判例

労働判例の読み方 「労働者性」【ミヤイチ本舗事件】 東京高裁平30.10.17判決(労判1202.121)

0.事案の概要

 運転代行会社Yの従業員2Xが、合理的な理由なく減らされた給与の支払いを求める部分もありますが、最も問題なのは、労働者ではない、として支払われなかった残業代について、自分たちは労働者である、としてその支払いを求めた事案です。1審判決は、労働者ではない、と判断しましたが、2審判決は、労働者である、と判断しました。

1.労働者性

 何をもって労働者と判断するのかという判断枠組みは、1審判決では示されています(概要、①指揮命令下にあること、②報酬が労務の対価であること)が、2審判決では示されていません。最高裁では未だに労働者性に関する定義が示されていない、と言われていますが、1審判決が示した定義・要件は、いわゆる「労働基準法研究会報告」に沿うものです。
 1審判決と2審判決で結論が逆になっている原因が、このような判断枠組みを示しているのかどうかによる、と思う人もいるでしょう。
 けれども、2審判決が労働者性を肯定した理由を見ると、2審判決も上記①②を念頭に判断を下していることがうかがわれます。少し詳しく見てみましょう。
 まず、「就業規則」と称する書面に署名押印させられ、時間的場所的拘束を受け、指示に従う義務を課される、等の事情から「被控訴人の包括的な指揮監督に服していた」と評価されています。これは、上記①に該当します。
 次に、このうちの具体的な業務内容や時間的拘束に関し、勤務シフトをYが一方的に作成し、従わないばあには最高で12万円の制裁が科されるなど、Xに「諾否の自由」がなかった、と評価しています。これは、上記①のうちの特に重要な部分について、補足説明するものです。
 次に、Xが他の代行運転者に比較したうえで(業務委託契約書を交わしていないこと、総務的な、自動車の駐車場からの移動、手土産の購入、シフト表作成、電話番、敗者手配などをしていたこと)、「代行運転に係る業務委託契約の範囲を超える業務」と認定しています。これも、上記①に関するもので、Xは事務所仕事が多く、時間的場所的拘束性がより強い、と補足説明してます。
 最後に、Xは歩合報酬だけでなく、職務手当や役職手当を受けていたこと、Xの決算報告書でXに対する支払いを給料手当として計上していること、を指摘しています。これは、上記②に該当します。
 このように、まだ最高裁の判断が示されていないものの、上記判断枠組みは一般的なルールとなっていること、したがって1審判決と2審判決の違いは、この判断枠組みの問題ではないこと、が理解できます。
 そうすると、1審判決と2審判決の違いがどこから生じたのか、ということが問題になります。
 これは、1審判決ではXを代行運転者の業務と大差がない、と位置付けている点が、根本的な違いであるように思われます。つまり、総務的な業務は誰でもできる付随的な業務であるかのように評価し、諸手当も付随的なものであるかのように評価しているのです。就業規則と称する書類の記載内容が、労基法の定めるものをほとんど含んでいない、等の形式的な点も指摘されていますが、労働法問題では、形式よりも実態が重要ですから、Xの業務実態が、代行運転者に近いか、異質か、という点の評価の違いがより根本的と考えられるのです。

2.賃確法6

 裁判所は、さらに、合理的な理由なく減らされた給与の支払いについて、賃確法6条を適用し、年5%ではなく、14.6%の遅延利息の支払いを命じました。
 これは、退職者の賃金が支払われることを確保するのが目的で、この高い利率を免れるのは、62項(「前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。」)が適用される場合です。
 この事案では、Yによる一部不払いの合理性がありませんので、62項の適用のないことに問題はありません。この適用が問題にされた事案自体が少ないのですが、例えば、賃金の支払いなどが裁判所で争われている場合が、62項の適用除外に該当するかどうかが争われた事例があり、(天変地異と随分印象が異なりますが)62項の適用(厳密には、下位規範である「厚生労働省令」の適用)を認めた裁判例があります。
 会社の実務上、退職時に未払の給与等があれば、非常に高利の遅延損害金が発生する、ということを知っておくべきでしょう。

3.実務上のポイント

 真逆の評価がされている割には、認定の根拠となった事実もさほど多くなく、これだけで評価するのは難しい状態ですが、それではどちらが合理的か、という問題です。
 その観点から敢えて深読みすれば、1審判決は、Xは役職手当をもらっているので、役員として労基法412項により残業代支給対象外である。仮にそうでなくても、X自らも運転手でありながら同時に運転手の面倒を見ているというだけで、他の運転手は労働者ではない(これ自体が適切かどうかはともかく)のに、Xだけ労働者というのはバランスが悪い、と感じたのかもしれません。Xが労働者なら他の運転手も労働者でなければ、バランスが悪いだろう、Xの方が、歩合給の他に諸手当ももらっているのだから、という発想です。
 けれども、代行運転者が労働者かどうかという議論は置いておいて、一般の労働者が所属する部門があり、他方で実際の業務の多くの部分を外注し、それが業務委託契約であるような形態の会社は、実際に存在するでしょう。さらにその場合、業務委託先を管理する従業員が実際に現場に行って業務を監督するなど、勤務場所や勤務時間が業務委託先とほぼ同じになっているような場合(ゼネコンの現場監督者など)もあるでしょう。同一労働同一賃金の規制もありますが、だからと言って、業務の外見だけから安易に同一視することにも問題があります。
 1審判決と2審判決のどちらが合理的かはともかく、両者を比較してみたことで、①勤務実態を重視する場合と、②公平性を重視する場合で、結論が異なり得ること等が見えてきました。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。その中から、特に気になる判例について、コメントします。

ABOUT ME
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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