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フリーランスや個人事業主の方必見!法人成りのメリット・デメリットを専門家が解説

はじめに

フリーランスなどの個人事業主の方は、事業拡大に伴い、会社設立(法人化)を検討している方も多いのではないでしょうか。

これを「法人成り」と呼びますが、法人成りは、メリットも大きい一方で、デメリットを正確に把握しておかないと、規模や事業形態によってはむしろ費用が増えるなどのマイナスも大きくなります

弁護士や税理士に相談するにしても、判断を丸投げするのではなく、自社の経営の方向性をしっかりと検討して相談するべきです。

そこで今回は、「法人成り」する場合の、メリット・デメリットを専門家視点でわかりやすく解説します。

「法人成り」とは?

フリーランスなどの個人事業主として事業をしている場合、個人事業から法人を設立することを、一般的に「法人成り」と呼んでいます。

そもそも、これから起業をしようと考える場合、個人事業主になるか、法人を設立するかという選択肢があります。つまり、起業を考える場合においても、はじめから法人を設立する場合と、まずはフリーランスなどの個人事業でスタートし、あとで法人を設立するということもできる、と考えることもできるでしょう。

つまり、法人成りとは、個人事業主が会社設立をして、事業形態を「個人」から「法人」へ移行するということです。

以下では、法人成りのメリット・デメリットについて、詳しく見ていきましょう。

法人成りのメリット ①税金が有利になる

まずは、税負担の面で有利になることが最大のメリットと言えるでしょう。

【ポイント】

  • 一定以上の所得であれば、個人事業主よりも税負担が軽くなる。
  • 家族などに給与を支払うことにより、所得を分散できる。
  • 経営者自身に役員報酬を支払うことにより、給与所得控除が使える。
  • 経費を増やすことが可能になる。(退職金、社宅の費用、生命保険の費用など。)
  • 設立後、2期目までは、消費税の免税事業者となることができる。

以下、一つずつ解説していきます。

一定以上の所得であれば、個人事業主よりも税負担が軽くなる

法人の場合、一定以上の所得であれば、一般的に個人事業主よりも税負担が軽くなります。

個人の場合、その所得に対する税金、つまり「所得税」の計算において、所得が高くなるに従って税率も高くなる「累進税率」が適用されます。

累進課税とは、課税所得が増えるにしたがってより高い税率が適応になる課税方式で、多くの国で採用されている課税システムです

195万円以下に当たる部分:5%

195万円超~330万円以下に当たる部分:10%

330万円超~695万円以下に当たる部分:20%

695万円超~900万円以下に当たる部分:23%

900万円超~1,800万円以下に当たる部分:33%

18,000,000円超に当たる部分:40%

総合課税の税率|所得税の税率と計算方法について
https://keiei.freee.co.jp/articles/c0300050

一方、法人の場合、その所得に対する税金、つまり「法人税」は原則として一定である「比例税率」が適用されています

家族などに給与を支払うことにより、所得を分散できる

個人の場合には、その所得が全て、個人事業主のものとなりますが、法人の場合、家族などを役員にすることもできるようになります

そうすることにより、家族などに対しても給与を支払うことができるようになり、所得を分散することが可能になります

法人にとって、給与は経費となりますので、経費を増やすことができ、税金面の負担を軽くすることができます。

経営者自身に役員報酬を支払うことにより、給与所得控除が使える

経営者自身も法人から役員報酬を受け取るようにすれば、所得税の給与所得控除を使うことができ、税負担を軽くすることが可能となります

経費を増やすことが可能になる(退職金、社宅の費用、生命保険の費用など)

経費を増やすことで、税負担を軽くする方法は、個人事業主の場合より、法人の場合の方が、様々な選択肢があると考えることができます。

これには、退職金や生命保険料や社宅の費用なども含まれます。
個人の場合、事業主自身に対する退職金は必要経費として認められません。
一方、法人の場合、事業主に対する退職金も原則として法人の費用となります

また、個人で生命保険料を支払っても、年間で一定金額までの所得控除しか認められていません。
一方、法人では、事業主を被保険者とする生命保険に加入することにより、その保険料の一部又は全部を法人の費用とすることが可能となります

さらに、個人の場合には、自宅の家賃を必要経費とすることは認められていません。
一方、法人の場合、法人名義で事業主の自宅を借りることにより、社宅としてその家賃を法人の費用とすることができます

設立後、2期目までは、消費税の免税事業者となることができる

消費税についても大きなメリットがあります。

一般的に、売上が1,000万円未満の個人事業主や会社は消費税の納税が免除されています。
法人は「2期前の売上が1,000万円以上あれば消費税の納税義務が生じる」と定められています。

原則として設立1期目と2期目は「2期前の売上」がないため、消費税がかからない免税事業者となることができます。

法人成りのメリット ②法人化による信用増加や事業売却ができる

一方、税金面以外のメリットは何でしょうか。

法人化することで、信用が高まるなどのメリットがありますが、最大のメリットは、「事業売却をスムーズに行える」ということでしょう。

ポイント】

  • 取引先や金融機関からの信用が高まる。
  • 決算日を自由に決めることができる。
  • 従業員を社会保険に加入させることで会社が社会保険料の一部を負担することになり優秀な人材を確保しやすい。
  • 事業売却をスムーズに行うことができる。

事業をたたむことを考えた場合、後継者がいなければ、事業を清算しなければなりません。事業そのものが順調であれば、その事業を売却する選択肢もありますが、個人事業だと、資産や負債の名義の問題があり、事務手続きに大変な労力と時間を要します。

一方、法人であれば、株式を売却するだけですみ、複雑な問題が発生しません。株式の所有者が法人の所有者とされるため、法人名義となっている不動産、銀行口座、借入金などについては、全てそのままでよいことになります。このように、スムーズに事業売却できることがメリットとなります。

法人成りのデメリット

ここまでの解説を読んでいただくと、「法人成りしたほうがお得だ!」と多くの方が考えると思いますが、少し注意が必要です。

きちんとデメリットについても理解してきましょう。

【ポイント】

  • 所得が低い場合、個人事業主の場合よりも税負担が重くなってしまう場合がある。
  • 赤字の場合でも、法人住民税を支払わなければならない。
  • 設立時に費用がかかる。
  • 社会保険に加入しなければならないため、会社負担分の費用が増える。
  • 決算作業・法人税申告の事務負担が増加し、税理士報酬が増加する。

税金面でのデメリット

税金面でのデメリットは、メリットと逆になります。
所得が低い場合は、逆に税負担が大きくなってしまうため、注意が必要です。

また、法人の場合、所得がマイナスの赤字の場合でも、支払わなければならない税金があるため、こちらも注意が必要です。

設立時費用や社会保険料の費用増

また、設立時に費用がかかることも挙げられます。

さらに、個人事業主で従業員に給料を支払っている場合、社会保険の加入は任意ですが、法人の場合、たとえ社長1人であっても役員報酬を支給する際には社会保険への加入が義務付けられています。社会保険料は厚生年金と健康保険料の2つを会社と従業員が折半で負担する仕組みのため、会社の費用が増えることになるでしょう。

決算や税務申告などの事務コスト増

個人事業主であれば、毎年の確定申告を税理士に依頼せずに自分でやっている人も多いかもしれません。
しかし法人の場合、毎年会社の決算を組んで法人税申告書を作成する必要が生じます

法人税申告は専門性が高いため、通常、税理士に決算や税務申告作業を依頼することになります。
所得税の確定申告を既に税理士に依頼していた個人事業主の場合も、決算や法人税申告は税理士にとっても負担が大きくなることから税理士報酬が増えることになります。

まとめ

法人成りの場合には、メリット・デメリットは理解できましたか?

デメリットについては、事務を専門家に外部委託したり、節税方法を税理士に相談するなどして、解消可能なため、法人成りはオススメです

経営や事業の方向性を踏まえた上で、適切に決めることが重要になってきますが、この記事で解説したメリット・デメリットをしっかり理解し、前向きに検討してください。


この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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