判例

労働判例を読む「労災認定」【国・歳入徴収官神奈川労働局長(医療法人社団総生会)事件】東京地裁平29.1.31判決(労判1176.65)

0.事案の概要

 この裁判例は、行政庁による①労災の認定と、それに基づく②労働保険料の認定(値上げ)があるところ、②の認定を不服とする使用者がその取り消しを求めた事案で、裁判所が取り消しを認めなかった事案です。

1.原告適格

 まず、使用者が②の訴訟を提起することについて、保険料値上げの不利益を被る当事者であることから、訴訟を提起することを認めています。
 この点は、法に基づく行政の理念に照らし、特に問題ないところです。

2.請求棄却(ルール)

 けれども、以下のようなロジックで、労災認定の内容に一切触れることなく、使用者の請求を棄却しています。
 まず、ルールです(労判1176.83)。
 原則、後行の処分(②)の中で、先行の処分(①)の違法を取消事由として主張できないが、例外的に、両者が「同一の目的を達成するための連続した一連の手続きを構成し、相結合して初めて所定の法律効果を発揮する場合のように」「実体的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行の処分に留保されている」場合で、かつ、「先行の処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお先行の処分の効力を争おうとする者の手続的保障を図るべき特段の事情がある」場合には、主張できる、としました。
 このルール自体は、最高裁判決を引用しており、「違法性の承継」の問題と称される論点です。
 なお、先行の処分が無効・取消の場合には、当然に後行の処分に関する訴訟で主張可能、とも指摘しています。

3.請求棄却(あてはめ)

 次に、あてはめです。
 第1に、同一目的一連手続該当可能性はあるが、名宛人(労働者と使用者)も効果(保険金支払いと保険料額決定)も共に異なることなどから、「本来的な法律効果が後行の処分に留保」されていないと評価しています(労判1176.84)。
 第2に、使用者の手続的保障です(労判1176,84-85)。
 特に注目されるのは、①は労働者が名宛人であり、使用者が労災の認定を知らない場合もあり得るところ、実際に使用者が労災の認定を知り得なかった場合には、出訴期間経過後も例外的に訴訟提起できるという解釈を示し、使用者の手続的保障が確保されている、と結論付けています。
 第3に、①の早期安定の要請です(労判1176.84-85)。
 特に注目されるのは、労働者の立場です。①が取り消されるような事案であれば、労働者はそもそも労災を受け取るべき立場になかったことになります。そうであれば、労働者の立場を考慮する必要もなく、早期安定を考慮する必要もないのではないか、という疑問があったのですが、この点、裁判所は、労災の支給を受けた労働者が安心して資料などを散逸してしまい、後の訴訟で自分の立場を守るために十分反論できなくなる事態を指摘しています。
 第4に、その他の論点に関する使用者の主張に対する判断も示されています。

4.実務上のポイント

 この裁判例にどれだけ安定感があるのか、ということですが、使用者と労働者の両方の立場に配慮したルールと結果であって、相当程度の合理性が認められますので、それなりに安定感があると思われます。
 そこで、②労働保険料の値上がりが心配な使用者は、いくら値上がりするのかわからない段階ではありますが、①労災認定に対し、その出訴期間経過前に(例外はあるものの)訴訟を提起する必要があります。
 ところが、これを逆に見れば、使用者は①労災認定を争えることが明確になった、とも言えます。特に、①労災認定が民事訴訟(使用者の責任)に先行する場合、①労災認定が使用者にとって不利に影響を与えることが気になりますので、①労災認定自体を使用者の立場から争うことも、使用者として検討すべき選択肢になるでしょう。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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