皆さんは、「監査法人」についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?
「数字に強そう」、「エリート集団」、「年収が高そう」、「仕事が難しそう」など様々なイメージがあると思います。
馴染みのない方も多いと思いますが、「監査法人」は、企業が上場する際やM&Aに踏み切る際などは欠かすことのできない存在です。
今回、この記事では、監査法人の定義や目的、実際の業務内容についてわかりやすく解説していきます。
「監査法人」の基礎的な知識を身につけることで、ビジネスシーンだけでなく決算書・有価証券報告書などを読む際に大いに役立ちますよ!
目次
① 監査法人とは?
はじめに、執行役員の定義や目的、役割などついて説明していきます。
監査法人とは?
まず、監査法人の定義についての説明を行います。
監査法人とは、「会計監査を行う法人」を意味し、公認会計士が5人以上集まって設立した法人を意味します。
監査法人を理解する上でキーワードとなるポイントが2つあります。
1つ目は「会計監査」を行う点、もう一つは「法人」であるという点です。
会計監査
監査法人は、「会計監査」を行う法人です。
近年、経営の透明化や内部統制を目的として、「監査」というワードを新聞などのメディアで頻繁に見かけるようになりました。
監査とは「法的な問題がないか?」、「不正が発生していないか?」、「業務手続きに不備がないか?」などをチェックすることです。
また、「監査」とは「品質監査」、「業務監査」、「システム監査」、「環境監査」など複数存在する「監査」の総称であり、「会計監査」も数ある監査の一つであるといえます。
この場合、監査法人が担当する「監査」とは数ある監査の中でも「会計監査」とされる点が重要なポイントとなります。
なお、監査に関しては以下の記事で詳しく解説されているので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
法人
監査法人を理解する上で重要な2つ目のポイントは、法人であるという点です。
また、公認会計士法という法制度によって、監査法人を名乗るためには、5人以上の公認会計士が所属している必要があります。
「公認会計士」とは、国家資格を所有する会計・財務に関する専門知識を有する個人であり、監査法人とは、会計・財務に専門特化した法人なのです。
実際のところ、会計監査そのものは、公認会計士個人であっても可能です。
しかしながら、一定の規模以上の企業になると、個人での会計監査が事実上不可能であるという問題が発生し、そのような背景から、複数の公認会計士が組織として会計監査を遂行することができるように、1966年、公認会計士法が改正され監査法人が制度として確立しました。
監査法人の役割
次に、監査法人の主な役割である「会計監査」について説明します。
監査とは、前述した通り、企業活動における法的問題や不正の有無について確認する業務ですが、その中でも「会計監査」は、企業が作成した決算書や財務諸表をチェックする業務です。
具体的には、決算書や財務諸表を、証券取引法などの会計制度に関する法令に基づいて、適正な処理がなされているか否かのチェックを行い、監査内容に基づいた意見書や報告書を提出します。
このような、会計監査を行う公認会計士(個人)や監査法人(法人)は、企業内で「会計監査人」と位置付けられるポジションです。
国内では、まだメジャーな会社の機関体系とはいえない組織体系に「委員会設置会社」と呼ばれる経営や評価の透明性を重視した機関体系があります。
委員会設置会社は、会計監査人を常時必要とする会社体系です。
監査法人の目的
監査法人が行う「会計監査」では、決算書などのチェックが行われることは説明しましたが、なぜこのようなチェックが必要になるのでしょうか?
それは、決算書・財務諸表の信頼性を担保し、投資家や債権者を保護するためです。
企業への融資を行う銀行などの債権者、株式を保有する株主などの投資家は、自分たちの出資先の状況を決算書や財務諸表を通して確認します。
ただし、企業側が作成したそのような書類に、誤りや粉飾決算などの致命的な過失があったとしても、投資家や債権者は自らそれを確認することはできません。
そこで、監査法人や公認会計士などが第三者として決算書・財務諸表を正しくチェックし、信頼性を担保することで、投資家や債権者が安心して取引ができるような仕組みが構築されているのです。
つまり、監査法人の目的は、企業の会計における信頼性・正確性を担保し出資者を保護することで、企業の社会的価値の維持や向上に貢献することであるといえます。
② 監査法人の業務内容
監査法人は、企業の決算書・財務諸表をチェックし、出資者を保護することが主な役割であることをは前章で説明しました。
ここからは、監査法人の具体的な業務について解説していきます。
監査法人の主要な業務は、以下の3種類であるとされています。
- 監査証明業務
- 非監査業務
- コンサルティング業務
監査法人は、単に書類のチェックをするだけでなく、様々な角度から企業のバックアップを行っているのです。
監査証明業務
監査証明業務は、監査法人のメインとなる業務であり、決算書・財務諸表のチェックを行う業務です。
監査証明業務は、企業だけでなく、学校法人や地方公共団体など多種多様な組織を対象としており、この業務は、決算書や財務諸表に関する法的観点や、不正の有無を第三者として確認する業務となっています。
監査証明業務の主な業務内容は次の2つです。
予備調査(ショートレビュー)
予備調査(ショートレビュー)とは、監査契約を締結する前の顧客を事前に調査する業務であり、この調査の目的は、監査契約を締結するにあたり、クライアントの現行の体制をチェックし、監査契約を締結する上で問題がないか判断することです。
具体的には、事業内容や組織体制、決算書や株主などを調査し、監査契約締結の有無を判定します。
また、監査契約を締結することが妥当であると判断された場合、監査法人は、調査計画を組み立て、監査チームの構成や、監査する範囲や時期などについて計画を策定します。
四半期レビュー・期末監査
監査契約を提携し、計画を策定した後の監査証明業務は、四半期レビューと期末調査です。
証券取引所に上場した会社などは、四半期ごとに投資家や債権者向けに報告書を開示することが、金融商品取引法によって義務付けられています。
四半期とは企業によって異なりますが、12月が決算期の企業を例とすると、3月、6月、9月、12月の年4回であり、この時期に合わせて情報を開示する必要があるため、四半期報告書などの作成しなければなりません。
このような書類は外部へ開示する資料として監査法人による定められた基準に基づいた確認が行なわれ、確認後は監査報告書や意見書が企業宛に発行されます。
非監査業務
非監査業務とは、監査以外に監査法人によって行われる業務です。
いくつかの種類の仕事が非監査に該当しますが、今回は、その中でも代表的な「株式公開(IPO)支援業務」、「M&A(吸収合併)アドバイザリー業務」、「IFRS導入支援業務」について解説します。
株式公開(IPO)支援業務
企業は株式市場への上場を目指し、上場審査の手続きに入る前に会計監査を受けなければなりません。
新規上場手続きにおける監査法人の役割は非常に重要であり、上場審査通過後に公開される「新規上場会社概要」にも「監査人」として監査法人の法人名が必ず記載されます。
このように企業が上場を目指す場合、証券取引所から上場審査基準として「会計監査」が求められ、現金・手形・有価証券などについて監査した資料が上場審査の際に必要となります。
監査法人は、審査対象となる財務諸表などの作成に関して、最新の会計基準を適用し会計処理を適正化を行います。
また、資料作成についての指導・助言を行い、企業側をサポートする業務もIPO支援業務の一つです。
M&A(吸収合併)買収監査
M&A買収監査は、監査法人がM&A前に行う買収対象企業の調査のことです。
この場合、監査法人は買収される側の企業に対して事業リスク、財務情報、事前情報との称号を行う調査を実施します。
これらの調査は、財務デュー・デリジェンス(財務精査)や、バリュエーション(企業価値評価)などと呼ばれる業務であり、買収価格の妥当性、会計処理に関する不正の有無などについて財務諸表などをもとに調査を行います。
なお、M&Aの一種である「合併」に関しては以下の記事で詳しく解説されているので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
https://legaltec.jp/merger_basic/
IFRS導入支援
IFRSとは国際会計基準のことを示し、現在多くの国や地域で採用されています。
近年は、国内の企業でも、IFRS基準に基づいた会計制度が導入したり、IFRS基準で記された財務諸表の公開などが行われています。
金融庁も企業のIFRS導入に関して積極的な姿勢を見せており、監査法人は、企業のIFRS式の会計処理に関する相談や、IFRSの導入支援業務を非監査業務として運営してしています。
なお、非監査業務は、公平性の観点などから、監査契約を締結しているクライアントには提供できないとされています。
コンサルティング業務(2項業務)
コンサルティング業務は、監査法人が会計や財務に関する専門知識を活かして、企業の経営に関する相談に応じる業務です。
この業務は、財務戦略や経営戦略に関する問題に対してアドバイスに応じる業務であり、公認会計士法第2条第2項に則って行う業務であるため「2項業務」とも名付けられています。
また、注意しなければいけない点は、非監査業務と同様、コンサルティング業務は、公正性の観点などから監査契約中のクライアントには提供できない点です。
③ 監査法人の2つの種類
監査法人には「無限責任監査法人」と「有限責任監査法人」があります。
両者の違いは、監査上の過失によって損害賠償が求められた場合、社員がどこまで責任を負うかを定めた制度である点です。
無限責任監査法人
無限責任監査法人とは、監査法人に所属する全社員が無限連帯責任を負う監査法人のことを示します。
無限連帯責任とは、例えば監査ミスにより損害賠償責任が生じた際、法人が所有する資産で賠償金が賄いきれない場合は、社員の個人資産で賠償するべきとした制度です。
また、この制度のもとでは、各社員個人の過失の有無や、ミスへの関与に関係なく全社員が無限責任を負うとされています。
かなりシビアな制度であると思われますが、公認会計士法34条により、監査法人の社員は原則無限責任を負うとされています。
有限責任監査法人
有限責任監査法人とは、上記のように監査法人の社員が無限責任を負わないことが認められている法人です。
有限責任監査法人は、責任の範囲が有限である一方、監査ミスによる損害賠償責任が発生した場合、該当者は責任を負うという制度です。
具体的な責任の範囲については以下の通りです。
- 損害賠償が発生した場合、担当社員は事案に対して無限責任を負う。(個人資産で賠償する)
- 自身の担当外の事案で損害賠償責任が発生した場合、社員は各自の出資額を上限とした損害賠償責任を負う。
つまり、有限責任監査法人は、損害賠償請求をされた場合、対象の事案の担当者と、出資者が出資額に基づいた金銭的負担を負う制度になります。
なお、この制度は、2008年の公認会計士法改正により、制度化されました。
④ 4大監査法人
最後に、国内の監査法人として代表的な「4大監査法人」について触れていきます。
これらの監査法人はどの法人も国内トップクラスの業務収入や社員数を誇る有力な監査法人です。
この4つの監査法人は、先述した、上場審査通過後に公開される「新規上場会社概要」にも「監査人」として頻繁に登場します。
また、これらの監査法人は、約100社以上の上場会社をクライアントに持つ大手監査法人とされており、上場企業の監査業務に関しては、8割程度のシェアを有するとされています。
以下は、4大監査法人の簡単な概要です。
EY新日本有限責任監査法人
EY新日本有限責任監査法人は、日本で最初の有限責任監査法人であり、特に不動産・建設部門のクライアントに強みを持つとされています。
なお、監査手法は、欧米で開発されたシステムが採用されており、世界4大会計事務所の1つとされる「アーンスト・アンド・ヤング(EY)」と提携関係を結んでいる監査法人です。
有限責任監査法人トーマツ
有限責任監査法人トーマツは、1968年に設立された、日本最大級の伝統ある監査法人です。
金融・卸売・小売などの分野へ強みを持つとされており、三菱商事や三井物産など超大手商社の監査業務を担当していることでも有名です。
また、有限監査法人トーマツは、海外の大手監査法人「big4」の1つ、「デロイト・トウシュ・トーマツ」と提携関係にあります。
有限責任あずさ監査法人
有限責任あずさ監査法人は、2003年に設立し、2010年に有限責任へ移行した監査法人です。
大阪、名古屋、広島など比較的西側のエリアに強みを持ち、阪急阪神HDや中国電力の監査を担当しています。
また、あずさ監査法人は、トーマツと同様、世界の4大監査法人「Big4」の1つ、「KPMG」と提携関係にあります。
PwCあらた有限責任監査法人
PwCあらた有限責任監査法人は、2016年に有限責任監査法人に移行した法人であり、今回紹介したラインアップでは、最後に有限責任監査法人に移行したとされています。
東芝、トヨタ自動車などがクライアントであり、海外の大手会計事務所の「プライスウォーターハウスクーパース」が提携先です。
⑤ まとめ
監査法人に関する基礎的な解説は以上です。
監査法人は、大企業や上場企業にとっては大変重要なパートナーであるといえる存在であるといえます。
また、監査法人が「無限責任」「有限責任」などを負うこと分かる通り、監査法人側も自分たちが執行する監査に関しては、ミスが許されない重大な責務を負っています。
株式公開やM&Aの際は、会計監査だけでなく、内部統制や法的チェックが必然的に必要となるため会計監査以外についても慎重かつ十分な検討が必要です。。
スタートアップドライブでは、下記のように会社経営に役立つ記事を多数執筆しています。
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