人事・労務

インターンシップ制度とアルバイト契約は何が違うのか、労働契約に該当するのか検討してみた

1.はじめに

スタートアップ業界ではもはや当たり前になりつつあるインターンシップ制度。

本来は、職業選択や適性の見極めを目的として、学生に就業体験をさせることがインターンシップ制度の趣旨です。このような就業体験を通して、実際に作業をしている学生等に対して、労働法の規制が及ぶのかが問題となります。具体的には、報酬のあるインターンシップの場合には、残業をした場合に残業手当を支給しなければならないのか、職場での事故は労災扱いになるのかということです。

2.労働者とは

労働法の規制があるのかどうかについては、インターンシップ学生が、労働基準法9条に定めている「労働者」に該当するかどうかにかかっています。労働者であるということになれば、当然に労働法の規制が及ぶことになります。

労働基準法では、労働者について、

「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」

労働基準法第9条

と定められています。つまり、以下の要件に該当すれば労働者に該当することになります。

  • 会社の指揮命令下にある
  • 労働をする
  • その対価として賃金が支払われる

では、この要件について具体的に検討してみましょう。

会社の指揮命令下の労働

会社の指揮命令下にあるかどうかということは労働者性の判断にとって重要なことです。この指揮命令下にあるかどうかは、具体的には次のような事情を総合的に見て判断されることになります。

職場の上司などからの仕事のやり方や具体的な仕事の依頼に対して応諾する義務があるかどうか(仕事を拒むことができるかどうか)、勤務時間や勤務場所について会社からの指示がありそれに拘束されているかどうか、遅刻や早退をした場合に何らかの制裁がなされる余地があるかどうかなどです。

実態的に見て、労働をしているかどうかも問題となります。

例えば、単なる職場見学とか職場体験という程度では、労働をしているものと考えることはできません。もっとも、このようなインターンシップの場合、報酬が支払われることはありませんので、報酬の要件を欠くともいえるでしょう。
これに対して、その会社の従業員と同じように業務を実際に遂行している、一部でも担っているような場合には、実態として労働者に該当する可能性が高まります。

労働(労務の提供)

何かしら会社のために業務をすればそれは労務の提供として労働に該当する可能性は高いでしょう。そのため、この要件は回避することが実態として難しいと思われます。

給与(報酬)の有無

インターンシップの目的は職業選択や適性の見極めにありますから、実際には無報酬ということが多いようです。このように報酬がない場合には、上記の労働者性の要件を欠きますので、労働法の規制が及ぶことはないということになります。

行政解釈の一つとして、賃金は一般の労働者並みの金額であることが挙げられています。ただ、賃金がかなり低い金額である、例えば、最低賃金を下回るというだけで労働者性が否定されるわけではありません。
現実問題、インターンシップではなくとも最低賃金を下回る賃金しか受領していない労働者も存在していないとはいえないからです。
このような場合には、次に説明をする会社の指揮命令下における労働であるかどうかという実態から判断すべきことになると思われます。

ちなみに、厚生労働省もインターンを募集していて、そちらは無給の仕組みのようです。費用についても一切負担しない旨明記されています。

本研修の必要経費(交通費、滞在費、食事代、保険料等)については、原則として各自で負担することとなります(厚生労働省では負担いたしません。)。

https://www.mhlw.go.jp/general/saiyo/internship.html

4.労働契約の締結

下級審判例で、研修参加者と会社との間で労働契約が締結されたかどうかが問題となったものがあります。

その事例では、「研修参加者のすべてが採用されるわけではないとの前提での研修について、採用の前提となる研修を労働契約の締結と評価することはできない」と判断されました。
この判例に従えば、研修よりもさらに前の段階であるインターンシップについて、労働契約が締結されたと見ることはかなり困難であると思われますが、それでも、上記で説明をした実態から要件に照らして労働者性を判断すべきでしょう。

5.まとめ

インターンシップ学生に労働者性が認められた場合、その法的地位は、短期アルバイトと同じように取り扱うべきことになります。したがって、すべての労働法令が適用されて、その規制が及ぶことになります。

逆に労働者性が否定されれば労働法の規制は及びません。しかし、だからといって会社側は漫然とインターンシップ学生を受け入れればよいというものではありません。スタートアップにとっても、インターンを継続的に受け入れることは事業の推進においても重要であるはずです。
このような場合でも会社はインターンシップ学生に対して安全配慮義務を負いますから、この義務に違反してインターンシップ学生に損害が発生すれば、その賠償をする責任を負わなければなりません。

ABOUT ME
石原一樹
2013年社内弁護士としてヤフー株式会社に入社。その後、外資系法律事務所東京オフィスにて勤務し、2017年にスタートアップ・ITベンチャー企業に特化したリーガルサービスを提供するSeven Rich法律事務所(現 FAST法律事務所)を設立する。2022年6月には渥美坂井法律事務所パートナー弁護士に就任。

この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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