0.事案の概要
この事案は、会社Yの従業員であり、組合委員長であるXが、ある政党の機関誌に記事を掲載させたところ、その記事によりYの社会的評価が下がった、としてXに対して与えた懲戒処分について、これを有効とした1審判決を覆し、2審の裁判所は懲戒処分を無効としました。
1.2審の特徴
特に注目されるのは、1審と異なる判断をしたポイントです。
すなわち、①1審では、記事の中に真実でない部分がある、としたのに対し、2審では、真実が証明された、と認定し、②1審では、Yの信用が毀損された、としたのに対し、2審では、Yの社会的信用を低下させる、としつつ、それが「公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的でなされたものであって、適示された事実が真実であることが証明された」場合に該当するとして、情報提供行為に違法性がなく、不法行為が成立しないから、懲戒事由に該当しない、と判断したのです。
2.実務上のポイント
懲戒処分を出す立場で考えてみましょう。
この裁判例では、会社の社会的信用が低下しても、すなわち形式的には懲戒事由に該当しても、懲戒処分できない場合のあることが示されました。
このような事態になれば、多くの会社で、会社が損害を被っているのに懲戒処分できないのは何故だ、と議論が起きるでしょう。
1つ目の方法は、会社として懲戒処分を行い、その是非を司法に問う、という判断です。これは、違法性の判断は、懲戒処分の有無の判断よりも規範的な要素が多く、会社が適切に評価しにくいこと、結果的に違法である、したがって懲戒処分も有効に行われたはずである、として、懲戒処分すべきであるのにしなかった、と経営が非難される可能性もあること、等が根拠になります。
2つ目の方法は、違法性がないと評価される可能性が高い場合には、懲戒処分しない、という判断です。これは、懲戒権の発動は謙抑的であるべきとする考えを前提にします。違法性の評価が難しい点に関して言えば、例えば社外の弁護士、特に名誉棄損と報道の問題に詳しい弁護士の意見を聞くなどの方法で、その判断の合理性を担保します。
会社として、対立する関係にある従業員に対して厳しく対応してしまう傾向があることは理解します。けれども、従業員への対応がどのように報道されたのか、という問題は、その従業員との紛争から見れば、派生した付随的な問題で、この報道問題を解決しても、従業員との間の本質的な問題が解決されるわけではありません。むしろ、論点をさらに一つ増やし、紛争解決をより難しくする面があります。
もちろん、例えば会社の業務指示に従わない従業員に対し、適切な注意や指導に加え、適切な懲戒処分を与えていくことは、業務指示に従う機会を与える、という意味で一貫していますので、その従業員を解雇するプロセスとして理解できます。しかし、違法性が否定される可能性のある表現活動への懲戒処分は、業務指示に従わせる機会を与える意味が薄く、その従業員を解雇するプロセスとしての意義が小さいのです。
したがって、従業員と揉めている問題を根本的に解決するプロセスの中で、当該報道問題をどのように解決すべきかを冷静に考え、対応方針を決めるべきでしょう。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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