判例

労働判例の読み方(職務停止)【学校法人Y大学(セクハラ)事件】東京地裁H30.8.8判決(労判1210.96)

0.事案の概要

 この事案は、女子学生にLINEで送信した会話内容がセクハラに該当するとして、大学Yから停職1か月の懲戒処分を受けた准教授Xが、処分の効力を争った事案です。裁判所は、Xの主張を認め、懲戒処分を無効と判断しました。

1.特徴

 裁判所は、セクハラ行為自体は認定しました。Yの調査で、女子学生を追い詰めるような送信もあったことなどを、X自身が認容したようで、処分前の調査手続や弁明手続も、踏まれていたようです。
 けれども、Xが女子学生をデートに誘う表現も、女子学生に断れればそれ以上繰り返されることはなく、むしろ、断れられることを前提とした冗談であり、ゼミ希望を理由にデートに誘う目論見はないこと、女子学生の対応もフランクで、困惑している様子がうかがえないこと、Xに懲戒処分歴がなく、反省していること、停職処分は懲戒解雇につぐ重いものであること、などから、懲戒処分が重すぎると判断したのです。

2.実務上のポイント

 ここで読み取れることの1つ目は、懲戒処分の相当性の判断は、刑事事件の量刑の判断と極めて類似している点です。処分のバランスが問題にされています。
 ところで、会社によっては、ハラスメントに対して非常に厳しい姿勢で臨む場合があります。そのような場合にも、ここで裁判所が示したように、従業員にとって寛大な処分が必要となるのでしょうか。
 この点は、厳しい処分をする会社の実際の懲戒処分の運用によって異なってくるように思われます。
 すなわち、例えば日頃から従業員全体に対して、ハラスメントに対して厳しく望むことを警告しており、それが十分浸透していること、実際に、厳しい処分が先例として存在すること、手続きや処分内容が公正で、厳しいなりに従業員も納得できること、等の状況にあれば、会社の判断を曲げて、裁判所が無理やり軽い処分を強要することは、なかなかできないでしょう。
 刑事時事件の量刑と似ているといっても、このように、処分レベルはそれぞれの会社に応じて決まるべきことですから、ここで参考にすべきは、量刑のレベルというよりも、どのような事情をどのように評価するのか、どのようなプロセスを踏めば適切と評価してもらえるのか、という点です。
 2つ目は、セクハラの認定基準です。
 裁判官から見て、冗談に見え、女子学生も困惑して見えない、という状況であれば、客観的に見てセクハラのレベルではない、と評価できるのではないか、という疑問です。
 たしかに、ハラスメント該当性は、もちろんハラスメントの被害者が被害を感じなければ始まりませんから、被害者の主観的な感情的評価から話が始まります(損害要件)。しかし、ハラスメント行為(違法性要件)は、客観的に一般的な常識的判断によります。この意味で、裁判所は「客観説」を採用していると言われます。その裁判所が、本事案でこのように評価しているのだから、パワハラではない、という評価があり得るのです。
 けれども、どのような振る舞いが要求されるのか、ということは、その者の職業や地位等によって異なります。客観的に見るといっても、その者と同じ立場の人に共通する常識が基準になります。
 そうして見ると、たしかに、年頃の若者を預かる大学の教員が、新たなゼミ生の募集ということで、それほど信頼関係も築けていない生徒に対して、誤解を与える表現をすること自体控えるべきであると言えそうです。そうであれば、「客観説」から見ても、この事案でセクハラの成立を認めたのは合理性があると言えるでしょう。
 つまり、この裁判例をもって、裁判所が「主観説」を認めたとか、セクハラの基準を一般的に高く設定したと評価すべきではない、と考えられます。

ABOUT ME
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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