0.事案の概要
この事案は、H17.5に菓子等の製造を行う会社Yに営業職として採用された従業員Xが、H28.4に営業部から製造部へ異動させられ、給与や手当が27万900円/月から、5万円/月減額された。Xは、労働審判を申立て、和解を経て元の額に戻った。しかし、H29.2に、同様に5万円/月減額する旨通告され、Xが異議を伝えると、Yは減額内容を変更し、7万円/月を減額するに至った。賞与も、H27夏から減らされていき、H29冬は3000円となり、他の正社員と比較してその最低額を大きく下回る状態になった。 そこで、Xは、①減額前の賃金を受ける地位の確認、②賞与損害額・慰謝料の支払い、③パワハラによる慰謝料の支払い、を求めて訴訟を提起した。という事案です。
裁判所は、①はXの請求を全て認め、②は慰謝料として20万円の賠償責任を認め、③は50万円の賠償責任を認めました。
1.給与の減額①
Xは、個別の合意で給与が決まったのであって、就業規則(給与規程)の適用はないこと、給与規程の規定自体が抽象的であること、減額するための合理的な人事評価が行われていないこと、等を根拠に、給与の減額を無効と評価しました。
2.賞与の減額②
賞与については、諸事情を検証したうえで、Yの査定に委ねられていて、毎年固定・一律等の労使慣行はなかった、として減額分の支払請求を否定しました。
他方、Yの業績が悪い中で、Xよりも安い賃金の従業員を雇って営業を担当させ、Xを製造部に異動させることが不合理とは言えない、としつつ、異動直後の短期間の業務内容を賞与の査定で大きく考慮することは公平でないこと、大きな事故があったわけではないこと、③のパワハラと合わせて考慮すれば、「恣意的に減額した意図が推認される」こと、等を根拠に、慰謝料20万円の支払いを命じました。
3.パワハラ③
この事案で、判決が最もページを割いて詳細に検討しているのは、パワハラです。
裁判所は、①胸を突いた、背中を叩いた、等の3つのエピソードに関するもの(身体に対する暴行、必要性なし、違法な攻撃)と、②業務指導の範囲を超え、Xの名誉感情を害する侮辱的な言辞や威圧的な言動であって、人格権を侵害するもの、について、不法行為の成立を認めています。
他方、Xへの指導・研さんとなるもの、業務上必要な指示、繁忙期への対応に必要な命令、等について、嫌がらせ目的ではない本来の目的があることや、人格権侵害のレベルではないことを認定し、不法行為の成立を否定しています。
このように、必要性と相当性からパワハラの成否を判断する、というのは、法改正によって明確にされたパワハラの定義にも合致するものです。
そのうえで、損害賠償金50万円の支払いを命じました。
4.実務上のポイント
会社の業績悪化や経営方針の変更による人材の活用方法の変更に伴い、給与水準が高かった従業員の業務内容を変更し、言及する場合の減給の方法として、本人の同意なしに一方的に減給することは困難です。お金に関わることですので、例えば「整理解雇」の場合と同様な慎重な検討とプロセスが必要だったはずです。
また、そのようなコミュニケーション不足がXと会社の関係を悪化させ、ハラスメント問題を発生させました。
業績悪化のときこそ、従業員とのコミュニケーションが重要となるのです。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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