知的財産・特許

【特許戦略入門】スタートアップ・ベンチャーのための賢い特許出願のやり方は?

スタートアップ、特にテックベンチャーにとってその競争力、競合差別化のキーになるのが、他社が模倣できなかったり、圧倒的優位にいたりする技術力です。こうした、技術的優位性は一方でうかうかしていると、すぐにキャッチアップされてコモディティ化してしまうこともあります。

そんな時に、サービスやプロダクトの優位性を維持するために有効なのが特許権といわれる知的財産権です。

特許を有効に活用することで、事業を円滑に成長させることに成功したり、高い価値でのバイアウトに成功したりといったスタートアップの集積地シリコンバレーでも見られるようになってきています。一方で、特許を出願するためには準備のための労力や費用的にも資金力が不十分なスタートアップにとっては、重荷になる可能性もあります。

今回の記事では、そんなスタートアップを対象に、特許の取得をより低コストで効率的に行うための方法について解説していきます。

1.スタートアップにとっての特許のメリットは?

まずは、スタートアップが特許を所有することでどういうメリットがあるか、という点について解説させていただきます。

(1)特許を侵害された場合に、差し止めや損賠賠償請求が可能に

特許は、発明を保護するための制度であり、特許権が付与された技術を第三者が模倣した場合、差し止め請求や損害賠償請求が可能となります。損害賠償では、他社の模倣によって得られていたであろう利益が損害額として認められるため、大きな金額を得ることができるケースが多くあります。

(2)ライセンス収入を得ることができる

また、自社で特許を実施しない場合であっても、他社に対してライセンス提供を行い、発明を実施してもらえればライセンス収入を得ることが可能です。

(3)資金調達やM&Aの際に有利に

最近では、融資や出資の際に特許の有無を判断材料の一つとすることも増えてきました。特に、技術力が重要となるテックベンチャーなどの場合では、特許は差別化要素として高く評価されます。

(4)事業の技術アイデアを明確にすることができる

また、事業のスタート前のタイミングで特許を取得しようとした場合、その過程でサービスや製品のアイデアが明確になっていく、という利点もあります。サービスを実際に開発することと比較すると、特許出願の費用は低く済みますので、特許の調査や出願を通じて競合サービスの調査を行って競合分析をしたり、自社の技術の強みを理解したりといったことが可能となります。

2.特許を取らない場合のリスクは?

一方で特許を取得しなかった場合のリスクについてみていきましょう。特許を取得しない場合、

  • 他社に特許を取得され、特許を取ることができなくなるリスク
  • 開発した製品が他社に模倣されてしまうリスク

が起こりえます。

特許権は、先に出願をした者が権利を取得可能な先願主義が採用されているため、同じ発明が出願された場合も早いもの勝ちとなってしまいます。また、特許はすでに公開されてしまった技術に対しては取得できません。

そのため、スタートアップが開発した技術に対して、特許を出さずに事業を行おうとしていると、先に他の他社がその技術を開発し、特許の出願をしてしまうかもしれません。この場合、特許を取得できなくなるだけではなく、他社がその技術を独占できてしまうため、事業そのものもできなくなってしまうリスクがあるのです。

スタートアップの場合、資金や人材のリソース的に余裕がないことが多いため、このような特許リスクがあると最悪の場合、事業そのものが不可能となって撤退を余儀なくされてしまうおそれもあるのです。

3.特許はどういうスタートアップに関係があるか?

特許のメリットはご理解いただけましたでしょうか?

このように特許はスタートアップにとって競争を有利にするために非常に有効な武器にもなりますが、全てのスタートアップが特許の恩恵があるわけでもありません。そこで、こうした特許の活用が有効なスタートアップのジャンルについて解説させていただきます。

(1)ITベンチャー

 広くITベンチャーは特許戦略を検討したほうがよいでしょう。というのも、ITベンチャーはサービスが一気に世界に広がり、改善スピードが速い分野だからです。あるサービスで取り入れられた機能がユーザーにとって一旦受け入れられると、競合サービスでも同じような機能をすぐに導入していかれてしまいます。有名な事例がAmazonの1Click特許です。こちらの特許はAmazonのサービスリリース直後からすぐに搭載された機能ですが、他のECサービスでも同様に導入がされていました。しかしながら、Amazonはこの機能の強力な特許を所有していたため、他社に対して機能の差し止めを行うことができました。Amazonはこの技術によってECサイトにある「かご落ち」の問題を改善し、売上を毎年向上させ続けていたと言われています。

 

(2)バイオテックベンチャー

バイオテックベンチャーは、ITベンチャーとは逆に技術の開発に大きな時間がかかり、市場に投入されるのには時間がかかる分野であります。したがって、研究開発にかかるコストが他の分野と比較してもかなり大きくなっています。そのビジネスの構造上、特許は必須のものになってきます。研究開発に投資した莫大な資金を回収するには、独自性の高いプロダクトを長期にわたって市場で独占し、高い利益を得ることができる体制を作る必要があります。そのために、特許の取得は市場の独占を担保するためにも必須の選択となってきます。

(3)あまり関係しないスタートアップは?

一方、全てのスタートアップに特許が関連するわけではありません。例えばITベンチャーの中でも、広告運営や、単純なマーケティング事業、人材系などをしている場合など、営業力がモノをいう業界では一般的には特許等は不要になるでしょう。

ただし、最近のトレンドとして、AIの活用、マーケティングオートメーションやSaaSなどツールを導入する事業が増えてきており、自社プロダクトを作る場合には特許戦略は必要になってきます。

人材紹介系でもアイデア次第で勝ち切ろうとしているスタートアップにとっては、業務フローやオペレーションの簡略化などにおいては特許取得の可能性もあるところです。

4.特許はどういう技術に対して取得できるのか?

それでは、特許とは何か、特許とはどういうものにとれるのか、について解説させていただきます。

(1)特許の対象となる発明は「物」「方法」であることが基本

特許の対象となるものは、発明と呼ばれていますが、発明とは「自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの」と定義されています。この定義では少しわかりにくいので、具体的なお話をしますと、例えばゲームのルールや、人の育成方法等のように単なる人為的な取り決めなどは除外されるということです。したがって、例えば何か物体の構造としての「物」や、画像処理などをコンピューターで行う処理の「方法」等が特許の対象となります。

(2)ビジネスモデル特許とは?

ここで、よく話題に上がる「ビジネスモデル特許」の場合、上記には当てはまらないのでは?と思う方もいらっしゃると思います。ビジネスモデルって、単にビジネス上の取り決めなので自然法則を利用していないのでは?と感じるのではないでしょうか?

実は、その視点は正しく、いわゆるビジネスモデルというものは特許権の保護対象ではないのです。ビジネスモデル特許として保護されるのは、何らかのビジネス上の仕組みをコンピューターなどのハードウェアを活用することで自動化し、処理できるようにしたものなのです。したがって、ビジネスモデル特許を取得するためには、プログラミング等により自動化したアイデアでなければなりません。

 

5.特許の取得にかかる費用は?

特許取得には費用がかかることは上述した通りですが、この章では費用の詳細について見ていきましょう。

(1)特許出願料

特許出願料は、特許の出願時に特許庁に支払うものであり、12,000円と一律になります。

(2)弁理士への代理人費用

弁理士に特許出願を依頼した場合にかかる費用です。弁理士の報酬体系は、弁理士ごとにことなっていますが、目安としては

出願時:30万~50万

登録時:20万~50万

とトータルで50万~100万円程度の報酬となるケースが多いようです。

(3)審査請求費用

審査請求費用は、特許出願の審査請求を行う際に特許庁に支払う費用です。特許制度では、必要性の高い特許のみを審査請求をしてもらうという意図によって、出願時の費用は低額とし、審査請求費用を高く設定しています。

  新料金
通常の特許出願 118,000円+請求項数×4,000円

 

(4)中間対応費用

中間対応費用は、拒絶理由に対して弁理士が意見書や補正書を作成する際に必要となる費用です。特許庁に対しては費用は掛かりませんが、弁理士に対して1回あたり5万円~15万円程度の報酬となります。

(5)特許料

特許料は、登録査定がでた特許出願を特許として登録し、維持していくための費用です。料金は、更新するごとに高くなっていき、最長20年間が特許権の期間として設定されています。

 

項目 金額
第1年から第3年まで 毎年 2,100円に1請求項につき 200円を加えた額
第4年から第6年まで 毎年 6,400円に1請求項につき 500円を加えた額
第7年から第9年まで 毎年 19,300円に1請求項につき 1,500円を加えた額
第10年から第25年まで 毎年 55,400円に1請求項につき 4,300円を加えた額

 

(6)外国出願費用

 特許は、国ごとに発生するものなので、日本以外の国においても権利として成立させようとすると、国別に出願をする必要があります。この場合、各国の弁理士などの代理人に依頼して出願を行ってもらう必要があるので、国ごとに上記と同様な費用が発生することになります。目安としては、一国あたり100万~200万の費用が掛かると見ておくとよいでしょう。

6.賢く特許出願をするために検討するべき内容は?

このように日本国内の特許取得だけでも100万円前後の費用がかかり、海外まで含めるとそれだけで1000万円近くになってしまうというのが特許の現状です。これは資金が不足しがちなスタートアップにとっては、大きな負担になってしまいます。

そこで、こうした費用を抑えつつ、特許を効率よく取得していくための方法についてご紹介します。

(1)出願の時期を検討する

まず、特許は、未公開の技術にのみ取得できるもの。そのため、アイデアがあったり、開発した技術があったとしても、資金的な状況で出願を躊躇するものは、公開せずに秘密にしておくというのも選択肢です。この場合、同じ技術を他社が出願して権利化されてしまうリスクもあります。

そうした場合に、有効なのが先使用権という権利です。特許出願の時点ですでに実施している技術であれば、他社が権利を取得したとしてもその後も継続して利用をすることができるのです。この技術を実施した日付を明確にするために、技術文書を公正証書にするなど、日付を公的に証明できる手段を取り入れるとよいでしょう。

(2)海外出願(PCT制度)を賢く行う

また、海外で権利を取得するには多額の費用がかかります。これはスタートしたばかりのスタートアップには非常に厳しいと思います。

そこで、活用でいるのがPCT出願という制度。こちらの制度を使って出願をした場合、出願日から30か月以内にいずれの国で権利化を行うかを決めることができる制度です。

このPCT出願の制度を用いれば、出願時にはどの国で権利化するかを決めなくても、30ヶ月後までそこを保留できるというもの。30ヶ月もあれば事業がどれくらい拡大するか、市場はどこに国にあるか、といった点もリサーチが可能なため、資金が大きく必要となるタイミングを将来に伸ばすことができるというメリットがあります。

(3)助成金を活用する

また、特許取得には助成金や出願費用の免除・減免制度があるのはご存じでしたでしょうか?

東京都知的財産総合センターが行う助成金では、海外特許出願の費用の1/2が補助される制度もあります。こちらは毎年採択率がかわりますが、大体30~50%程度の採択率のようです。

また、スタートアップを対象とした特許料や特許の審査請求費用の減免・免除制度があり、こちらは1/2に減額、1/3に減額といったように要件がありますが、これは条件が該当していれば必ず割引がされるため、忘れずに利用するようにしましょう。

7.特許戦略のために最適なパートナーは?

スタートアップの特許戦略を考えるうえでの参考になったのではないでしょうか。ITベンチャーなど技術力で勝負をするスタートアップにとっては、効果的に競争力を高め、競合差別化を図っていくために、特許権をはじめとする知的財産権を有効に活用する手はありません。

IT技術と知的財産権の親和性は非常に高いのです。

少しでも費用を抑えて、有効に特許権を取得できるように専門家に相談してみましょう。

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知財編集部
知財に関する専門家です。 わかりやすい記事の監修を心がけています。

この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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