会社経営者やこれから起業をしようとする方なら、売掛金や買掛金という言葉を耳にしたことがあると思います。
売掛金や買掛金はツケのようなものだと言われることがありますが、本当なのでしょうか?
売掛金や買掛金の正確な理解や、似たような言葉である未収金や未払金との区別はとてもややこしいですよね。
そこでこの記事では、売掛金や買掛金の意味や帳簿上での仕分け方について、基礎から徹底的に紹介しています。
さらに、売掛金や買掛金の請求ができなくなってしまう時効制度が民法改正による影響を受けるため、その点についても解説しています!
この記事を読めば、基礎からしっかり理解することができますよ!
目次
1.売掛金とは?
まずは、売掛金(うりかけきん・accounts receivable)から説明します。
売掛金の意義や、未収金との違い、会計上の仕分け方法について、以下から詳しくみていきましょう。
(1)売掛金ってどういう意味?
売掛金とは、商品を売り上げた際に「あとでお金を支払ってもらえる権利」のことで、資産として計上されるものです。
簡単にいってしまえば、お店などが「ツケを請求する権利」のことです。
保険商品などの契約をしたことがある方なら、「掛け金」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、その「掛け」と似たような使われ方をしています。
以下からは、具体的な売掛金が発生する状況を想定してみます。
例えば、フルーツ屋さんがりんご屋さんにりんごを売り、その代金を請求するとします。
しかし、りんご屋さんはそのりんごを客に売らなければ手元に現金がないため、フルーツ屋さんに対して商品の代金をあとで支払うと「掛け」にしました。
この場合に「あとでお金を支払ってもらえる権利」がフルーツ屋さんに発生しますよね。
すると、フルーツ屋さんは帳簿に「売掛金」を記帳するというわけです。
このとき、「あとで支払われるのだから、実際に支払われた際に記帳すればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、売掛金として記帳するのには理由があります。
例えば、当期に売り上げたりんごの代金が来期で支払われる場合を考えてみましょう。
当期で収入が発生しているにもかかわらず、現金を受け取った際に記帳してしまうと、収入が発生したタイミングと実際に記帳したタイミングにズレが発生してしまい、不正確な帳簿となってしまいます。
そのため売掛金には、収入を見越して計上し、正確に記録するために計上する意義があります。
見越し計上することによって当期の取引が正確に記帳されているのです。
(2)未収金(みしゅうきん)との違いは?
未収金とは決算整理時(1年度分の集計のようなもの)に本業以外の取引によって生じた「あとでお金を支払ってもらえる権利」です。
例えば、株を売却したが、その支払いはあとで支払われるということになった場合などです。
このように、「本業か本業以外か」の違いによって売掛金と未収金に区別があり、名称が変わります。
(3)売掛金は帳簿にどう記載するの?売掛金の仕分けを説明します!
帳簿には、資産、負債、純資産、費用、収益の5つのグループがありますが、売掛金は資産として扱われます。
というのは、売掛金は「あとでお金を支払ってもらえる権利」ですので、現金などと同じような性質をもっているからです。
それでは、実際に売掛金が発生した際の仕分け方を見ていきましょう。
#1:三分法による仕分け
商品を仕入れた際に代金500円を掛けで支払うと約束した場合、三分法で仕分けると、上図のようになります。
#2:買掛金を現金で支払った場合の仕分け
現金ではなく小切手や当座預金への振り込みなどの場合もありますが、その場合は現金の科目がほかの勘定科目になるだけです。
以上が典型的な買掛金の処理です。
#3:仕入割戻しの処理
ここから下は少し応用的な内容です。
仕入れを取り消す処理によって仕入れ割戻しを処理します。
#4:仕入れ割引の処理
期日以内に現金による支払い、買掛金500円のうち1%の5円が割り引かれた場合です。
買掛金の処理は上記などのようになります。
2.買掛金とは?
次に、買掛金(かいかけきん・accounts payable)について説明します。
こちらも、買掛金の意義や、未払金との違い、会計上の仕分け方法について、以下から詳しくみていきましょう。
(1)買掛金ってどういう意味?
買掛金とは「お金をあとで支払わなくてはいけない義務」のことで、負債として計上されるものです。
この「掛け」も売掛金の場合と同様ですが、買掛金の場合には、売り上げた側からではなく、買った側つまり仕入れを行った側からの視点となります。
言い換えると、買掛金はツケを支払わなければいけないという義務を指しているということです。
売掛金とは真逆の性質を持っているので、権利ではなく義務となり、具体的な状況も逆の立場になります。
例えば、先述のフルーツ屋さんとリンゴ屋さんの場合、リンゴ屋さんがフルーツ屋さんから仕入れを行い、代金は掛けとしましたね。
この場合、リンゴ屋さんの側からみれば、代金をあとで支払う義務(買掛金)が発生したことになります。
同じ事象でもお店の側から見れば、それは代金を請求する権利である一方で、購入者の側からみれば支払わなければいけない義務となります。
(2)未払金との違いは?
買掛金にも、似たような存在に未払い金があります。
未払金とは決算整理時に本業以外の取引によって生じた「あとでお金を支払う義務」です。
例えば、有価証券を購入したがその支払いはあとで支払うということになったときです。
このように買掛金と未収金もまた、「本業か本業以外か」の違いによって同じ負債でも区別があり名称が変わります。
(3)買掛金は帳簿にどう記載するの?買掛金の仕分け方を説明します!
買掛金は先述の5つのグループの中の負債として扱われます。
というのも、「あとで支払う」ということは借金と同じ性質をもつからです。
では、仕分け方を見ていきましょう。
#1:三分法による仕分け
商品を仕入れた際に代金500円を掛けで支払うと約束した場合の仕分けは、上のように行います。
#2:買掛金を現金で支払った場合の仕分け
現金ではなく小切手や当座預金への振り込みなどの場合もありますが、その場合は現金の科目がほかの勘定科目になるだけです。
#3:仕入割戻しの処理
ここからは少し応用的な内容に入ります。
仕入れを取り消す処理によって仕入れ割戻しを処理します。
#4:仕入れ割引の処理
期日以内に現金による支払い、買掛金500円のうち1%の5円が割り引かれた場合には、買掛金の処理は上記などのようになります。
3.相殺処理の仕訳方法
ここまでは、売掛金と買掛金の意義や、具体的な仕分方法について紹介してきました。
売掛金や買掛金の理解が難しい要因のひとつに、相殺処理と呼ばれるものがあります。
以下からは、なぜ相殺処理を行うのか?という観点と、具体的な仕分け方法について簡単に紹介していきます。
(1)相殺処理を行う理由は?
取引相手と自分の間で売掛金と買掛金を相殺処理することによって、現金による支払の手間を省くことができます。
別の取引相手の売掛金や買掛金と相殺することは裏書譲渡と呼ばれますが、今回は当事者間での相殺に限って説明をしていきます。
相殺処理には手続きを簡略にする利点がある一方、相殺することを取引相手に通知しないとトラブルの元となりますので注意しなければなりません。
以下からは、架空のクマノミ株式会社とイソギンチャク株式会社を想定して、売掛金と買掛金の相殺処理を考えてみましょう。
クマノミ株式会社はお得意先であるイソギンチャク株式会社に対して買掛金が1,000円あったとします。
その一方で、イソギンチャク株式会社はクマノミ株式会社に対して800円の買掛金があったとします。
相殺処理を行わずに買掛金と売掛金を支払った場合、クマノミ株式会社はイソギンチャク株式会社に1,000円支払い、イソギンチャクから800円が支払われることになります。
このとき、そもそも初めから200円だけ支払えば、双方の手間を大幅に省くことが可能ですね。
売掛金と買掛金の相殺処理をする意義はここにあります。
(2)相殺処理の仕訳方法
上記の例のクマノミ株式会社として、買掛金と売掛金が発生したところから順を追って説明したいと思います。
まず、クマノミ株式会社はイソギンチャク株式会社から仕入れ1,000円を行い、掛けとしました(図9)。
次に、クマノミ株式会社はイソギンチャク株式会社から注文をうけ、商品800円分を売り上げ、支払いは掛けとしました(図10)。
ここで、クマノミ株式会社は売掛金と買掛金を相殺する旨をイソギンチャク株式会社に伝え、相殺します(図11)。
最後に、クマノミ株式会社は残りの買掛金200円を支払期日にイソギンチャク株式会社に当座預金から支払います(図12)。
これら一連の流れを、イソギンチャク株式会社の側から見ると以下の通りになります(図13)。
相殺処理をしなかった場合は、売掛金を1,000円受け取り、買掛金を800円支払わないといけず、場合によっては手数料などが発生するところでした。
しかし、相殺処理をすることによってそれらを回避することができます。
このように、相手との売掛金と買掛金を相殺することによってイソギンチャク株式会社は振り込む必要がなくなり、クマノミ株式会社が支払うだけで買掛金と売掛金の取引は終わり手間が省けました。
4.売掛金は時効に注意!
ここまでは、売掛金や買掛金について、主に会計処理の観点からの説明をしてきました。
ところが、特に売掛金については、先日施行された改正民法の影響を大きく受けるため、必ず改正のポイントをチェックしておく必要があります。
以下からは、改正民法における時効概念の変化について、売掛金との関係で注意すべきポイントを簡単に説明していきます。
(1)民法改正により時効制度が変わりました!
2017年に改正された民法は、2020年4月1日から既に施行されています。
先ほどもお伝えしたように、売掛金は民法が適用される債権の一種であるため、一定期間が経過すると時効が完成し、行使することができなくなってしまいます。
改正前民法において、売掛金は原則として5年以内に請求しなければ時効が完成するとされ、さらに細かく業種や職業によって3年、2年、1年以内に完成すると定められていました。
しかし、改正法では時効完成までの期間について、前述の業種や職業による区別がなくなり、原則5年に統一されました。
改正前と比べると時効完成までの期間が全体では伸びていることから、多忙な会社やお店の経営のなかで消滅時効期限が過ぎてしまい、代金を請求できないという事態が少なくなることが期待されています。
時効の起算点については、以下のように定められています。
・債権者が権利を行使することができることを知った時から5年(民法166条1項1号)
・債権者が権利を行使することができる時から10年(民法166条1項2号)
上記のうち、売掛金では前者の「債権者が権利を行使することができることを知った時」が時効計算の始点となります。
というのも、売掛金の持ち主(売った側)は、相手に対して売掛金を回収する権利を有していることを販売時点で知っていることが通常想定されるからです。
(2)時効の進行が止まる?
民法改正による時効制度の変化は、上で述べた期間の計算に止まらず、法文に登場する用語についても変更が行われています。
制度自体にはあまり変化はありませんが、用語のうち「承認」と「合意」に関しては注意する必要があります。
改正前民法では、時効が成立しないようにするために、「催告」という手段で債務者に債務を認識させ、それを債務者が「承認」したということが証明されれば、時効完成までの期限が更新される(再びゼロからスタートする)ことになっていました。
改正法でも承認は時効の更新事由ですが、債権者と債務者の間で権利についての協議を行う旨の合意がEメールや電磁的記録を含む書面でされた時は、その合意があった時から一定の間は、時効は完成しない(民法151条1項1号~3号)という規定が新たに設けられました。
すなわち、債務者がEメール等で債務に関して協議がしたいなどと債権者に対して申し向けた場合、一時的に時効の進行がストップすることになります(どのタイミングで「合意」となるのかについては、まだ判例の蓄積がなく、議論があります)。
この制度により、時効が近づいているからという理由で訴訟提起を起こす従来の慣習から離れ、当事者間だけでの協議による解決が容易になると考えられています。
5.まとめ
まとめると、売掛金はあとで支払ってもらう権利であり、買掛金はあとで支払う義務のことでした。
売掛金は取引相手にとっては買掛金であり、買掛金は取引相手にとっては売掛金という、相対的な関係に立ちます。
したがって、手間を省いてそれらを相殺することで取引相手に債務を支払う、あるいは債権を得ることが可能でした。
一方、売掛金は支払期日から5年が過ぎたら時効が完成するため、代金を回収できない危険性もあります。
このようにみると、売掛金や買掛金の仕組みはシンプルにも思えますが、いずれも専門的な知識を正しく用いなければ取引相手とのトラブルになりかねません。
会計上の仕分けや相殺処理等について不安がある場合には、公認会計士などの専門家へ相談することもおすすめします。
また、民法改正によって影響を受ける時効の進行や援用については、まだ学説においても議論が対立している状況であるため、無理に法文を読み解こうとするのではなく必ず弁護士に相談するようにしてください。
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