「匿名組合って何?」
「普通の組合とは何が違うの?」
近年、クラウドファンディングやソーシャルレンディングの増加に伴い、匿名組合という言葉を目にする機会が増えた方も多いと思います。
ところで、この匿名組合がどういったもので、どのような仕組みで運営されているのかご存知ですか?
そもそも、普通の組合と匿名組合とは何が異なるのでしょうか。
そこで今回は、匿名組合について、その意義やメリット、具体的なつくり方まで、基礎から詳しく解説しています。
この記事を読めば、匿名組合に関する基礎的な知識が全て身に付きますよ!
目次
1.匿名組合とは?
匿名組合は、投資や法律の知識をもっている人であればそれほど難しい概念ではありませんが、一般的にはなかなかイメージしづらいものではあります。
そこでまず、匿名組合とはそもそも何なのか、そして、通常の組合とは何が違うのかについて説明します。
(1)匿名組合の意義
匿名組合とは、ある人が営業者に対して出資をし、その営業によって生じた利益の分配を出資者が受けるためになされる契約形態のことをいいます。
「組合」と名前がついてはいますが、のちに述べるように一般的な組合とは異なり、営業者と出資者との間で交わされる双務契約(双方が権利義務を負う関係)である点に特徴があります。
すなわち、匿名組合を構成するのは出資者と営業者との二者であり、集団で構成するものではありません(したがって、匿名組合自体には法人格もありません)。
なお、匿名組合契約は、個人間だけではなく法人間で締結することも可能です。
法律上の根拠は、民法ではなく商法に規定があり、実務上はTKと略されることもあります。
(2)普通の組合との違い
組合とは、2人以上が出資をして、共同の事業を行うことを目的とする契約のことをいいます(民法667条)。
匿名組合が出資者と営業者との間の二者で交わされる契約であったのに対し、民法上の組合の場合には3名以上が団体となって契約を結ぶことができます(むしろ、複数人間で契約されることが一般的です)。
民法上の組合を複数人でつくった場合には、出資者はほかの出資者が誰であるかを知ることができますが、匿名組合は出資者と営業者との二者契約であるゆえに、他の出資者の情報や存在を知ることがありません。
民法上の組合の場合、組合員は組合の債権者に対して、組合財産とは別の自分自身の財産をも債務の引き当てとして弁済する可能性がある一方(民法675条)、匿名組合員は、営業者が行う行為について第三者に対して権利義務関係を負うことはありません(商法536条2項)。
すなわち、匿名組合員は、対外的に名前が出ないこと、および、営業者の行為に関する権利義務関係における名宛人とならないことから、匿名組合と呼ばれます。
2.匿名組合の具体例
ここまでは、匿名組合の意義や民法上の組合との違いについて説明しました。
以下からは、より具体的なイメージを抱けるように、実際に匿名組合契約が締結されることの多いケースを2つ紹介します。
かつて匿名契約といえば、競走馬に対して小口の出資を行う一口馬主をイメージされる方が多かったようですが、今日ではより様々な場面で活用される機会が増えています。
スタートアップやベンチャー企業では、大口の投資家ではない個人から出資を受ける場合にも活用されるケースも増えているため、しっかりと活用方法を確認しておきましょう。
(1)クラウドファンディング
通常、匿名組合は、営業者が事業を行う上で必要な資金を出資者から調達するために締結されます。
クラウドファンディングの場合も、一口馬主の場合も、匿名契約がその制度上目的としているものであるといえるでしょう。
匿名契約は、不動産や大型ソーラー発電システムの構築、船舶や航空機の購入など、多額の出資を必要とする場合に締結されることが多いようです。
もっとも、クラウドファンディングの場合には、目標額が100万円などの比較的少額である場合にも活用されることがあります。
匿名組合の場合には出資者は自己の情報を秘匿することができ、また、株式の発行などの煩雑な手続をする必要もありません。
すなわち、営業者と出資者との二者間での契約の締結(と、これに基づく利益の分配)だけ行えばよいという簡便性から、クラウドファンディングとはとても相性が良いといえます。
(2)GK-TKスキーム
主に不動産投資やソーラーパネル等に投資するファンドにおいて、GK-TKスキームと呼ばれる手法が採られることがあります。
これは、特別目的会社(SPC)として合同会社を設立し、投資家による出資を匿名組合(TK)によって募るとともに銀行等の金融機関からも借り入れを行い、不動産等の運用を行い、そこから得られた利益を出資者に分配することをいいます。
ここで匿名組合を用いる理由は、後に述べるように、匿名組合によって事業利益を出資者に分配できることにあります。
そして、法人各を有さない匿名組合を利用することにより、SPCとして設立した合同会社に法人税が課されこれが控除されたのち、匿名組合に分配される利益についても課税されるという二重課税を逃れることができます。
出資者としてはより多くのリターンを得られることを望み、出資を募るファンドの側としてはより多くの出資者を(簡易に)募れることを望むことから、GK-TKスキームは双方にとって喜ばしいシステムであるといえます。
GK-TKスキームは、私募ファンドや非上場ファンドで用いられることが多いようです。
3.匿名組合のメリット
ここまでは、匿名組合の意義や具体的な活用方法について紹介してきました。
そもそも、投資には匿名組合以外の様々な方法があるのに、どうして匿名組合が活用されるケースが増加しているのでしょうか。
匿名組合には、以下に述べるように様々なメリットがあります。
もっとも、そのメリットがある面ではデメリットとして作用することもあります。
匿名組合を活用しようと考えている方は、これらのメリット・デメリットをしっかりと理解し、きちんとリスクも考えたうえで実行するようにしましょう。
(1)匿名であること
匿名組合のもつ最も大きなメリットは、繰り返し述べてきたように、他の出資者や債権者などの第三者に対し、情報を隠すことができるという点にあります。
これは、クラウドファンディングなどで出資者が個人である場合はもちろんのこと、出資者が法人である場合には特に大きなメリットとなります。
法人(特に大企業やある分野でのトップランナー企業)がある事業に投資を行う場合、通常の投資手法では、その法人が今後どんな分野に力を入れていくつもりなのかが競合企業にも明らかになってしまいます。
そのため、匿名組合を活用することにより、自社の情報を伏せたまま投資を行い、ひそかに経営拡大等を図ることが可能となります。
(2)有限責任であること
匿名組合の出資者は、その出資額以上の責任を負うことがありません。
先ほど述べたように、民法上の組合の場合には、組合員は自己の財産を引き当てとして、出資額以上の金額を支出しなければならない可能性があります。
この点、スタートアップやベンチャー企業の場合はまだ経営基盤が盤石ではなく、常に倒産リスクを抱えている場合がほとんどですから、出資者としては安心して出資を行うことが可能です。
もっとも、株式投資の場合とは異なり、匿名組合の場合には出資者は会社経営に参加することができません(制度上の話であって、事実上影響を及ぼすこともあり得ます)。
したがって、VCなどが積極的に経営にも参加しつつ出資を行う場合とは異なり、本業をもつ個人から出資を募るような場合に活用されるケースが多いようです。
(3)節税効果があること
匿名組合を用いたオペレーティングリースにより、出資者は節税効果を受けることが可能です。
匿名組合を用いたオペレーティングリースでは、匿名組合が航空機や船舶などを購入し、これを船舶企業や航空会社等へとリースすることによってリース料を得て、これを収益として組合員に分配します。
この場合、購入した航空機等は匿名組合で資金計上をするため、減価償却もまた匿名組合において行われます。
通常、航空機等は非常に高額であることから、購入後しばらくの事業年度は莫大な減価償却が計上されることとなります。
そして、この減価償却がはリース料賃料よりも多額になる場合、匿名組合は帳簿上の欠損を計上することになり、その損失は匿名組合員に反映されます。
なぜなら、匿名組合契約に基づいて利益を受ける権利は金商法上の「みなし有価証券」として金融商品にあたるとされており、通達により、法人の場合は匿名組合の営業による利益および損失は損益計算書に、個人の場合には雑所得または総収入金額・必要経費として参入することになっているためです。
したがって、匿名組合に生じた損失は、匿名組合員である法人または個人の損失として計上できることとなるため、減価償却費がリース料賃料を上回っている期間は節税を行うことが可能となります。
4.匿名組合のデメリット
ここまでは、匿名組合のもつメリットについて紹介しました。
以下からは、匿名組合のもつデメリットについて説明していきます。
匿名組合のもつデメリットは、営業者の側よりはむしろ、出資者の側に多く認められます。
とはいえ、出資者にとってデメリットがあるということは、出資者が減る可能性があることを意味するため、出資を募りたい営業者の側としてはこれらのデメリットに十分注意し、これらのデメリットを上回るようなメリットを出資者に提示する必要があります。
(1)事業に関与することができない
匿名組合は、株式投資のように、出資者に対して事業に参画する権利を与えるものではありません。
したがって、出資者の側としては、「自分のお金が使われているのだから、経営に口出ししたい!」という場合には、匿名組合は適していないということになります。
特に、スタートアップやベンチャー企業に大口の出資をするVCの場合には、株式を保有し株主総会における議決権を行使することによって経営に参画することが一般的であり、匿名組合が用いられることはあまり多くないようです。
もっとも、「投資だけして配当を待ちたい!」という出資者に対しては、株主総会の欠席等に関する手続きを一切行う必要がないため、むしろメリットであるといえるかもしれません。
(2)流動性が低い
匿名組合員としての地位は、株式の場合とは異なり、他人に譲渡・売却したりすることができません。
また、基本的に、事業の途中で急に解約して出資金の払戻しを受ける、ということもできません(後ほど述べるように、匿名組合の解除は6か月前に申し出る必要があります)。
したがって、原則として、出資者は一度出資をすると利益の分配を受けることによってのみ出資のリターンを得ることができ、その他の方法によって利益を上げることは実質的に不可能といっていいでしょう。
また、後述するように匿名組合には基本的に元本が保証されないことに鑑みると、出資者としては、「必ず利益が出るとは限らないから、確実に利益が出るような事業が良いな」と思うことが当然です。
(3)元本保証がない
他の投資方法とも共通することですが、匿名組合による出資者に対しては、基本的にその元本が保証されることはありません。
したがって、出資額を回収できる前に事業が立ち行かなくなった場合などには、出資額の元本割れを起こす可能性が十分にあります。
ここで、株式投資や為替取引の場合などであれば、元本割れを覚悟したうえで早めに出資額を引き上げる(損切り)することも可能ですが、匿名組合の場合には先述した流動性の低さによって損切りを行うことができません。
そのため、出資者としては「元本割れする可能性が低く、また、確実に利益が上がるものに投資したい」と思うことが考えられます。
もっとも、そのような事業モデルを作り上げることは事実上不可能といえるでしょう(あれば教えてて下さい…)。
したがって、匿名組合を用いて出資者を募る場合には、出資者に対して「これくらいの金額であれば、たとえ元本割れしたり、出資額を回収できなくても良いや」と思えるような魅力的な事業、または小口の出資を募ることになります。
5.匿名組合のつくり方
さて、ここまでは匿名組合の意義や、メリットデメリット等について紹介してきました。
それでは、実際に匿名組合をつくろうとする場合、どのような手続きが必要なのかを確認していきましょう。
これまで述べてきたように、匿名組合は出資者と営業者との間で交わされる二者契約であることから、それほど面倒な手続きが必要ではありません。
もっとも、契約の締結あたっては、弁護士等によるレビューを必ず通すようにし、相手方が一方的に提示してきた条件をそのまま飲むことは避けるようにしましょう。
(1)匿名組合の成立
匿名契約は、営業者と匿名組合員との間での匿名組合契約によって成立します。
匿名契約組合の成立を規定する商法535条の冒頭規定によると、匿名組合契約の成立のために必要な要素は①当事者の一方が相手方の営業のために出資をすること、②その営業から生ずる利益を分配することを約すること、の2つだけです。
条文上、匿名組合契約は、出資として現金を手渡して口頭で利益分配を約束するだけでも成立することになります。
もっとも、通常は、匿名組合契約書を作成して契約を締結することが一般的です。
契約書においては、営業者が行う事業の内容や範囲、利益分配を行えない場合があることへの理解の確認、出資する額や時期、利益分配の計算方法、契約の終了や解除に関する規定などが規定されることが多いようです。
(2)匿名組合の効力
匿名組合契約が締結されると、匿名組合員(出資者)は、契約に基づいて出資を行う義務を負うかわりに、営業者に対して利益を配当するよう請求する権利を有します(商法535条)。
出資にあたり、民法上の組合とは異なり、信用や労務による出資を行うことはできません(商法536条2項)。
出資した金員は営業者の財産となりますが(商法536条1項)、匿名組合員によるその財産への持分権は認められていません。
なお、先ほど述べたように、匿名組合員は事業の運営に参画することはありませんが、賃借対照表を閲覧する権利や業務・財産状況を検査する権利は認められています(商法539条)。
匿名組合員は、営業者を代表することはできず(商法536条3項)、営業者の行為について第三者に対して権利義務を負うこともありません(商法536条4項)。
もっとも、自己の氏名等の使用を許諾した匿名組合員は、氏名等の使用以後に生じた債務について営業者と連帯して責任を負うこととなります(商法537条)。
したがって、匿名組合員の氏名の使用許諾の有無がのちに大きな問題となることも考えられるため、契約締結時にはしっかりとその点を双方が確認するようにしましょう。
(3)匿名組合の終了
匿名組合契約は、契約で存続期間を定めた場合にはその期間が終了したときに終了します。
また、存続期間の定めがない場合、またはある当事者が生きている限り存続すると定めた場合には、各事業者は営業年度の終了時において契約の解除をすることができます(商法540条1項)。
ただし、この契約の解除をする場合には6か月前にその旨を予告しなければなりません(同条項但書)。
匿名組合の存続期間の定めの有無に関係なく、やむを得ない事由がある場合には、各当事者はいつでも匿名組合契約の解除をすることができます。
さらに、商法541条各号に該当する事由があれば、匿名組合契約は終了します。
- 匿名組合の目的である事業の成功又はその成功の不能
- 営業者の死亡または営業者が後見開始の審判を受けたこと。
- 営業者又は匿名組合員が破産手続開始の決定を受けたこと。
匿名組合契約が終了すると、匿名組合員は、営業者に対して、出資額の返還を請求する権利を得ます(商法542条)。
もっとも、出資額が損失によって減少している場合には、その残額を請求できるにとどまるため(同条但書)、匿名組合員は、出資額の全額を失うリスクもあることを知っておかなければなりません。
6.まとめ
今回は、近年改めて注目を集めている匿名組合について紹介しました。
匿名組合は、営業者と出資者との間での二者契約であることから、柔軟な契約を行うことも可能です。
一方で、契約の内容によっては両者が思わぬ損失を被る可能性もあります。
匿名契約の締結にあたっては、弁護士などの専門家の意見を聞きながら、それぞれの利益を最大化できるような契約を行えるようにしましょう。
スタートアップドライブでは、法務や契約書の相談に最適な専門家や法律事務所を無料で紹介します。
お電話で03-6206-1106(受付時間 9:00〜18:00(日・祝を除く))、
または24時間365日相談可能な以下のフォームよりお問い合わせください。