意匠とは、簡単にいうと「物品のデザインに対する権利を守る法律」です。自分が作った魅力的なデザイン・商品を他社が真似してお金儲けをしたりするのを防ぐことができます。
デザインや作品に対する権利として「著作権」という言葉もありますが、2つは実際には似て非なるものです。具体的な違いは本文内でご説明します。
この記事では、「意匠権が存在する理由」や「代表的な法律」、「出願方法」など、意匠に関する疑問を幅広く説明しています。
法律や、難しい文章が苦手という方のために、できるだけ簡単に説明してみたので、是非読んでみてくださいね。
目次
意匠権は何のために存在する?
まず、「意匠」は何のために存在するのでしょうか?特許庁のサイトにはこう書かれています。
魅力的なデザインは、市場での競争力を高める一方で、模倣の対象になり得ます。
意匠制度は、新しく創作された意匠を創作者の財産と位置付け、その保護と利用のルールについて定めることにより、意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としています。
【引用:意匠制度の概要 – 特許庁】
要約すると、「魅力的なデザインをする芸術家の権利をきちんと保護することで、産業の発展をうながすため」といったところでしょうか。
魅力的なデザインが生まれたとしても、それを真似したものを作る業者が現れたりすると、そのデザイナーの利益が少なくなったり、その分野で成功を納めることが難しくなります。
そういった事態を避けるために、意匠は存在しています。
意匠に関する代表的な法律を紹介
次に意匠に関する代表的な法律を紹介していきます。条文をそのまま読むとわかりにくいので、わかりやすい言葉に直してご説明します。
意匠法1条
この法律は、意匠の保護と利用を行うことで、意匠の創作を応援し、さらに、産業が発展することを目的として作られました。
先ほどの、特許庁の説明と似たようなことが書かれていますね。デザイナーの権利をきちんと保護することにより、創作を促進し、世の中に魅力的な商品や物品が増えることを目的として作られた法律のようです。
意匠法2条1項(定義等)
この法律でいう意匠とは、物品の「形状」「模様・色彩」「建築物の形状」など、または画像であって、視覚を通じて美しさを感じさせるもののことをいいます。
ここで具体的に、意匠が何を対象としているのか説明されています。ただ、この説明を呼んでもまだまだイメージが湧きにくいと思います。
- 形状→形のこと
- 模様、色彩→模様や色合いのこと
- 建築物の形状→建物の形のこと
- 画像→スマホのアイコン操作画面などのこと
「画像に関しては「著作権」じゃないの」と感じる方もいるかと思います。誰かが創作した画像に関しては著作権で保護されます。意匠で保護されるのは、スマホやATMなどのアイコン配置のデザインなど、工業的なものに限定されています。
日本でよく意匠が出願されるものについてはこちらで説明していますので、気になる方はそこまで読み飛ばしてくださいね。
意匠法3条(意匠登録の要件)
工業上利用できる意匠の創作をした者は、下記に当てはまる場合を除き、意匠登録を受けることができます。
- 意匠の登録をする前に日本国内外でメジャーになってしまった意匠
- 意匠の登録をする前に書籍やインターネットを通じて一般利用が可能になってしまった意匠
- ①と②に類似する意匠
意匠は基本的に「新しく生まれたデザイン」を保護します。すでに一般化してしまったデザインや「新規性」の無いものは認められません。
すでに一般化しており、多くの人や業者が利用していものに関しては、よほど個性的なデザインでない限り「このデザインは私のものだ」と主張しても認められないでしょう。
意匠法21条(存続期間)
意匠権の存続期間は意匠登録出願の日から25年で終了します。
説明の通り、25年間は法律で保護されますが、それ以降は誰かが真似したデザインを発表したりすることも可能になります。
2020年4月に改正された意匠法の内容とは?
意匠法は2020年に改正されています。「元々の法律は何となく知っていたが、改正内容を知らない」という方もいらっしゃるでしょう。
そういった方のために、改正内容をざっくりと紹介していきます。
物品に表示・記録されない画像も登録されるようになった
改正前は、「物品に記録・表示される画像」のみが意匠として認められていました。具体的には、スマホやタブレット、ATMなどの操作画面が当てはまります。
改正後は、それらに該当しない画像についても意匠権で保護されることになりました。
また、改正前の動産のみが意匠として保護されていましたが、改正後は不動産のデザインも保護されるようになりました。個性的な建築物や空間のデザインは法で保護すべきだという考えになります。
【参考:意匠法 – e-gov】
「組物」の意匠登録ができるようになった
改正によって、「組物の意匠登録」が出来るようになりました。具体的には、2つ以上の物品をセットで意匠登録できるようになりました。
例えば「机と椅子のセット」や「布団と枕のセット」など同時に使用することが想定されているものが該当します。※
これによって複数の物品を組み合わせることによって生まれる「美しさ」や「統一感」は意匠によって保護されるようになります。
※実際に意匠登録されるには「新規性があり、創作が容易でないもの」という条件があります。「机と椅子のセット」などは、あくまで「同時に使用することが想定されるもの」の例であり、登録が認められるかどうかは別問題となります。
関連意匠の登録出願期間が延長された
改正前の関連意匠出願可能期間は「本意症の出願から8か月程度(公報発行前まで)」でしたが、改正後は「本意症の出願日から10年経過日前」となりました。
【意匠法 – 特許法 をもとに編集】
また、「関連意匠にのみ似ている関連意匠」の登録も認められました。
- A本意匠
- Aに似ている関連意匠B
- Aには似ていないが、Bに似ている関連意匠C
わかりやすくいうと「関連意匠の関連意匠」も認められるようになったということです。
意匠権の存続期間が20年から25年になった
意匠権の存続期間は、「登録日から20年間」とされていました。しかし、改正後は「出願日から25年」となりました。これにより、意匠権の存続期間は更に長くなったということです。
平成18年の改正では15年間から20年間に延長されていますが、今回の改正で起算日が前倒しになる上に、存続期間が5年間延長されたということになります。
間接的な侵害の取り締まり強化
間接的な手段を用いて意匠権を侵害することを阻止するために、取り締まりが強化されました。
近年、模倣手口が巧妙化することにより、目的とする物品を分割して輸入するなどの手口が発見されています。
その意匠が登録意匠又はこれに類似する意匠であること及びその物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等がその意匠の実施に用いられることを知りながら、業として行う次のいずれかに該当する行為
【引用:意匠法38条2号(侵害とみなす行為)】
わかりやすく言い直すと、「それが意匠登録されていることを知りながら、間接的な方法を用いて輸入したりするのはダメですよ」ということになります。
意匠と著作権の違い
意匠も著作権も、「誰かが作った物を保護する権利」という点で一致しています。著作権についてはなんとなく理解しているものの、「意匠とどう違うのか」を説明できない人も多いでしょう。
ここでは意匠と著作権の違いについて説明します。
①意匠は工業上利用できるものに限る
第一に違うのは、「工業上利用できるものに限る」という点です。例えば実用品であったり、工場で大量生産できたりするものでなければ意匠として認められません。
わかりやすいものでいうと、電化製品や車が該当します。また、新規性のないデザインは意匠として認められないため、「新しいデザインである」「ユニークなデザインである」ことが特徴です。
②意匠は物品の形状・模様・デザインなどに限る
意匠法第2条1項でも説明しましたが、物品の「形状」「模様・色彩」「建築物の形状」が保護の対象になります。
「文章」や「絵画」、「楽曲」など、文化に関係する一点物の権利は意匠では保護されません。代わりにそれらの芸術は著作権で保護されることになります。
ここはある意味、「意匠」と「著作権」の違いが一番わかるポイントでもあります。
③意匠は新規性があり、創作が容易でないもの
「新規性があり創作が容易でないもの」というのも意匠で保護される条件になっています。「昔から特に形状や模様が変わらないもの」ってありますよね。
例えば「ペットボトル」。多少の違いはあれど、昔からほとんどデザインや形状は変わりません。このままでは意匠は認められにくいですが、例えば「持ち手のついたペットボトル」の場合はどうでしょうか。この場合、「新規性」「創作が容易でないもの」両方を満たすことになります。
抽象的ではありますが、「誰でも思いつくようなデザイン」や「すでにあるものを組み合わせただけのデザイン」などは意匠で認められにくなります。
一方、著作権の場合、「世間にどれだけ認知されているか」や「新規性があるか」はあまり関係ありません。
意匠の種類
意匠にもいくつかの種類があります。
部分意匠
部分意匠とは、その名の通り「物品の一部分」を保護するものです。代表的な例でいうと、車のミラーやドアなどの一部分を意匠登録するなどです。
「何のために一部分を意匠登録するの?ミラーやドアだけじゃなくて、車ごと意匠登録すればいいんじゃないの?」とお思いの方もいるでしょう。
例えばですが、ミラーやドアのデザインは思いっきり真似ているのに、車全体として見ると似ていない車を作られてしまったらどうでしょう。巧妙な手口で権利を侵害されてしまうかもしれません。
そういう点を考慮した場合、物品全体で意匠登録するより、部品ごとに登録した場合の方が権利を侵害されにくいというメリットがあります。
組み物の意匠
組み物の意匠とは「いくつかの物品を組み合わせてできる意匠」のことを指します。
(組物の意匠)
第八条 同時に使用される二以上の物品、建築物又は画像であつて経済産業省令で定めるもの(以下「組物」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、組物全体として統一があるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。
複数の物品であっても、一つにまとめた時に統一感があるならば、セットで意匠として認められるということです。
例えばですが、机と椅子のセットがあったとします。「セットでなければ意味がない」「セットだからこそかっこいい」と認められれば意匠で保護されることになります。
組み物としての意匠登録が認められなかった場合には、分割しての意匠登録を目指します。
関連意匠
関連意匠は「意匠登録したものに関連するデザインもあわせて意匠登録する」ことを指します。
例えば、ハンドルのデザインが独自な自転車を作ったメーカーがあったとします。その後、そのハンドルの細部を更にかっこよくした新しい商品を作ったとしても、通常は「新規性がない」「すでにあるデザイン」として意匠登録が認められません。
それを防ぐために、似たものであったり、他社に真似されたくないものは意匠登録します。これが関連意匠です。
秘密意匠
秘密意匠はその名の通り、「登録されていることを秘密にする意匠」です。具体的には、登録から3年間、意匠登録したことを秘密にすることができます。
例えば、まだ発売日が未定な商品がある場合、発売前に意匠登録をしておかないと、他社が先に類似品や模倣品を意匠登録してしまうかもしれません。しかし、発売前に意匠登録が完了してしまうと、その内容が公開されてしまいます。
「発売前に意匠登録したい、さらにそれを秘密にしておきたい」などのケースでは秘密意匠制度を利用します。
動的意匠
意匠は動くものや機能に対しても認められます。例えば※「時間になったら変わった動きをしてお知らせしてくれる時計」や「今までの常識では考えられない開き方をする車のドア」などがあります。
※あくまで例え話で、実在するかどうかはわかりません。
動きを意匠登録するという点で、出願時に動く前後両方のデザインを提出する必要があります。
意匠権が適用される代表的なものを紹介
日本で特に意匠登録が多い物は以下の通りになります。
- 車
- 家電
- 自転車
傾向としては、乗り物や家電が多いようです。これらは性能はもちろんのことですが、性能はある程度競り合ってくると、デザインが売上の生命線になります。
他社に真似されないようにきちんとブロックすることで、自社の売上を守ります。
意匠の出願手続きの流れ
【引用:意匠審査の流れ – 特許庁】
意匠出願の手続きを簡単に説明します。審査がうまくいかなかった場合、出願内容を修正したり、審査官に審判を求めたりなど複雑が少しややこしくなっていきますが、ここでは、「順調に登録が認められた場合」の流れを説明します。
①まずは出願
まずは出願書を作成します。願書には、出願者や創作者、意匠の図や画像を添付します。
出願先は特許庁になります。
②審査・拒絶理由通知
審査官がOKを出した場合には登録査定され、NGを出した場合には拒絶理由通知が発せられます。拒絶されてしまった場合には、出願人は願書の内容を修正したり、審査官と話し合いを行ったりします。
登録
登録査定を受けた後は、登録料を支払います。支払いが完了すると、正式に意匠登録され、法的に権利が守られるようになります。意匠権そのものは、出願の日から最長25年し、期限を超えた場合には権利が消滅します。
意匠権を侵害された時の対応
意匠権を侵害された時の方法は大きく分けて2つ。「製造や販売をやめさせる」か「権利を侵害されたことによって生じた損失を相手方に求める」のどちらかになります。
ここではその2つの手段についてざっくりと説明します。
差し止め請求
まずは、「私の意匠権を侵害しているからその商品の製造や販売をやめなさい」と相手方に求めていくことになります。こちらは、「すでに侵害されてしまった場合」だけでなく「これから侵害される恐れがある場合の予防」の請求も行うことができます。
秘密意匠の場合、こちらが意匠登録をしていることを知らぬまま相手方が製造・販売してしまう可能性がありますが、その場合には、すでに登録している意匠の内容を公開したうえで、権利を侵害しないように求めていくことになります。
損害賠償請求
意匠権を侵害されたことによって生じた損害を相手方に支払ってもらうよう請求していきます。裁判となりますので、「意匠権を侵害された」という明確な証拠を用意し、損害額についてもきちんと算出しておかなければなりません。
困ったことがある場合には弁護士に相談した方がいいでしょう。
意匠に関する疑問は弁護士に相談
意匠権に関しては、出願や登録の可否、他社との権利トラブルなど、疑問が付き物です。個人の場合、自分でネットで調べてみたりしてもどうにもならないことが多いでしょう。
解決できない疑問などが出てきた場合、弁護士に相談してしまった方が早く解決できます。出願でなく、他社とのトラブル回避、登録が認められなかった場合の再申請など、幅広い場面でサポートを行います。
まとめ
意匠とは、物品の「形状」や「模様」などのデザインを保護する権利です。魅力的なデザインを創作する人の権利をきちんと守り、日本の産業を盛り上げるために設けられている法律になります。
似ている言葉として、「著作権」がありますが、こちらは「文章」や「絵」、「音楽」など文化に関する1点物に対して認められる権利です。意匠権は、「工業的に利用・生産が可能な物」に限って認められるという点で違いがあります。
具体的には「車や自転車」「家電」などが多く登録されています。また、スマホやATMの操作画面なども、工業利用が可能なので意匠が認められます。
2020年に行われた法改正では、主に以下のような点に変更がありました。
- 保護する範囲の拡大
- 出願可能期間・存続期間の延長
- 間接侵害に対する取り締まりを強化
意匠の出願や他社との紛争、意匠権を侵害されたことに対する法的措置のお悩みなどは弁護士に相談しましょう。あなたのお悩みに合わせて、ベストなご提案をさせていただきます。
スタートアップドライブでは、知財の相談に最適な専門家や法律事務所を無料で紹介します。
お電話で03-6206-1106(受付時間 9:00〜18:00(日・祝を除く))、
または24時間365日相談可能な以下のフォームよりお問い合わせください。