判例

労働判例の読み方「懲戒免職」【国・防衛大臣(海上自衛隊厚木航空基地隊自衛官)事件】東京地裁平30.10.25判決(労判1201.84)

0.事案の概要

 この事案は、コンビニで栄養ドリンク1本の万引きを2回行った自衛隊員Xを、自衛隊Yが懲戒免職した事案で、裁判所は、免職処分を違法と評価しました。

1.公務員の免職処分

 民間企業の場合の従業員の解雇については、労契法16条の「解雇権濫用の法理」によって、自由に解雇できないことになっています。
 他方、公務員の場合には、免職(解雇)する行為は行政庁の裁量であり、原則として自由だが、濫用は許されない、とされています。
 労契法16条の規定も、解雇権を濫用したことが有効性を否定する事情になるように書かれていますから、文法通りに見れば、立証責任や立証の負担の問題として見た場合、民間企業も公務員も、同じように見えます。
 けれども、「解雇権濫用の法理」については、解雇することの合理性を会社の側が証明しなければならないような判断が多く示されており、実際は、従業員に対し、「さあ、どこが濫用なのか、証明してみろ」と立証の負担を負わせるような運用になっていません。
 つまり、民間企業については、実質的に、解雇の合理性を会社が証明できるようでなければ解雇できない状況になっているのです。
 他方、公務員は、公務員の側が、解雇(免職)の濫用を証明しなければ、公務員が勝訴できないような裁判例が多く見受けられます。つまり、公務員に対し、「さあ、どこが濫用なのか、証明してみろ」と立証の負担を負わせるような運用が残っているように見えるのです。
 このような傾向の中で、裁判所は、コンビニで栄養ドリンクを2回万引きしただけで免職することは、さすがに「濫用」である、と認定しました。例外ルールが適用されることを認めました。
 たしかに、Xは若年性認知症の影響である、と主張したものの、裁判所は、迷わず栄養ドリンクの棚に向かって栄養ドリンクを隠し持った、など、商品の選択や犯罪の認識などについて、判断能力があったとうかがわせる事情があるとして、若年性認知症の影響を否定しています。Xの動機や判断に同情すべき点はない、ということでしょう。
 しかし、被害の程度が軽微で、態様も特段悪質ではなく、被害弁償も済んでいるなどを踏まえ、さらに、Xに弁明の機会すら与えられなかった点も考慮して、懲戒免職が重すぎる、と評価したのです。

2.自衛隊の事情

 さらに、この事案で配慮すべき点は、なぜ栄養ドリンク剤2本で懲戒免職に及んだのか、という自衛隊側の事情です。
 昔から、公務員や民営化前の国鉄など、公的な機関の職員の私生活上の非行については、特に事例として多く見かけるのが休日の飲酒運転ですが、非常に厳しい処分が行われる傾向があるようで、実際に処分を有効とする裁判例も多くあります。「公務員に対する社会の信頼の破壊」等が、その根拠とされます。
 さらに、自衛隊の場合には隊内の規律の問題もあるでしょう。実際に戦力を行使して戦う状況になれば、上司の命令は絶対であり、規律を乱すことは隊員全員の命にもかかわります。同じ公務員の中でも、特に規律維持の重要性が高い職種、と言えるでしょう。
 また、自衛隊員の不祥事については、特にマスコミなどで大きく取り上げられることが多く、隊員の軽い不祥事であっても、自衛隊に対する社会的な信用の毀損は極めて大きいと言えるでしょう。
 Yは、このような事情も当然主張したはずですから、裁判所は、このような事情があっても、処分が重すぎると評価したことになります。

3.実務上のポイント

 Yは、Xが栄養ドリンク2本にとどまらず、さらに多くの回数、より多くの品物を万引した、と主張しています。問題となったコンビニの映像なども証拠として提出され、犯行直後にXが認容した内容(もっと多数の万引きを認容した書面など)も証拠として提出されています。
 けれども、最終的には、栄養ドリンク2本の万引きしか確認できない、と認定されました。
 仮に、より多くの機会で、より多くの品物が万引きされたとしても、この事案では数千円の損害の話であり、懲戒免職が有効になったかどうかは疑問です。
 けれども、ここで特に問題にしたいのは、エビデンスです。
 従業員が犯行直後に作成した資料によって犯行は十分証明された、という判断のもと、懲戒免職を決定したと思われます。さらに、過去に、同様の窃盗事件で同様の処分をした事例があるのかもしれません。
 そして、一般の民間企業でも、従業員の自白があれば、それで責任を負わせることができる、と判断する場合が多いと思われます。
 しかし、その自白の効力が否定される事態も考慮すれば、本人の弁明の機会にも関わり、懲戒免職の決め手となる重要な証拠の信用性の問題ですので、より慎重な検証がされるべきだったでしょう。懲戒処分については、処分の公平性を確保するために、過去の事例と比較し、過去の事例と同様の処分をする傾向があります。だからといって、個別事案の問題の十分な検証も、忘れてはならないのです。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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