判例

労働判例の読み方「復職拒否」【エターナルキャストほか事件】東京地裁平29.3.13判決(労判1189.129)

0.事案の概要

 この事件は、ミスが多い経理担当の従業員に対し、会社が数度にわたって過剰な退職勧奨をし、その結果うつ病となった従業員が、就業規則に基づきH26.8.27~11.26の休職命令後、就業規則の規定により休職期間満了までに復職できなかったことを理由に退職となった事案です。
 裁判所は、経理担当を外したことは違法でないとしつつ、度重なる過剰な退職勧奨を違法とし、さらに、業務が原因かどうかは特定できなくても、従業員のうつ病はこの過剰な退職勧奨などの業務に起因して悪化しているとして、休職期間満了を理由とする退職は認められない、と判断しました。
 ここでは、退職勧奨が過剰かどうかの点ではなく、それによってうつ病が悪化して休職となった場合、休職期間満了による退職が認められない、とした点を、検討します。

1.休職期間満了による退職の根拠

 限界を検討する前に、そもそもなぜ自然退職が認められるのかという根拠の方から確認しましょう。
 それは、この会社の場合、約款の退職事由の中に「休職期間が満了しても休職事由が消滅しないとき」という記載があるからです。
 これは、一定の事実が生じた場合に当然に契約の解消を認めるもので、その合理性が問題になりますが、相当期間の休職期間を設けるので、そこで従業員の復職の機会も確保されていると評価できますので、合理性の認められる場合が多いと思われます。

2.休職期間の満了による退職の限界

 次に、限界です。この裁判例では、2つの限界が示されました。
 1つ目は、就業規則の規定です。
 上記で引用した就業規則の規定には、「休職期間」という用語がありますが、この就業規則の別のところで、休職の意義について「事業外の傷病により」という用語が用いられています。
 そして、業務によって発生したかどうかはわからなくても、少なくともこれを悪化させたのであれば、「業務外の傷病により」に該当しない、と判断されました。
 2つ目は、労働基準法191項の規定です。
 これは、業務上の傷病による休職中の解雇を禁止する規定です。本来、これは「解雇」を禁止するものであって、この事案のように「退職」を禁止するものではありません。「解雇」は会社の意思表示による労働契約終了であり、「退職」は、一般には従業員の意思表示による労働契約終了です(この事案の「退職」のように、従業員の意思によらず、一定の事由が生ずることで労働契約が終了する場合を「自然退職」という場合もあります)。
 しかし、労働基準法191項の規定の本来の趣旨から考えた場合、業務によって傷病を負った従業員の地位を守る、という意味では、「解雇」と「退職」に大きな違いはありません。したがって、傷病休職については、労働基準法191項が類推適用される、とする裁判例が既に見受けられました。
 この裁判例も、同様に、労働基準法191項を類推適用し、休職期間満了による「退職」の効力を否定したのです。

3.おわりに

 ここでは、退職勧奨が過剰だったことが違法とされていますが、これには2つの問題があることも、確認しておきましょう。
 1つ目は、退職自体の効力です。
 最近の裁判例では、「労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない」(最高裁三小判H2.11.26労判584.6「日新製鋼事件」)ことが重視されますので、もしこの事案が「自然退職」ではなく「自主退職」であれば、この基準により退職が無効と評価された可能性が高いと思われます。
 2つ目は、損害賠償です。
 いわゆる精神的慰謝料(民法710条)の問題であり、この事案でも、(金額としては小さいですが)損害賠償請求が認められました。
 この点を理解してこの判例を読めば、退職勧奨が違法となるのはどのような場合なのかを理解する一つの参考事例となります。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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