最近では、VCやエンジェル投資家に資金余りがいわれてきていますが、一般的にベンチャー企業の資金調達については、創業期が最も難しいと言われています。
それは、事業が始まっておらず、キャッシュフローも無いような段階において、バリュエーション(企業価値評価)をしなければならないことが大きな理由の一つといえます。
いわゆるJカーブを描く事業計画を作ってDCF法によって評価されるITベンチャー・スタートアップにおいては比較的実績も蓄積されてきましたが、2017年頃からは、IoTやVRといったインターネットだけにとどまらない事業やサービスが展開されつつあり、バリュエーションに関しても多様性が求められてきています。
そこで、創業期における資金調達を改善するため、様々な手法が考えられてきました。コンバーティブル・エクイティとは、創業期における資金調達方法の一種です。
シリコンバレーではY combinatorが提唱し、スタートアップ向けに多用されるSAFE(Simple Agreement Finance Equity)というスキームの日本応用版とも呼ばれるJ-KISSにおいては、「有償の新株予約権」を使ったコンバーティブル・エクイティであるともいえます。
今回は、普通株式を使った「みなし優先株式」方式のコンバーティブル・エクイティについてみていきます。
目次
目次
- コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノート
- コンバーティブル・ノートの問題点
- 「みなし優先株式」による資金調達方法
- 投資家側のメリット・デメリット
- 経営者(企業)側のメリット・デメリット
- まとめ
1.コンバーティブル・エクイティ(Convertible Equity)とコンバーティブル・ノート(Convertible Note)
「コンバーティブル・エクイティ(convertible equity)」とは、「資本」を別の「資本」に転換する資金調達方法と言われていますが、コンバーティブル・エクイティを理解するために、まずは、「コンバーティブル・ノート(convertible note)」という資金調達方法を理解する必要があります。
コンバーティブル・ノートとは、アメリカで発達した資金調達方法です。アメリカのコンバーティブル・ノートは、「借入」として資金を調達し、将来、株式の発行が行われた際に、優先株式に転換するということを投資契約として締結するというものです。
つまり、コンバーティブル・エクイティが「資本」を別の資本に転換する資金調達方法であるのに対し、コンバーティブル・ノートは、「負債」から資本に転換する資金調達方法であると言うことができます。コンバーティブル・ノートは、資金調達時には、株式に転換する価格を明確に定める必要がなく、バリュエーション(企業価値評価)をする必要がないということが最大のメリットであると言えます。
2.コンバーティブル・ノートの問題点
バリュエーション(企業価値評価)をする必要がないという点でメリットのあるコンバーティブル・ノートですが、その実態は借入金、つまり借金であることには変わりがないため、返済期限が到来すれば、設定された利息とともに返済しなければならなくなります。これは、創業当初、常に資金が必要となるベンチャー企業からすると、あまりいい資金調達方法であるとは言えないかもしれません。
そこで、アメリカでは、コンバーティブル・ノートから「返済期限」と「利息」の概念を取り外す、という考えのもと、コンバーティブル・エクイティという資金調達方法が生まれました。
一方、日本においても、コンバーティブル・ノートと同様の資金調達を実行しようとすると、いくつか問題点がありました。最大の問題点は、やはり、コンバーティブル・ノートが借入金=「負債」であるという点です。
コンバーティブル・ノートで資金調達をしても、負債が増えるだけで、自己資本は増えません。上記同様に、返済義務を負うことになります。この点だけを考えれば、金融機関から借り入れをするのと同じであるといえます。
創業期は、売上もまだ小さく経費もたくさん使うため、元からある自己資本を損失が簡単に上回ってしまうことが考えられます。債務超過とは、資産より負債の方が多い状態ですが、コンバーティブル・ノートは、債務超過になりやすく、倒産可能性を高めてしまうリスクが高くなります。
また、日本においてコンバーティブル・ノートは、発行や登記などが複雑な「転換社債型新株予約権付社債」であるため、実務では、シンプルな方法が必要とされてきました。 コンバーティブル・ノートにおける上記のような問題点を解決するため、「資本」であり、なおかつ、シンプルな資金調達方法であるコンバーティブル・エクイティが生まれました。
3.「みなし優先株式」による資金調達方法
以下では、普通株式を使った「みなし優先株式」のコンバーティブル・エクイティについてみていきましょう。最初に発行するのは普通株式ですが、「総株主の同意があれば、発行済株式の一部を他の種類の株式に転換できる」という登記を行うことにより、この普通株式を、将来、優先株式に転換するという方法です。つまり、普通株式という「資本」から、優先株式という別の「資本」に転換する資金調達方法といえます。
- 投資家側のメリット・デメリット
みなし優先株式における、投資家側のメリット・デメリットについて、それぞれ見ていきましょう。
投資家にとってのメリットは、将来、優先株式に転換される予定の株式を有利な条件で取得できる可能性があるという点でしょう。
また、当初は普通株式であるため、手続きがシンプルであるという点もメリットとなります。
デメリットとしては、投資契約の内容によっては、将来、優先株式に転換されない可能性も考えられますので、注意が必要となります。
- 経営者(企業)側のメリット・デメリット
次に、経営側のメリットは、なんといっても、「負債」でなく、「資本」になるという点です。
これにより、返済義務がないため、債務超過になって倒産するリスクを低くすることが可能になります。
また、優先株式に転換するとはいえ、当初発行するのは「普通株式」であるため、登記もシンプルで済みます。
一方、デメリットとしては、「全株主」と投資契約を締結する必要があるという点です。
全株主の同意が得ることが難しい場合は、この方法は使えなくなってしまいます。
以上より、投資契約の内容を検討する際は、どういう条件が満たされれば、優先株式に転換されるのかなどに関し、投資家とよく話し合って決めることが重要になってくるでしょう。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。以上が普通株式を使った「みなし優先株式」方式のコンバーティブル・エクイティとなります。
創業する際の資金調達方法は多数ありますが、メリット・デメリットを比較しつつ最初の難関である資金調達をクリアしましょう。
また別記事「日本版SAFEのJ-KISS」において、今回は説明できなかった「有償新株予約権」のコンバーティブル・エクイティについて説明しておりますので是非ご覧いただき、資金調達方法として検討してみてください。