「発起人って何?」
「設立時取締役との違いは?」
会社の設立準備をしていて、このようにお悩みの方はいませんか?
会社設立に際しては、読み方すらわからない手続をしなければならず、起業を断念してしまおうと思ってしまうこともありますよね。
たしかに会社設立には法定された複雑な手続きを行わなければなりません。
今回は、その中でも会社設立時に登場する発起人(ほっきにん)について説明していきます。
会社設立段階でしか登場せず、一般的な言葉でもないため、どのような役割を持つ人であるかわからないということがスタートアップ時に多く言われます。
しかし、発起人は会社設立に必須であり、その選任手続きや役割、責任について正しく理解しておかなければ、設立後の会社に大きな不利益を招く結果となります。
そこで今回は、発起人の手続・役割・責任を理解し、似たような役割に思える設立時取締役との違いについても理解していきましょう。
また、発起人の開業準備手続等、法律的に問題となる可能性のある行為についても考えていきましょう。
この記事を読めば、適切な会社設立を開始することができるとともに、将来的な会社経営を円滑に進めることができるようになりますよ!
目次
1.発起人(ほっきにん)とは?

発起人は、後述するように、会社の設立に携わる人のことをいいます。
そこで、発起人の役割等を紹介する前に、まずは会社の設立方法について簡単にみていきましょう。
(1)会社の設立方法
株式会社の設立には、会社法上、発起設立と募集設立の2種類のやり方があります。
まず、発起設立とは、設立時に発行する株式の全部を発起人が引き受ける場合の会社の設立をいいます(会社法25条1項1号。以下、法令名省略。)。
次に募集設立とは、発起人が設立時発行株式の一部を引き受け、残部の設立時発行株式については、引き受ける者を募集する形式の会社設立をいいます(25条2項2号)。
これら2種類の方法による会社設立方法が会社法上用意されていますが、実務上は発起設立が圧倒的多数を占めています。
設立の手続きも発起設立であれば1日で終わりますが、募集設立の場合には、最低でも4日から5日、通常でも1週間から2週間程度は必要とされます。
会社設立手続については、こちらの記事でも詳しく紹介しています!
これから起業する人必見!起業して会社設立するときに必要な登記手続き完全まとめ
(2)発起人
発起人とは、株式会社の設立を企画する者をいいます。
ただし、法律上、発起人として定款に署名または記名押印した者だけが発起人とされます。
簡単にいえば、会社の設立を考えている者であって、定款という会社の設立時に必須な文書に署名または記名押印した者をいいます。
そして、発起人は、会社設立を企画し設立事務を行うとともに、会社が発行する株式を引き受けて出資を行い、会社成立時に株主となります。
では、設立を企画し、それに尽力したが定款に署名又または記名押印したかった場合どうなるのでしょうか。
判例上、その者は、法律上、発起人として扱われません(大判明治41年1月29日民録14輯22頁、大判大正3年3月12日民録20輯168頁)。
なぜなら、発起人には後で解説するようにさまざまな権限が認められ、民事責任を負う場合もあるため、誰が発起人であるか法律的に明確化することが必要であるからです。
また、発起人は、1人しかなれないというものではなく、複数人でもなることができます。
さらに、個人だけでなく、既に存在する会社も発起人となることができます。
たとえば、ある株式会社が子会社を設立する場合に、親会社が発起人となり、子会社の設立を企画したのであれば、親会社が子会社の発起人となります。
2.設立時取締役との違いは?

設立時取締役とは、会社の設立に際して取締役となる者をいいます(38条1項)。
この設立時取締役は発起人によって、出資の履行の完了後に選任されます。
つまり、発起人によって選ばれ、今後の会社運営を任された者をいいます。
そのため、一般的に考えられているような会社を設立した人が社長として取締役となるというわけではありません。
しかし、個人事業主から法人にする場合等において、多くの場合、発起人と設立時取締役が同じ者とされます。
3.発起人の権限・役割

発起人が設立中の会社のために行う可能性のある行為は、4つのパターンに分類することができます。
そして、発起人がその権限を濫用・悪用しないように法律上4つのパターンのいずれが権限として認められるか問題となります。
(1)設立を直接の目的とする行為
設立を直接の目的とする行為として分類されるのは、定款の作成(26条)、株式の引受け・払込みに関する行為(36条参照)、募集設立における創立総会の招集(65条1項)等がこれにあたります。
これらの行為はまさに発起人に求められるものであるため、発起人に権限があることについて法律上争いはありません。
むしろ、発起人の役割としてしなければならない行為であるといえます。
(3)設立のために必要な行為
設立のために必要な行為として分類されるのは、定款認証手数料・印紙税、払込取扱期間に支払う手数料・報酬、検査役の報酬、設立登記の登録免許税と、その他の設立費用に区別されます。
つまり、各種税金関係や手数料とその他の出費に細分化されます。
前者の各種出費については、発起人の権限に含まれるということが法律上明らかであるとされています(28条4号かっこ書、会社法施行規則5条等参照)。
一方、後者のそれ以外の出費(設立費用と呼ばれる)については定款への記載が必要です(28条4号)。
また、個別取引についての記載は不要ですが、総額(上限額)を定款に記載し、検査役の調査(33条)を受けることが必要とされています。
では、設立費用が定款記載の総額を超えてしまった場合にはどうなるのでしょうか。
判例では、設立費用につき、定款に記載された額の限度内において、発起人のした取引の効果が設立後の会社に帰属し、相手方は会社に対してのみ支払いを請求できる(大判昭和2年7月4日民集6巻428頁)としています。
そのため、発起人には相手方は請求できないと考えられます。
しかし、そのような問題が生じること自体が会社にとって不利益となるため、注意が必要であるといえます。
(3)財産引受け・開業準備行為
発起人の権限・役割が問題となるケースとして、財産引受と開業準備行為が挙げられます。
いずれも頻出する概念である一方、理解が難しいところでもあるので、それぞれ具体的に説明していきます。
#1:財産引受け
財産引受けとは、会社の設立後に特定の財産を譲り受ける契約をいいます。
財産引受けを行うためには、財産の種類ごとにその価額・譲渡人の氏名を定款に記載することが必要です(28条2号)。
さらに、検査役調査(33条)も原則として必要とされています。
仮に定款に記載のない財産引受けをした場合には、その財産引受けは無効となります(28条柱書)。
#2:開業準備行為
開業準備行為とは、会社が事業を始める準備として行う行為をいいます。
たとえば、会社成立後にすぐ仕入れや販売ルートを確立しておくことやあらかじめテナント等を用意することです。
この開業準備行為は、会社法に定めがないため問題となります。
開業準備行為を発起人が行った場合に、設立後の会社に報酬金を請求できるかということが問題となった場合もあります。
そこで判例は、「会社設立自体に必要な行為のほかは、発起人において開業準備行為といえどもこれをなしえず、ただ原始定款に記載されたその他厳重な法定要件を充たした財産引受けのみが例外的に許される」としました(最判昭和38年12月24日民集17巻12号1744頁)。
そのため、設立後の会社に開業準備行為の効果が帰属せず、また、相手方の会社は、報酬金の請求をすることができないということになります。
しかし、そうすると相手方の会社に著しい不利益を与えることになるため、民法117条1項を類推適用し、報酬支払請求を認めました(最判昭和33年10月24日民集12巻14号3228頁)。
(4)事業行為
事業行為とは、会社の設立後に予定している事業内容を行うことをいいます。
たとえば、商品の販売を目的として会社を設立しようとしている段階で、会社の名前で商品を販売することです。
一見、結局将来的に同じ事業を行うのであるから、発起人が行うことができるかのように思えます。
しかし、会社法で会社の設立手続を経た上で株式会社の設立を認めているのであって、手続完了前に事業行為を認めてしまえば、手続を定めた意味が失われます。
そのため、発起人は事業行為を行うことができず、また、行われたとしても設立後の会社にその効果は帰属しません。
それだけでなく、会社の設立前に会社名義で事業をすることを会社法は、過料の制裁をもって禁じています(979条1項)。
4.発起人の責任

発起人の責任は、会社法上、厳格に規定されています。
仮に違法行為や不正行為を行った場合、罰則(960条1項等)や過料(979条等)によって罰せられる場合もあるため要注意です。
(1)不足額支払義務
現物出資・財産引受けの目的財産の価額が定款に定めた価額に著しく不足するとき、発起人および設立時取締役は、会社に対して、連帯して、その不足額を支払う義務を負う(52条1項)とされています。
そのため、会社設立時に会社の資本金が足りない場合には、自ら会社に出資しなければならないことになります。
しかし、発起設立の場合には、2つの場合に責任が免除されます。
1つ目に検査役の調査を経たときです。
この場合には、財産の価額を検査役が調査し、決定しているため、それでもなお責任を負わせるのは不合理であるため免責の対象となります。
2つ目に当該発起人・設立時取締役が無過失(簡単にいえば、注意を怠っていないことをいいます)を証明したときです。
この場合も、価額が著しく不足することに対してしっかり注意していたにもかかわらず、不足してしまった場合にあたるので免責対象となります(52条2項)。
他方、募集設立の場合には、無過失の証明に免責が認められていません(103条1項)。
なぜなら、設立時募集株式の引受人は自衛能力が十分でないことから特にその保護が必要であると考えられているからです。
(2)仮装出資に対する責任
株式引受人が出資の履行を仮装した場合にも、会社に対し所定の額の金銭を支払う義務があります(52条の2第1項、102条の2第1項)。
仮装の出資に関与した発起人も同額の金銭の支払義務を負うとされています。
しかし、発起人の場合には注意を怠らなかったことを証明すれば免責されます(52条の2第2項、103条2項)。
(3)会社・第三者に対する責任
発起人・設立時取締役・設立時監査役は、その任務懈怠(にんむけたい)から会社に生じた損害を賠償する責任を負います(53条1項)。
この責任を免除するためには総株主の同意が必要とされます(55条)。
また、第三者に対し、職務を行うについて悪意・重過失(わざとであったり、重大な不注意を意味します)で損害を与えた場合にも賠償する責任を負います(53条2項)。
(4)疑似発起人の責任
疑似発起人(ぎじほっきにん)とは、募集設立において、募集の広告その他募集に関する書面に創立委員などとして自己の氏名及び会社の設立を賛助する旨を記載することを承諾した者をいいます。
本来的な発起人ではなく、ただ名前だけ使わせているということで疑似発起人と呼ばれています。
この疑似発起人は、名前を使用させているため、発起人でなくとも発起人とみなして会社法52条~56条、103条1項2項で責任を負うこととされています(103条4項)。
5.まとめ
これまで解説してきたように、通常は会社設立後に取締役となろうとするものが発起人となりますが、発起人として会社設立に向けてさまざまな準備をすることはとても大変なことです。
しかし、会社の設立にあたっては発起人は必要不可欠な存在であり、大きな権限や責任を負います。
そのため、まずは発起人がどのような役割を持ち、どの範囲での行為であれば行うことができるか理解することが必要です。
そして、発起人としてさまざまな手続を行っていきましょう。
発起人を決定することは、会社設立のまさに一歩目であり、将来的にも影響し続けるものです。
そのため、安易に発起人を決めるのではなく、誰を発起人とし、会社経営に参加させるかよく考えて決める必要があります。
発起人の役割等については細かく規定があり、違反には罰則等もあるため、スタートアップに際して、弁護士や司法書士などの専門家に相談してみることもお勧めします。
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