判例

労働判例の読み方「問題准教授」【学校法人V大学(人事措置等)事件】東京地裁平29.8.10判決(労判1182.73)

0.事案の概要

 この裁判例は、学生への配慮のない言動を繰り返す大学の準教授に対し、大学側が行った様々な処分(会議への参加禁止処分、必要科目担当から外す処分、研究室への卒業生配属停止処分、戒告処分)の無効確認や損害賠償を求めた事案で、准教授の請求を全て否定しました。

1.特徴

 最近の労働判例では、学校や病院のトラブルを多く見かけます。
 それは、研究者や医師を相手にする人事の難しさに原因があるように思われます。
 すなわち、研究者や医師には、その専門性から大幅な裁量権が認められるため、使用者側が思い切った人事措置を躊躇い、その結果、両当事者に不満やストレスが溜まっていき、トラブルとなってしまうことが大きな原因と考考えられます。
 あるいは、我慢して事態を悪化させるのではなく、慎重に検討し、控えめな処分を行う場合も増えています。
 この事例は、後者に属します。
 すなわち、大学側が執った措置と言っても、①懲戒処分としては、懲戒解雇や解雇ではなく、(おそらく)最も軽い戒告処分であり、②人事処分としては、大学での研究活動や教育活動を全て停止するものではなく、例えば必要科目の担当から外すにとどまるなど、民間企業であれば到底考えられないほどの、穏便なものにとどまります。
 そして、研究者相手の人事が難しいことの表れと思いますが、これだけ慎重に処分を行っても、研究者のプライドが高いからなのか、この準教授が訴訟を提起するのは二回目になるのです。

2.実務上のポイント

 大きな裁量権を有する研究者を相手に、その裁量を否定する処分を行うことから、使用者側が負うハードルは一段落高くなります。一般的な会社であれば、人事側の裁量権が当然の前提となっていますが、特に大学などでは、研究者の裁量権も広く認められます。大学側の措置は、裏返すと、研究者の裁量権を制限するのですから、それだけの合理性が要求されるのです。
 とは言うものの、その合理性はどの程度のレベルのもので、どのような事情で証明するのか、等のルールやレベル感は十分確立していません。
 今後の動向次第で決まっていくものですが、現時点で参考になりそうなものが、ハラスメント事案です。
 そこでは、会社側の人間(管理職)による人事権の濫用が問題とされており、管理職による人事権の濫用があったかどうか、つまり通常合理的と評価されるべき人事権の範囲を超えた言動があったかどうか、が一つの視点となります。
 立場は逆ですが、大学の研究者の場合にも、研究者としての裁量権の濫用があったかどうか、つまり通常合理的と評価されるべき裁量権の範囲を超えた言動があったかどうか、を一つの基準としてみれば、判断に大きな間違いは生じないように思われるのです。
 実際、この事案でも、研究者の学生に対する尊大な言動が事の発端です。准教授に、研究者として許される限度を超えた言動があった、と見れば、裁判所の判断にも合理性があるように思われます。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

この記事の執筆・監修専門家
芦原 一郎
芦原 一郎
Seven Rich法律事務所 ジェネラルカウンセル/弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰 お問い合わせは、ashihara@sr-l.comまで。
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