0.事案の概要
この裁判例は、トラック運転手が、業務と無関係に罹患した胃癌の術後の管理のために休職していたが、休職期間満了前に治癒したとして復職しようとしたところ、会社が、休職事由が存続するとして復職を認めず、休職期間満了による退職となった事案に対するものです。
裁判所は、休職事由が消滅していた、として運転手が労働契約上の地位にあることを認めました。
1.復職トラブルの一般的な形
療養休職の復職を巡るトラブルでは、多くの場合、復職を求める従業員と主治医が、これを認めようとしない会社と産業医に対立します。
すなわち、復職が認められなければ、多くの就業規則で休職期間満了を理由に自然退職となることが多いことから、何としても復職することで従業員としての地位を維持したい、という従業員側が、会社に戻っても十分働けないだろう、と考える会社側と対立する、という構図です。
ここでは、主治医と産業医も対立することが多く見受けられます。
すなわち、極端な主治医は、会社も病院と同様、従業員の治療に協力すべきであり、会社で働きながら治療できるようにサポートしなければならない、と考えるのに対し、産業医は、働けるようになってから帰ってくる必要がある、と考えます。
このようなことから、この裁判所も、傷病の内容や治療の経過などを、主治医だけでなく産業医の見解も総合的に判断して、復職可能性を判断する、としています。
2.本事案の特徴
ところが、本事案では、主治医も従業員の復職に否定的な立場に立ちます。
すなわち、休職期間満了よりもかなり以前から病気は治癒しており、もっと早く復職すべきだった、という趣旨の意見を示しています。この意見も一つの根拠となり、会社側は、復職できるのに復職できないと虚偽の報告をした、など運転手の対応の不誠実さ(信義則違反)を根拠に、復職が認められないと主張したのです。
この主張を、裁判所は否定しました。
それは、休職事由に「療養及び治療への専念」と記載されていて、入院治療だけではなく、自宅療養も含まれること、運転手も休職期間の引き延ばしを意図したわけではないこと、等と評価したからです。
3.実務上のポイント
本事案は控訴審でより深く議論されることと思いますが、事実認定に関し、疑問に思うことがあります。
それは、主治医の意見です。
主治医は、下痢ですぐにトイレに行くようでは仕事にならない、したがってもっとしっかり治したい、という運転手の希望を頭から理解しようとせず、普通の人であれば十分働ける、と評価し、運転手に対して反感すら抱いている様子が窺えるのです。
主治医と運転手との間のコミュニケーションに問題があったのか、主治医にトラック運転手という業務への理解が足りないのか、主治医が「療養及び治療」となっていることを知らず、単に「治療」だけを問題にしていたのか、原因は不明ですが、主治医が運転手と一体ではない理由が気になるところです。
だからと言って、ここぞとばかりに主治医の見解に安易に乗っかることにも問題があります。
結局、「治療」でなく「療養及び治療」であれば問題なく復職できた、と判断されてしまい、運転手とのトラブルがより深刻な事態に悪化してしまったのです。
本来であれば従業員の立場に立って意見を言うべき主治医が、従業員のためにならない意見を言っているときに、その背景に何があるのか、納得いくまで主治医の話を確認しておけば、無理な復職拒否(これに続く訴訟や一審敗訴)を避けることができたかもしれません。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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