普通株式と取得株式など2種類以上の株式を発行して初めて、各株式が「種類株式」と呼ばれます。
したがって、種類株式というのは、ある意味で相対的な表現であるということができるでしょう。
本来、株式会社と株主の間では株主平等の原則(会社法109条1項)がはたらき、株式会社は特定の株主の権利を与奪することは許されません。
しかし、株主の中には、経営権奪取を目的とする敵対的買収者もいれば、長期保有による配当の獲得を目的とする株主など、さまざまなニーズが混在しています。
そこで会社法は、株主の多様なニーズに配慮し、会社が一定の事項について内容の異なる株式を発行することを認めました(会社法108条)。
ただし、内容の異なる株式を発行する場合(または、発行済みの株式を種類株式に変更する場合)、既存株主にとっては不都合が生じるおそれもあります。
そのため会社法は、種類株式の発行に際してさまざまなルールを株式会社に課しています。
2.種類株式を発行するメリットとは?
それでは、株式会社が種類株式を発行するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
後述するように、種類株式には様々なタイプがあり、またその組み合わせを行うことも許されるため、会社が種類株式を発行する目的も様々です。
今回は、「スタートアップ企業がVCから出資を得る対価として種類株式を発行する」という前提で、発行にかかるメリットについて検討していきます。
スタートアップにおける種類株式の発行は、迅速な出資を受けつつ経営者による経営権の保持することが主な目的です。
意思決定のスピード感が求められるスタートアップ企業の場合、経営者が特別過半数(議決権の3分の2)以上の株式を保有することが望ましいとされています。
しかし、VCから受ける場合に対価として株式を発行する場合、出資額が大きくなるほどVCの持ち株比率が大きくなります。
通常、スタートアップは成長段階に応じて複数回の出資を受けるため、出資額と持ち株比率のバランスを適正に保たなければなりません。
そこで、普通株式ではなく種類株式を発行することにより、一定の出資額を確保しつつ経営者の支配権を確保することが資本戦略の基本となります。
3.種類株式のタイプ
現行会社法では、9タイプの種類株式が発行できます(会社法108条1項)。
会社法自体が比較的新しい法律(2005年制定)であるため、種類株式についてはアメリカなどの制度を参考に新しく導入されたものもあります。
各種類株式はユニークな特徴を有するものが多く、会社の規模や今後の軌道なども考慮に入れ、どのような組み合わせが必要なのかをしっかりと考えなければなりません。
今回は、9タイプすべての種類株式の内容と、具体的な利用方法についても紹介していきます。
(1)剰余金の配当・残余財産の分配
会社が株主に支払う余剰金の配当や、清算する際の残余財産の分配についての定めのある種類株式です。
特によく用いられるのが「(配当)優先株式」と呼ばれるもので、優先株式であれば他の株式に先んじて配当を受け取ることができます。
優先株式はこのメリットゆえに、1株当たりの株価が普通株式よりも高くなる傾向にあります。
そのため、VCから資金調達をするスタートアップとしては、普通株式ではなく優先株式を発行することにより、同じ発行数であってもより多くの資金を調達することができます。
すなわち、優先株の発行では、普通株式の発行によるよりも経営権の保持をしつつ資金調達をすることが可能です。
(2)議決権の制限
議決権制限株式とは、株主総会での議決権の行使について制限を設けた種類株式のことです。
たとえば、普通株式については株主総会における全ての議決事項について議決権を認め、一方、議決権制限株式については役員の専任決議(会社法329条1項)については議決権を認めない、とすることができます。
また、株主総会における一切の議決権を認めない、とする無議決権株式を発行することもできます。
議決権制限株式は、出資するVC側が経営に参加することを望まない場合に利用されることが多く、役員等を駐在させることによって成長を促すようなVCには好まれません。
実務上、株主総会における議決権を制限する代わりに、さきほど紹介した優先株式と組み合わせた株式を発行することが一般的ですが、これは慣行によるものであって法的義務があるわけではありません。
(3)譲渡制限
譲渡制限付種類株式とは、当該株式の譲渡に関しては会社の承認を必要とする、という制限をかけた種類株式のことをいいます。
株式に譲渡制限を設けることで、好ましくない買い手に株式が渡ることを防ぐことができ、よって経営の安定化を図ることが可能となります。
とはいえ、日本の未上場企業のほとんどは定款によって株式の譲渡制限をかけているため、あえて種類株式として発行するケースは稀だと思われます。
(4)取得請求権・取得条項
取得請求権付株式とは、株主からの一方的な請求によって株式を会社に取得させることができる株式のことで、プットオプションとも呼ばれます。
一方、取得条項付株式とは、一定の事由が発生した場合に、会社が株主の同意を得ることなく一方的に取得することができる条件のついた株式のことで、コールオプションとも呼ばれます。
こうしてみると、「いつでも売ることができる」プットオプションと比べて、「いつ買われるか解らない」コールオプションは株主にとって不利な種類株式のように思えるかもしれません。
しかし、取得対価として一定金額を定めておくことにより、VCとしては「最低限度納得のいく」価格で株式を会社に買い取らせることができます。
つまり、その株式については一種の「最低補償額」が設定されるものといってもよく、VCとしては安心して出資をすることができるようになります。
スタートアップはどうしても経営基盤が脆弱であり、株価が市場に大きく振り回されることも多いため、取得条項付株式はVCにとってある種の保険として機能します。
(5)全部取得条項
全部取得条項付株式とは、株主総会の決議によって、その種類の株式をすべて取得することができる株式のことをいいます(会社法171条1項)。
会社が全部取得条項付株式の全部を取得するためには、まず、株主総会の特別決議において、取得の対価や取得額・取得日等の事項を決定します。
決議された取得対価について不満のある株主は、裁判所に対して、取得価格の決定の申し立てをすることができます(172条1項)。
全部取得条項付株式が活用されるケースは多くはありませんが、少数株主を追い出す(キャッシュアウト)などの場合に用いられることがあります。
(6)拒否権
拒否権付株式とは、株主総会における決議がなされたとしても、この株式を保有する株主のみによって開かれる種類株主総会の同意がなければ決議が不成立となる株式のことをいいます。
経営陣や他株主に対して圧倒的な決定権を有することから、「黄金株」と呼ばれることもあります。
当然、拒否権付株式の価値は非常に高く、VCの持ち株比率を低く抑えたまま高い出資額を得ることも可能です。
ただし、会社にとって不都合な相手にこの黄金株が渡ってしまうと会社の意思決定に重大な影響を及ぼすことから、譲渡制限株式とセットで発行されることが一般的です。
(7)取締役等の専任権
(会社法上の)非公開会社は、この種類の株式の株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することができる株式を発行することができます。
例えば、A種類株式とB種類株式とを発行し、それぞれの種類株主総会で取締役を2名ずつ選任するといった運用ができます(これをクラス・ボーディングと呼びます)。
持ち株比率が少なくても役員を選任することができるようになり、多数派の株主によって少数派の取締役が解任されることを防ぐことができるため、VC側に好まれる種類株式といえます。
4.種類株式の活用例
以下からは、スタートアップがVCから出資を受ける際に、どのようにして種類株式を活用するのかを具体的に検討してみましょう。
ここでは、会社の設立にあたってVCから出資を受けるスタートアップ企業が、経営者向けにA株式を、VC向けにB株式を発行することとします。
経営者としてはVCになるべく多額の出資をさせつつVCの持ち株比率を抑え、VCとしては経営に対する意見を出しつつ自己の利益を最大化したいと考えるはずです。
そこで、A株式の種類株主総会で2人、B株式の種類株主総会で1人の取締役を専任するクラスボーディングを導入します。
このままではA種類株主総会から選出された経営者側の意見が必ず通ってしまうことになるため、B種類株式に対しては、一定の取締役会決議事項については拒否権を付与することも考えられます。
さらに、事業の失敗を憂慮するVCの出資を促すため、B種類株式にはA種類株式に優先して残余財産を分配するものに設定します。
しかし、これらのシステムは他の株主の参入を難しくするため、会社が大きくなっても上場することが難しくなることが考えられます。
そこで、A種類株式とB種類株式をいずれも、当該会社上場を条件とする取得条項付株式とし、取得の対価として普通株式を設定しておきます。
そうすることで、経営者とVCは普通株式を市場で売却し、売却益を得ることができます。
このように、スタートアップが種類株式を発行する場合には、その会社の今後の方針なども踏まえ、さまざまな種類株式を組み合わせたものを発行することがおすすめです。
5.種類株式を発行する手続
会社が種類株式を発行するためには、発行する株式の内容について定款で所定の事項を定めておく必要があります(会社法108条2項)。
なお、定款への記載は重要事項を除いては要綱のみで足り、種類株式を発行するまでの間に株主総会または取締役会で具体的な内容を決定することもできます。
また、既に発行している株式についても、定款を変更することで種類株式へ変更することもできます。
ただし、この場合には既存株主に損害を与えるおそれがあるため、法定の手続きをクリアしなければなりません。
例として、ある種類の株式を取得条項付株式に変更するためには、当該種類の全株主の同意が必要です(会社法111条1項)。
6.種類株式を発行する際の注意点
ここまでは、種類株式の概要や、具体的な活用方法などについて紹介してきました。
多くのスタートアップが種類株式を発行している意図も何となく解っていただけたことと思います。
それでは最後に、種類株式を発行する上で注意すべきポイントを2点説明します。
(1)目的に合った種類株式を発行する
種類株式を発行する場合には、まずは発行する目的を明確にしておきましょう。
これは種類株式だけにフォーカスした話ではなく、会社の意思決定に関するスタンスや、今後の成長戦略とも関わってくる話であるため、時間をかけて突き詰めて考える必要があります。
例えば、「絶対に特別過半数の経営権を維持したい!」と「なるべく早くイグジットして売却益を手にリタイアしたい!」という場合では、どのような種類株式を発行すべきなのかが全く異なります。
そのため、まずは自身の会社に対するスタンスをしっかりと見極めて、その上で必要な種類株式が何であるのかを考えるようにしましょう。
(2)法定手続きに注意する
種類株式を発行するためには、前もって定款の定めを置いたり株主総会の決議が必要となるなど、法定された手続きを正確に履行しなければなりません。
また、種類株式が発行されたのちに行われる種類株主総会に関する手続きなど、種類株式発行会社が負うべき法的義務は多岐にわたります。
法定された手続きを履行しなかった場合、株主総会の決議が無効となるなど、重大なインシデントに発展するおそれもあります。
そのため、種類株式の発行や運用にあたっては、弁護士などの専門家に適宜相談しながら行うことをおすすめします。
7.まとめ
最後に、種類株式のタイプを以下にまとめました。
名前(根拠条文※いずれも会社法108条1項) | 概要 |
剰余金の配当(1号) | 他の株式に先んじて配当を受け取る |
残余財産の配分(2号) | 他の株式に先んじて残余財産を受け取る |
議決権制限(3号) | 株主総会における議決権の行使に制限を設けることができる |
譲渡制限(4号) | 当該種類株式の譲渡には会社の承認を要する |
取得請求権(5号) | 株主からの請求によって当該種類株式を会社に取得させることができる |
取得条項(6号) | 一定の事由が発生した場合に、会社は株主の同意なくして当該株式を取得できる |
全部取得条項(7号) | 株主総会の決議によって、会社が当該種類株式のすべてを取得することができる |
拒否権(8号) | 株主総会決議のほかに、当該種類株式を有する株主の種類株主総会を要する |
役員選任権(9号) | 当該種類株式を有する者による種類株主総会で、取締役又は監査役を選任できる |
今回は、スタートアップが知っておくべき種類株式の基礎知識について紹介しました。
種類株式に関しては抑えておくべき知識も多く、完璧に理解することは難しいと思います。
しかし、上場企業の定款などを見ればわかるように、ある程度大きい規模の会社であればどこも種類株式を発行していることが普通です。
そのため、スタートアップの段階から種類株式を活用して資金調達をし、会社の更なる成長の足掛かりとしてみてはいかがでしょうか。
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