「会社を売却したいけど、一部の株主が反対する…」
「経営の意思決定を統一化したい!」
このようにお悩みの方はいませんか?
少数株主が株主決議に反対するような場合、個別に株式売却を持ちかけることも可能ですが、反対株主を強制的に排除する方法もあります。
そこで今回は、このスクイーズアウト(キャッシュアウト)について、意義から具体的な方法まで徹底的に解説しています。
この記事を読めば、スクイーズアウトに関する疑問はなくなりますよ!
目次
1.スクイーズアウトとは?
スクイーズアウトとは、企業の買収が行われる際、売り手の発行する株式の全てを、当該株式の株主の同意を得ることなく、金銭を対価として取得する行為をいいます。
株主の意思に反して株主を対象会社から退出させる(締め出す)という点で、「スクイーズアウト」または「締め出し」と呼ばれます。
まったく同じ意味をもつ言葉として「キャッシュアウト」もありますが、キャッシュアウトの場合、企業の保有する現金が不足する状態のことを指すこともあり、いずれの用い方をされているのかは文脈から判断するほかありません。
そのため本稿では、キャッシュアウトではなくスクイーズアウトの語を用いて以下から説明をしていきます。
スクイーズアウトは、株主をその意思に反して締め出すことは不当であるとしてかつては認められていませんでしたが、経営政策上の合理性が認識されるようになり、会社法によって幾つかの方法が整備されました。
2.スクイーズアウトを行う理由とは?
スタートアップやベンチャー企業の場合、投資家からの出資を受けるに従い、徐々に経営者の持株比率が低下していくことがあります。
しかし、株主が複数にわたり、経営者の持株比率が低下してしまうと、スピード感のある意思決定が難しくなってしまいます。
例えば、会社の譲渡や事業の一部を譲渡する場合には株主総会による決議が必要ですが、特定の株主が反対することにより、円滑な経営が行えないおそれが生じます。
また、M&Aにより会社を売却する場合に、その会社の株主構成が複雑な場合には、買取価格が下がってしまう可能性もあります。
このような場合、株主の同意があれば株式を買い取ることも可能ですが、株主が同意しない場合や、株主と連絡が取れないような場合には、個別にアプローチすることができません。
そこで、スクイーズアウトを行うことにより、少数株主を排除し、株主の意思に反して強制的に株式を取得することが可能です。
3.スクイーズアウトの方法
ここからは、会社法に規定のあるスクイーズアウトの方法について、具体的な内容を説明していきます。
現行の会社法上、スクイーズアウトの方法としては、①対象会社の株主総会の特別決議の承認を得て行うものと、②買収会社が対象会社の総株主の議決権の10分の9以上の議決権を有する場合に、対象会社の株主総会の決議を経ずに行うものがあります。
①の具体的な方法には、金銭を対価とする株式交換(略式以外のもの)、株式の併合よおび全部取得条項付種類株式の取得があり、②の具体的な方法には、金銭を対価とする略式株式交換および特別支配株主による株式等売渡請求があります。
以下から、それぞれ具体的に説明していきます。
(1)株式併合
株式の併合(会社法180条1項。以下、会社法を単に法とします)とは、数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式にすることです。
例えば、10株を1株に併合する場合などがこれにあたります。
スクイーズアウトとして株式併合を行う場合には、併合の割合の分母を大きくし、買収者以外の株主の保有する株式をすべて1株未満の端数とします。
そこで端数処理の手続き(法235条・法234条2項〜同5項)を行うことにより、会社は裁判所の許可を得て端数の合計数の株式を売却及び購入し、売買代金をもとの株主に交付します。
株式併合を行うためには、株主総会の特別決議により、併合の割合や効力発生日等を定める必要があります(法180条2項・法309条2項4号)。
また、取締役は、株主総会で株式の併合を必要とする理由を説明しなければなりません(法180条4項)。
A社は発行済株式総数100万株の株式会社であるところ、A社の代表取締役Xはそのうち80万株を保有しており、公開買付に応じなかったYらが残りの20万株を保有している。
そこで、Xは株主総会を召集し、A社における意思決定プロセスを一元化するべく少数株主を排除することを説明し、効力発生日をxx年xx月xx日とする、20万株を1株とする株式併合(併合の割合20万分の1)を行う旨の特別決議がなされた。
その結果、効力発生日において、Yらが各自保有する株式はいずれも1株未満の端数となった。
A社は裁判所の許可を得て端数の合計数(併合前の20万株分)を売却し、A社がこれを購入し、その売却代金をYらに支払った。
最終的に、A社における持株比率はXが100%となり、スクイーズアウトが完成する。
株主総会決議の方法のついては、以下の記事でも詳しく説明しています!
株主総会と取締役会の違いとは?会社運営に必要な決議事項を総まとめ
(2)全部取得条項付種類株式の取得
全部取得条項付種類株式とは、会社が定款に定めを置くことにより、当該種類株式について、会社が株主総会の決議によってその全部を取得することができる株式です(法108条1項7号)。
この全部取得条項付種類株式を全部取得(法171条)することにより、スクイーズアウトを実施することができます。
かつては主流の方法でしたが、現在では株式併合や株式交換が主流へと移り変わりつつあります。
①定款の変更をして、種類株式発行会社化する(法466条)
②発行済株式の全てを全部取得条項付株式とする旨の定款変更を行う
③全部取得条項付種類株式を取得する株主総会決議を行う(法171条・法309条2項3号)
④取得の対価(法171条1項1号2号)として、「全部取得条項付種類株式◯◯株(少数株主の保有する株式の総数)に対して、ほかの種類の株式1株を割り当てる」とする。
そうすると、少数株主の保有する株式はいずれも端数となるため、株式併合の場合と同様、端数処理を行なってスクイーズアウトを実現する。
種類株式については、こちらの記事でも詳しく説明しています!
(3)特別支配株主の株式等売渡請求
上二つの方法は株主総会による決議を必要としましたが、特別支配株主の株式等売渡請求の場合、株主総会による決議は不要です。
特別支配株主とは、株式会社の総株主の議決権の9割(定款で定めのある場合を除く)以上を有する者のことをいいます。
特別支配株主は、対象会社の他の株主の全員に対し、保有する株式の全部を自己に売り渡すように請求することができます(179条1項)。
この制度を、特別支配株主の株式等売渡請求といいます。
「株式等」となっているのは、対象会社が新株予約権を発行している場合には、株式に加えて新株予約権の売渡しも請求することができるためです。
本制度を利用できる特別支配株主は、会社だけではなく、人や会社以外の法人であってもかまいません。
特別支配株主の株式等売渡請求については、既存株主の利益を害するおそれが特に大きいことから、株主を保護する制度が充実しています。
以下からは、本制度を利用する際の手続きについて詳しく説明をしていきます。
#1:特別支配株主から対象会社への通知
特別支配株主が本制度を利用する場合、対象会社に対し、対価として交付する金銭の額またはその算定方法や売渡株式を取得する日などの一定の事項についてを通知します(法179条の2)。
#2:対象会社の承認
上通知を受けた対象会社が、これを承認します(法179条の3)。
ここで、対象会社が取締役会設置会社である場合には、この承認をするにあたって取締役会決議が必要です(法179条の3第3項)。
対象会社の取締役は、これらの承認の有無を決定するにあたっては、善管注意義務を尽くして売渡請求が対象会社の株主の利益となるかを判断しなければなりません。
なお、対象会社が取得の承認をしたのちは、特別支配株主は対象会社の承認なくして売渡請求の撤回をすることができません(法179条の6)。
#3:売渡株主等に対する通知・公告
対象会社は、取得日の20日前までに、売渡株主等に対し、売渡請求に関する所定の事項を通知しなければなりません(法179条の4第1項第1号)。
また、売渡株式の登録株式質権者及び売渡新株予約権の登録新株予約権者に対しても、株式等売渡請求の承認をした旨を通知する必要があります(同項第2号)。
これらの通知のうち、売渡株主に対するものについては、公開会社であっても公告をもって代えることはできません(同条第2項)。
#4:情報開示
対象会社は、株式等売渡請求に関する一定の事項を記載した書面等を、一定期間、本店に備え置き、売渡株主等から閲覧等請求があれば、これに応じる必要があります(法179条の5、会社法施行規則33条の7)。
この点、対価の相当性やその支払い見込みに関する事項については開示が義務付けられている点に特に注意が必要です(会社法施行規則33条の7第1号2号)。
#5:売渡株式の取得
株式等売渡請求をした特別支配株主は、取得日に、売渡株式等の全部を取得します(法179条の9第1項)。
ここで、取得した株式が譲渡制限株式の場合であっても、譲渡承認が擬制される(あったものとみなされる)ため、実際に譲渡承認を得る必要はありません(同条2項)。
(4)株式交換
株式交換とは、ある株式会社が、その発行済み株式の全てを他の会社に取得させることをいいます(法2条31号)。
その手続としては、当事会社間で株式交換契約を締結し(法767条、768条)、原則として、各当事会社は株主総会の承認を受ける必要があります(特別決議)。
株式交換では、株主総会の多数決による承認を得ることができれば、反対する株主の保有株式を含めて全ての株式を取得することができるため、金銭を対価とする株式交換を行うことによって、スクイーズアウトを実現することができます。
4.反対株主の対抗手段
スクイーズアウトは反対株主を排除する手段ではありますが、スクイーズアウトに反対する株主に一切の対抗手段がないわけではありません。
主に考えられる手段としては、以下のようなものがあります。
- 買取価格の不服申立て
- 株式併合の差止請求
- 株式併合の無効申立て
- 株主総会特別決議の無効申立て
- 株式買取請求
そうはいっても、これらの請求および申立はスクイーズアウトに重大な違法がある場合にのみ認められるもので、単にスクイーズアウトに反対するだけで裁判所が請求を認めるケースはほとんどありません。
法定手続を適切に履行すれば、実務上は申立てがなされることさえ希有であるといえるでしょう。
もっとも、反対株主にこれらの対抗手段があることを十分に留意し、手続きを行うようにしましょう。
5.任意買収の手段
スクイーズアウトは、これまでみてきたように、①対象会社の株主総会の特別決議の承認を得て行うものと、②買収会社が対象会社の総株主の議決権の10分の9以上の議決権を有する場合に、対象会社の株主総会の決議を経ずに行う方法に二分されます。
したがって、これらの要件を満たさない場合(例として、保有株式が51%である場合)には、まずは任意買収の手続きを行う必要があります。
このような場合、スクイーズアウトを行う前提として、TOBまたは任意買収が先立って行われます(TOBについては、非上場企業で行われることは非常にまれであるため、本項では任意買収を扱います)。
まず、どのスクイーズアウト方法を行なうのかを確認し、何株取得する必要があるかを確認します。
次に、買取相手を選定し、交渉を行います。
ここで、なるべく多くの株式を保有しており、かつ、迅速に買取に応じてくれるような株主から交渉を進めると良いでしょう。
買取価格の決定はもっとも大きな争点となりますが、買取価格が大きすぎると会社資金を圧迫し、逆に、小さすぎると株主の同意を得ることが難しくなってしまいます。
したがって、交渉にあたっては、対象会社の株式の適正価格を把握するとともに、交渉に長けた専門家に依頼するなどの準備が必要です。
6.スクイーズアウトを行う際の注意点
ここまで、スクイーズアウトの意義や目的、具体的な方法等について説明してきました。
最後に、スクイーズアウトを行う上で注意したいポイントを3つ紹介します。
スクイーズアウトを確実に成功させるためにも、これらのポイントに十分注意するようにしてください。
(1)任意買収を優先する
スクイーズアウトあくまで最終手段であることに留意し、なるべく任意での買取を優先するようにしましょう。
たしかに、スクイーズアウトによって少数株主を強制的に排除することは法律上認められた手段ではあります。
しかし、株主の側としては出資した会社から締め出されることに変わりはなく、のちのちまで遺恨を残してしまうおそれがあります。
したがって、任意での買収を進めるとともに、その交渉にあたっては、このままではやむなくスクイーズアウトを実施するほかないなどの事情を説明するようにしましょう。
(2)対象会社に合った手段を選択する
さきほど説明したようにスクイーズアウトには様々な方法があるため、それぞれの方法をしっかりと理解し、いずれが対象会社に一番適しているのかを見極める必要があります。
例えば親会社が子会社のスクイーズアウトを実施する場合には株式交換を用い、特別支配株主であれば株式等売渡請求を行い、それ以外であれば全部取得条項付種類株式の発行や株式併合を行うなどです。
また、種類株式を発行する場合には定款変更が必要になる場合もあるため、あらかじめ対象会社の定款や形態をしっかりと調査しておく必要があります。
(3)法定手続を遵守する
スクイーズアウトの実施にあたっては、会社法に定められた手続きを確実に履行しなければなりません。
もし手続きに重大な違法がある場合、反対株主からスクイーズアウトの差止めや無効請求がなされるリスクが増えてしまうためです。
手続きを法令や定款に従って適切に行うためにも、スクイーズアウトの実施にあたっては弁護士などの専門家に相談しながら行うことをおすすめします。
7.まとめ
今回は、少数株主を強制的に会社から排除することができるスクイーズアウトについて紹介してきました。
この記事では意思決定プロセスを一本化したいなどのスタートアップ・ベンチャー企業を主な対象として説明をしてきましたが、近年では上場廃止を決定した大企業などでも行われるケースが増加しています。
スクイーズアウトは近年になって法律上認められるようになったものであり、また、税制改革などの影響も大きく受けています。
そのため、スクイーズアウトの実施にあたっては、常に最新の情報に注意し、専門家と相談しながら行うようにしましょう。
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