判例

労働判例の読み方「公務員」【吹田市(臨時雇用員)事件】大阪地裁平31.2.13判決(労判1206.28)

0.事案の概要

 この事案は、先天性の知的障害と自閉症を有していて、H18.6.1以降、吹田市Yに有期雇用され、任期3か月・6か月の任用期間を継続的に結んできた(但し、時々1ヶ月間、任用されない期間が置かれている)非常勤公務員Xが、①公務員としての地位があることの確認を請求し、②損害賠償を請求した事案です。裁判所は、Xのいずれの主張も否定しました。

1.①の判断枠組み(ルール)

 ①公務員としての地位について、Xは、a)そもそも、Xは非常勤職員ではなく、「常時勤務する職員」(常勤職員)であった、という法律構成と、b)解雇権の濫用である、という法律構成を主張しています。
 このうち、a)は、障害者雇用促進法によって常勤職員になるわけではない(同法は、必要な施策推進の努力義務を定めたにすぎない)、Yは明確に非常勤職員と認識して意思決定し、各種書類にも明記されている、時々1か月間、任用されない期間があるなど、非常勤職員という形態は形骸化していない、などの理由から、そもそも常勤職員であった、という主張を否定しています。
 判断枠組みとして見た場合、常勤職員であったと認定されるべき例外的な場合については言及されていません。他方、非常勤形態が形骸化している場合にどのようになるのか、についての明確な言及のないことに着目すれば、非常勤形態が形骸化しているかどうかをわざわざ検証していることから、この場合には常勤職員と評価される可能性がある、という評価も可能でしょう。しかし、b)のように非常勤→非常勤が難しいのに、非常勤→常勤が可能、という関係ですので、この可能性は小さいと思われます。
 b)は、労契法22条1項が地方公務員に労契法が適用されないと明記されている点などを根拠に、解雇権濫用の法理の適用や類推適用(労契法16条、19条を意識しているようです)を否定しました。
 判断枠組みとして見た場合、非常勤職員の更新拒絶に関し、雇用継続が例外的に認められる場合が示されていません。非常勤での勤務の継続が例外的に認められる余地が全く認められないような判断が示されたのです。
 このように、いずれの法律構成によったとしても、Xが公務員としての地位を認められるべき可能性は、判断枠組みの段階で、極めて小さいことになります。

2.②の判断枠組み(ルール)

 ②損害賠償について、裁判所は、「任命権者が、期限付任用に係る非常勤職員に対して、任用期間満了後も任用を続けることを確約し保障するなど、期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別の事情がある場合には、当事者間の信頼関係を不当に侵害するものとして、当該非常勤職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき、国賠法に基づく賠償を認める余地があり得る(最高裁判所平成6年7月14日第一小法廷判決・裁判集民事172号819頁)」としました。これは、大阪大学(図書館事務補佐員)事件と称される事件で、公務員の損害賠償責任に関する判断が示されました。
 ここでの裁判所の判断により、「更新の期待」に相当する「任用継続の期待」がある場合には、損害賠償責任が認められる可能性がある、という判断枠組みが示されました。

3.②のあてはめ

 この事案は、更新拒絶(不再任用)が2回ありました。
 1回目は、Xの財産管理などのためにXが被保佐人となった時点です。このとき、Yは地公法16条1号の欠格事由に該当する、という理由ではなく、任期満了を理由に、再任用を拒否しました。
 そこで、Xは保佐の取り消し決定を得て、臨時雇用員として再任用されましたが、このとき、Xが提出する誓約書に、「以降更新しない」という不更新文言が記載されました。
 このような経緯を重視し、裁判所は、更新の期待を否定し、Xの損害賠償請求を否定したのです。

4.実務上のポイント

 民間企業の参考になる点はあまりありませんが、障害者雇用促進法と地公法の関係が気になるところです。
 すなわち、一方で障害者の雇用促進が、地方公共団体にも求められているのに、地公法では被保佐人などになることが公務員としての欠格事由に該当するとされています。障害者が被保佐人に選任されるべき場合が多いように思われる(財産管理やサポートが重要だから)中で、これでは、実際にXが保佐の取り消しを迫られたように、公務員を続けるのか、被保佐人となってサポートを受けるのか、が迫られることになってしまいます。また、考えようによっては、被保佐人となって保佐人による財産管理やサポートを受ける状態になった方が、安心して仕事を任せられる状況になる、とも評価できそうです。
 1つの対応としては、法律上欠格事由に該当するとしても、被保佐人となった場合に再任用を拒絶することは、障害者の差別につながりかねないので、再任用する、という運用による対応です。
 けれども、地方自治体が地公法の規定に違反し、欠格事由のある者を任用することは、公務員の法令順守義務(地公法32条)に反することになり、現実的な対応策ではありません。
 この裁判例によって、障害者雇用促進法と地公法の関係に関する問題点が明らかになった、と考えるべきでしょう。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

ABOUT ME
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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