人事・労務

インハウスローヤーとは?就職方法や業務内容、必須スキルを紹介!

近年、企業に務めるインハウスローヤー(企業内弁護士)として、活動の幅を広げる弁護士が増加傾向にあります。

以前までは、弁護士といえば離婚や相続、債権等に関する法律事務を主な業務とし、法律事務所に所属しているイメージが一般的でした。

しかし、ビジネスにおけるコンプライアンス意識の向上、および司法試験改革による合格者増加によって、企業に就職し活動する弁護士資格保有者が増えています。

また、インハウスローヤーは、海外での駐在業務に従事するなど、従来までの弁護士像とは大きく変化した働き方へと広がっています。

その一方で、まだまだインハウスローヤー人口は少ないため、就職や転職に関する情報が足りずにお困りの方もいらっしゃると思います。

そこで今回は、インハウスローヤーの現状や職務内容等について紹介したのち、就職のために必須となるスキル等についても解説します。

この記事を読めば、弁護士事務所に就職するという選択肢だけではなく、新たな選択肢としてインハウスローヤーを考えることができるようになりますよ。

1.インハウスローヤーとは?

インハウスローヤーとは、企業の社員や役員として業務を行う、いわゆる企業内弁護士のことをいいます。

インハウスローヤーが増加傾向にある理由は、弁護士側の理由と企業側の理由の2つがあります。

まず、弁護士側の理由として、企業の法務に特化し、弁護士であるとともに会社経営に参加したいという要望や安定した収入を得ること求める人が増加したという点があります。

他方、企業側の理由としては、リーガルサービスの増加や顧問弁護士に委託する場合よりコストの削減につながること、企業内の実情に精通した者であることが好ましいという点があります。

このような事情から、現在もなおインハウスローヤーの需要・供給はともに増加傾向にあり、今後より一層その数が増加していくと考えられています。

2.インハウスローヤーの現状は?

それでは次に、インハウスローヤーの現状について紹介します。

インハウスローヤー等によって運営されている団体である日本組織内弁護士協会(JILA)が統計等の資料を公開しているので、それらの資料を参考に見ていきましょう。

(1)インハウスローヤーの人数

現在どれほどの人がインハウスローヤーとして実際に活躍しているのでしょうか。

先ほど紹介した日本組織内弁護士協会によると、現在は2,418人(2019年6月時点)がインハウスローヤーとして活躍しています。

同時期に弁護士登録されている全弁護士が約4万人ということを考えると、インハウスローヤーは弁護士人口の約6%ということになります。

この数字を見ると、極めて少数の弁護士のみがインハウスローヤーであるように思えます。

しかし、10年前ではインハウスローヤーの人数はわずか428人(2010年6月時点)であり、約5倍以上増加していることがわかります。

さらに男女比でみると、女性が982人、男性が1436人であり、女性のさらなる活躍の場が増えているとみることもできます。

(2)インハウスローヤーの仕事内容

では次に、インハウスローヤーが企業内でどのような業務を担当するか見ていきましょう。

インハウスローヤーの業務は多岐に渡りますが、多くの場合、法務部に配属され、従来の法務部の主な仕事である定款の作成や各種契約書の作成や確認を業務内容としています。

しかし、これだけでは弁護士事務所に外注するのと対策ないため、インハウスローヤーの業務はこれだけでは終わりません。

インハウスローヤー独自の業務として、作成した契約書をもとに取引相手等と交渉・締結することや、会社株主に対する株主総会の準備等も行います。

さらにこれらの業務の他に今後の業務内容として注目すべき3つの業務が存在します。

#1:戦略法務

戦略法務とは、企業にとって大きな転換点ともなりうる大規模な経営判断のことをいいます。

たとえば、M&A(Mergers And Acquisitions)すなわち会社の合併や買収業務などがこれにあたります。

M&Aを行うには、法律の専門知識についてはもちろんのこと、企業理念や今後の経営方針など、会社内部への理解や経営戦略について理解している必要があります。

法律事務所へと外注する場合にはこうした内部的事情への理解が薄くなりがちなため、法律の専門家であるとともに内部事情や経営戦略についても知識があるインハウスローヤー独自の業務分野として戦略法務が注目されています。

#2:予防法務

予防法務とは、企業が法的紛争を避け、または発生した場合にもすみやかに解決できるように予防的に行う法務業務のことをいいます。

今日では企業のコンプライアンス意識が向上していることもあり、事業案の段階からすみやかに相談できるインハウスローヤー需要の増加の一因となっています。

具体的には、法的問題が起こりそうな場面についてインハウスローヤーが主体となり前もって取り決めを作成し、まずは起こらないように社員を教育するとともに、起こってしまった場合はマニュアルによってすみやかな解決へ導くための土台を作成します。

もちろん予防法務は対外的な問題についてのみならず、社内での法的相談やその問題解決等も行います。

例えば、ハラスメント問題や労働問題等などの典型的な社内問題について、これらの問題が発生しないようにするための取決めや、発生した場合の相談窓口・是正システムをインハウスローヤーが担うケースもあります。

#3:知的財産法関連

最後に、知的財産法に関連する業務です。

自社製品の特許の申請や、他者の技術を必要とした際の特許ライセンス契約の交渉・作成等をインハウスローヤーが行います。

知的財産法に関する業務はとても専門性が高く、インハウスローヤーだけではなく一般の弁護士であっても専門とすることはなかなかハードルが高い業務であるため、敬遠する弁護士も多くいるようです。

しかし、それに見合ったやりがいがあり、後で紹介する収入の面を加味すると、注目しなければなりません。

特にスタートアップ企業やベンチャー企業では知的財産それ自体が企業の財産といっても過言ではなく、特に知的財産に依存し国際競争の激しいIT分野での需要は今後も増加しつづけるでしょう。

(3)インハウスローヤーの収入

インハウスローヤーの収入は、各企業によって全く異なります。

日本組織内弁護士協会の調査によると、多くのインハウスローヤーは年収750万円から1000万円程度を報酬として受け取っているようです。

とはいえ、500万円程度の場合や3000万円を超える場合もあるなど、やはり就職する企業や業務内容によって大きなばらつきがあります。

このような年収差は、その企業における法務への重視度や、各インハウスローヤーの能力によって生じます。

そのため、どれほどの収入が見込めるかは一概にはいえず、求人内容や企業との契約次第となりますが、月給制や年俸制という安定した収入を得ることができることはインハウスローヤーの魅力的な部分であるといえるでしょう。

3.インハウスローヤーになる3つのメリット

ここまでは、インハウスローヤーの意義や業務内容について紹介してきました。

上述してきたように、インハウスローヤーは従来の弁護士業務とは一線を画する働き方であり、まだまだ人数も少ないため、働き方のイメージが沸きづらい面もあると思います。

そこで以下からは、インハウスローヤーになることで得られるメリットを紹介します。

どのようなメリットが得られるかは就職する企業にも依りますが、おおむね以下の3つを挙げることができるでしょう。

(1)ワークライフバランスの充実

インハウスローヤーのメリットとして、ワークライフバランスが良いことが挙げられます。

弁護士事務所に就職した場合の雇用関係は基本的に業務委託契約であり、弁護士事務所に就職したとしてもあくまで個々人が個人事業主であることが多いです。

したがって、良くも悪くも給与面等の待遇は自分の働き方に直結し、長時間労働になったり休日出勤も多くなる傾向があります。

一方、インハウスローヤーは会社の社員であって労働法の適用もあり、弁護士事務所勤務の弁護士のように過酷な労働環境となることが少ないようです。

会社によって異なりますが、土日祝休みであり残業等もないことが多く、仕事と私生活のバランスを保ちやすいため、私生活も重視したい!と考える人にとってインハウスローヤーという選択肢はとても魅力的です。

また、弁護士事務所に勤務している場合、心身ともに疲弊し緊張状態にある依頼者と直に接する機会が多いため、弁護士の側も疲弊してしまうケースもあります。

その点、インハウスローヤーは会社内部の者であって通常は緊急のスケジュールが入ることは少なく、精神的に安定した状態で仕事をすることができる点もワークライフバランスの向上につながります。

(2)安定した収入

収入の面に関してもインハウスローヤーは安定しており、不安定な場合が多い弁護士と対照的です。

弁護士は個人事業主であり、収入に関しても年俸制等の歩合制を給与体系としている弁護士事務所がほとんどです。

そのため、毎月の収入が安定せず、多くの収入を得るためには働き続けなければなりません。

他方、インハウスローヤーは給与が固定されていることが多いため、生活の基盤を安定させたい人には向いているといえるでしょう。

加えて、インハウスローヤーの場合には福利厚生等が保障され、会社によっては住宅補助等も出るため、単に明細上の給与以上の価値がある場合もあります。

(3)会社参与

仕事のやりがいという面でも大きなメリットがあります。

それは、会社の経営に対して参加することができるということです。

この点は、弁護士事務所に勤務しながら顧問弁護士として会社経営に直にアドバイスできる点ではあります。

しかし顧問弁護士は、結局のところ部外者であって、その会社以外の案件も並行して業務を行なっていく必要があります。

一方でインハウスローヤーは会社内部の者であり、会社側も安心してすべてを相談することができ、インハウスローヤー自身も会社のために集中して業務にあたることができます。

そのため、会社が抱える様々な業務内容を行いつつ、時には大きな仕事であるM&Aの準備をし、会社を支え続け、会社に頼られる存在となることができます。

会社への貢献が認められれば、役員への就任によってさらに会社経営へと深く携わることも可能です。

4.インハウスローヤーになる3つのデメリット

インハウスローヤーには通常の弁護士業務では得られないメリットがあることは以上に述べたとおりです。

しかしこれらのメリットはそのままデメリットとなることもあります。

以下からは、インハウスローヤーとなるデメリットについても紹介します。

(1)生活の固定化

インハウスローヤーにとってデメリットとなりうることは、生活が固定化されたものになることです。

もちろんこの点は人によってはメリットに感じられると思いますが、「せっかく弁護士になったのに、これじゃサラリーマンと変わらない」と不満に思う人も多いようです。

すなわち、勤務時間が固定され、自由にスケジュール管理をすることができないため、自由業として弁護士を志した人には大きなデメリットとなってしまいます。

(2)年収の減少

仮に弁護士事務所からインハウスローヤーに転職した場合、一時的に年収が減少する場合があります。

なぜなら、歩合制等で月に稼ぐことができる上限が存在しない弁護士事務所と比べ、インハウスローヤーは会社の社員であるため月収が固定されているからです。

インハウスローヤーも会社の昇給システムに組み込まれるため、大幅な増収を望むことは難しいかもしれません。

(3)キャリアの不明確性

インハウスローヤーが入社時に既に保有している弁護士資格は、少なくとも法律の能力に関して大きなメルクマールとして機能します。

しかし一方で、法的能力を客観的に担保する資格に弁護士資格以上のものはないといってもよく、人事評価につながる成果を出しづらい側面があります。

そのため、入社後にスキルアップをしたとしても、経営者に法的能力を適切に評価できる能力がなければ、昇進や年収の上昇につなげることができません。

したがって、一般社員と異なり、昇進について明確なビジョンを描くことができないことがあります。

最近では、経営学修士(MBA)や公認会計士資格等の資格を取得することによって、取り扱える業務の幅を増やしてキャリアアップするインハウスローヤーも増加しています。

5.インハウスローヤーになるためには?

インハウスローヤーになる方法は、司法試験合格後に司法修習を修了しすぐに新卒として就職する場合と、一度弁護士事務所に就職し、その後転職する場合とに分けられます。

それぞれの具体的な方法やメリットについて、確認していきましょう。

(1)新卒就職

新卒で就職する場合、日本弁護士連合会(日弁連)による紹介や、企業の応募に直接エントリーすることになります。

日本ではまだインハウスローヤー志望者向けの求人媒体が少ないため、弁護士向けの就職・転職に特化したエージェントへ依頼することもあります。

せっかく弁護士資格を取得したのに、弁護士事務所へ就職することなく新卒ですぐに会社に入ることはもったいない!と思うかもしれません。

しかし、新卒就職と転職とでは倍率に大きく差があり、また、長い目でみれば転職組よりtも就職時期が早いぶんだけキャリアアップも早くなることがあります。

そのため、いつかはインハウスローヤーになりたい、という気持ちがあれば、新卒で就職するということも十分選択肢となります。

また、一度新卒でインハウスローヤーとなって企業法務を内部で学んだのち、独立や弁護士事務所への転職によって企業法務に特化した弁護士になる、というキャリアプランもあります。

(2)弁護士事務所から転職

新卒で就職する以外にも、弁護士事務所に一度入所し、その後転職してインハウスローヤーになるという場合もあります。

しかし最初に述べたようにインハウスローヤーの需要・供給が高まっているため、求人倍率が高くなりがちな傾向にあります。

また、新卒であればOJTによって企業の求める人物像へと教育することができる一方、転職であれば即戦力として戦える他の弁護士にはないスキルが求められます。

転職する場合は、インハウスローヤーへ既に転職している弁護士からの紹介による方法や、転職エージェントに依頼する方法が採られることが一般的です。

6.インハウスローヤーに求められる4つの必須スキル

ここまでは、インハウスローヤーの概要や就職方法等について紹介してきました。

次に、インハウスローヤーに求められるスキルについて解説していきます。

将来的にインハウスローヤーとして活躍したい!と考えている方は、なるべく早い時期からこれらのスキルを身につけておくようにしましょう。

(1)専門性

インハウスローヤーは、会社の社員という身分ではありますが、司法試験に合格した弁護士として、誰よりも法律の専門家であり続けなければなりません。

そのため、入社後も常に法改正を追い、外国の最新判例動向をリサーチし、常に最前線で会社の法的問題を解決しなければなりません。

入社した会社や業界にもよりますが、民法をはじめ、特許法、独占禁止法、不正競争防止法、消費者法、PL法等様々な法律知識を武器としなければなりません。

また、各業界独自の知識を必要とする場合も多々あり、まさに会社を知識で支え、その専門性が会社の行く末に影響すると考えられます。

したがって、専門性がなければインハウスローヤーとは呼べず、高度でかつ最新の専門性を備えていなければなりません。

(2)事務処理能力

インハウスローヤーには書類の効率的な処理や適切な判断、文書作成能力等の事務処理能力が必要とされます。

インハウスローヤーは日々、多くの契約書の確認や新たな契約書の作成を業務内容とするため、高い事務処理能力を有し、効率的な事務処理をしなければなりません。

また、対外的な契約書や消費者に向けた文書、社内研修等の資料を作成する際には、誤解がなく、理解のしやすい文書作成が求められる等、法律文書とは異なる一般向けの文書作成能力も必要とされます。

(3)ビジネス能力

ひとりの会社員として、一般的なビジネス能力ももちろん必要です。

一般的なビジネスマナー等に加え、インハウスローヤーには、契約の締結や企業間の問題解決、M&Aの交渉のため高い交渉力が必須です。

契約締結の際には、会社にとって可能な限り利益となる契約としなければならないのですから、論理的で契約の有用性をアピールしなければなりません。

企業間の問題が発生した場合においても、相手方にもインハウスローヤーがいる場合もあり、迅速な解決のために和解交渉をしなければならないこともあります。

また、会社運営にとって最も適切な法的アドバイスをするため経営に関する知識やビジネス的な感覚を要求されます。

ただ法的知識を用いて相談を受けるのであれば法律事務所へ外注すれば足りるため、会社にとってインハウスローヤーは不要です。

会社内部の実情に精通し、会社にとって最も有益な案の提示ができるからこそ、インハウスローヤーが必要とされるのです。

また、インハウスローヤーとして活躍するうちに役職等に就任することも考えられ、部下のマネジメントを行うこともあります。

そのため、多くの人とコミュニケーションを取り、適切な仕事分配をする等のマネジメント能力も必要です。

したがって、一般社員とは異なり、会社にとって法律の専門家であるとともに、ビジネス感覚に優れたビジネスマンであることが必要です。

(4)語学力

最後に、インハウスローヤーには語学力必要です。

インハウスローヤーは大きな決裁権を与えられることも多く、時には海外へ赴き、会社のため交渉にあたることもあります。

昨今では英語圏のみならず、中国や韓国、さらには発展が注目される中東での仕事も増加しています。

海外進出に際しては、その地域の法令や慣習法を調べなければならず、海外の法律を理解できる程度の語学力が求められます。

もちろん、通常は会議等には通訳が同行するため、完全に外国語をマスターする必要まではありません。

しかし、インハウスローヤー自身が直接交渉にあたることができるということは、相手との信頼関係を築くうえでも欠かすことができません。

また、通訳は言語の専門家であって法律の専門家ではないため、法律用語やそのニュアンスをうまく翻訳することができず、後日大きなトラブルに発展するおそれがあります。

そのため、語学力があるということは、インハウスローヤーとしての真価を発揮するためにも必須のスキルであるといえるでしょう。

言語の習得には時間がかかるため、通勤通学時間を用いるなどして少しずつスキルアップを目指していきましょう。

7.まとめ

インハウスローヤーは、これからさらに需要が伸びる魅力的な仕事です。

日本企業だけではなく、海外から日本に進出したいと考えている外資系企業に就職することもできるなど、グローバルに活躍する弁護士となることもできます。

業務内容や収入も会社によってそれぞれ異なるため、自分と合った会社を見つけることができればとても充実した仕事ができます。

また、今回はインハウスローヤーの必須スキルを4つ紹介しましたが、これらは弁護士事務所に就職した場合や一般の会社員として働く場合にも必要とされるスキルであり、その4つのスキルが高い水準で求められるということに過ぎません。

したがって、インハウスローヤーという仕事も視野に入れたうえでスキルアップに励むようにしましょう。

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この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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