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スタートアップの特許取得は資金調達に役立つのか?

スタートアップ企業にとって、知財戦略は一つの意識すべき課題です。資金繰りが厳しいアーリーステージでは特に「知財戦略は資金調達に役立つのか?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

この記事では、シード・アーリー期のスタートアップにおける特許取得と資金調達の関係性について説明します。

1.資金調達と特許

スタートアップ企業のシード・アーリー期は、一歩間違えれば倒産の危機という状況で特許出願などの知財戦略にまで頭が回らない、という時期かと思います。まずは今の構想にある当たりそうなモノやサービスを早くリリースして収益を上げたいという時期に、わざわざリソースを割いて特許を出願する必要性はあるのでしょうか。

ここではまず、資金調達と特許出願タイミングの相関性を過去の事例から見ていきたいと思います。

【事例】資金調達の直前直後に特許出願をするFitbit

2007年5月にアメリカで創業したヘルスケアのウエアラブル端末分野での代表格スタートアップ「Fitbit」の事例では、創業7年目の2013年9月末時点ですでに30件以上の特許を出願しています。最初は「加速度センサーに加えて高度センサーを用いることで、歩数だけではなく階段の昇降段数や消費カロリーなどの活動量を算出する技術や、算出結果の表示技術」を詳細に書かれた特許であり、2011年6月の出願です。

Fitbitは2010年9月にベンチャーキャピタルから900万ドルの資金調達に成功しており、データ上では特許出願日を早めるための手続きを同月内にすでに行なっていたことがわかるため、資金調達が決まってからすぐに特許出願に動いていたということになります。

その後もFitbitは2012年1月に1200万ドル、2013年8月に4300万ドルの資金調達を行なっていますが、いずれの場合も直前半年以内に5件以上の特許出願を行なっています。あくまでタイミングと相関性から見る憶測に過ぎませんが、資金調達による資金的余裕から生まれた発明を知的財産として活用していることがこの事例から伺うことができます。

なお、早期の特許出願が独占的市場獲得に有効に働いた例としてよく事例が挙げられるAmazonの「1–Click特許」についても、資金調達の数ヶ月後に特許出願が行なわれています。

これらの事例が企業主導の取り組みであったか投資家サイドからの助言面が強かったかは分かりませんが、成長するスタートアップ企業においては特許取得と資金調達のタイミングに相関性があることはうかがえます。

資金調達は言わば投資家との1on1ミーティングであり、いかにして短期・長期での成長ビジョンを語れるかが鍵になってきます。その中で、サービス拡大後の知財戦略についての武器を一つ持っている、もしくは資金調達後に持つ予定があることをアピールできることは、ほかのスタートアップ企業との差別化や競合他社に対する優位性の獲得につながっていきます。

2.特許とは

では、そもそも特許出願はどのように企業戦略に働きかけるものなのでしょうか。

そもそも特許権とは、「発明を保護するための権利」と定義づけられていて、高度な技術的工夫を発明として、発明者の独占を認めることで、その発明を保護・症例し、かつ産業的な発達につなげることを目的として作られた制度です。

特許を取得すると以下のような効果が得られる可能性があります。

・アイデア、独自技術を独占的に使うことができる

・ビジネスによる事業の差別化を図ることができる

・模倣サービスを防いだり、模倣された場合には損害賠償を請求することができる

・ライセンスや協業などによる他社との連携を取ることができる

・マーケティングやブランディングに繋がる可能性がある

スタートアップ企業による新たなモノやサービスに特許申請が有効かどうかは、特許取得によって得ることのできる将来的市場価値と、後述する特許申請にかかる費用・工数を比較する必要があります。

特許を出願したからといってそのこと自体がすぐに資金調達に役立つ訳ではありませんが、特許を出願することは自社のサービスや事業内容をブラッシュアップして可読化していくことに繋がるので、その行為自体が事業の将来のビジョン固めに役立つことは多いにあり得るかと考えられます。

3.スタートアップにおける特許出願のメリット・デメリット

では、スタートアップ企業がアーリーステージにおいて特許出願をするメリット、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。資金調達と知財戦略のタイミングを掴むために抑えるべきポイントをまとめてみます。

(1)スタートアップ企業における特許出願のメリット

・参入障壁を築き、他社に模倣させない

スタートアップ企業の多くは、独創的なアイデアや優れた技術という武器を持っているかと思います。高度な根幹技術を発明としてリリース直前直後に先んじて特許を取得することで、資金力のある大手企業の参入を未然に防ぐことが可能です。

いかに画期的なモノやサービスを生み出したとしても、競合の大手企業の資本力にはどうしても敵いません。市場がようやく広がってきたというタイミングで資本力を持った大手が類似サービスを展開したことで、特許権を持たなかったスタートアップ企業のサービスからは新規ユーザーだけでなく既存ユーザーもどんどん離れていってしまったという事例も数多く見られます。

大手企業の資本力を脅威にしないためにも、特許取得によって参入障壁を築くことが重要です。

・大企業や他の成長企業と渡り合う武器を手に入れる

特許を取得することで、その業界で同種の事業を展開したい他の企業とのライセンス契約を結ぶことができます。同業他社と連携を取っていく場合に適切な契約を結ぶために重要になるのが、強い知的財産権を持っているかどうかです。

先ほど挙げた例では資本力のある大手企業の参入は自社サービス拡大の脅威となる、と説明しましたが、特許はそういった資本力を味方につける力も持っています。大手企業にその事業において重要な特許をライセンス契約で提供することによって、企業規模の大小に関わらず対等に渡り合うこと武器を手に入れるができます。そういった場合、大手企業との提携によって会社としての信頼性が増し、さまざまなステークホルダーとのやりとりが容易になるため一石二鳥です。

・事業のイノベーションを図ることができる

クロスライセンスによって2つまたは複数の企業がお互いの知財を相互にライセンス契約することによって、独自の技術では難しかったモノやサービスを生み出す相乗効果を期待できます。自社で重要な特許を持って他の成長企業と積極的に連携していくことは、より良いサービスを提供し、企業の成長性を次のステージへ進めていくことにも繋がる可能性があります。

(2)スタートアップ企業における特許出願のデメリット

・自社のノウハウがオープンになり、全世界に知れ渡ることになる

特許を出願するとその後権利化されるか否かを問わず、1年半後にその出願書類が公開されます。特許出願のブラッシュアップが不十分で権利化されなかった場合、重要な自社ノウハウをオープンにしてしまうことになりますので、特許出願においては発明を公開しても良いかどうか、という点を必ず視野に置いて検討を進める必要がある点に注意です。

・国ごとに特許出願が必要なため、海外企業に模倣される可能性がある

知的財産権は属地主義の原則が取られており、その国の法律で定められた基準を満たしたものだけが知的財産として保護されることになっています。そのため日本の特許を取得しても、海外に進出した際にその知的財産が保護されることにはなりません。外国でも権利が必要な場合は、その国の特許庁に出願をしなくてはいけません。

上記の特許出願書類を公開するまでに海外への特許出願が間に合わなかった場合、海外企業にサービスを模倣され海外進出が阻まれてしまうこともあります。

なお、国際出願制度という各国での権利取得の手続きを簡略化するための制度があるため、最初から国際進出を視野に入れている場合、そういった制度を利用することも可能です。

・特許取得に工数と金銭的な負担がかかる(国内特許で100万円程)

特許の取得には、国内外問わずその国で定められた専門家を雇う必要があります。日本であれば弁理士、中国であれば専利代理人、アメリカであればPatent attorneyというような専門資格の有資格者です。特許庁への手続きは全てこの現地の有資格者を代理人として立てることが必要となってきます。この手続きというのは新規申請に限った話ではなく、特許が通らなかった場合の拒絶理由通知への応答書面の提出などの全てのやりとりを指しています。

そうした有資格者とのやりとりや知財戦略を立てる時間、実際の手続きの期間なども含め、時間や金銭のリソースが割かれることを計画に入れる必要があります。

4.資金調達フェーズにおける特許の重要性

自社の技術やサービスの根幹技術を特許として取得することは、資金調達をスムーズにすることにも繋がります。一般的なアーリーステージでのスタートアップ企業は知財よりもマーケットの適合性やユニークな技術を重視していますが、その場合にはやはり資本力のより多い競合他社に模倣され敢えなく倒産してしまう、というリスクがついて回ります。そのため、多くの投資家が前述の特許取得の利点を深く理解しており、「特許出願中」という言葉や知財戦略、特許保有状況を評価材料にしています。

スピード感のあるグローバルな情報社会の現在のビジネスにでは、「一発屋」ではなく中長期的なビジョンを持ってきちんと成長していける企業なのか、ということがスタートアップ企業においてより重視される時代となっています。

知財戦略は他社との差別化と将来的市場価値を生み出す大きな武器となります。資金調達を成功させるためにも、積極的に取り組んでいくことが重要です。

この記事の監修専門家
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知財に関する専門家です。 わかりやすい記事の監修を心がけています。