起業家の皆さんの中には、あるサービスやプロダクトのアイデアを思い付き、そのアイデアをもとに自分で起業をしてみたい、と思う方は多くいらっしゃるでしょう。
起業には時間や、お金、人材、など様々なリソースが必要となります。これらのリソースを投入し、苦労の末にやっと事業を軌道に乗せた際に、他の会社にその事業を模倣されてしまっては元も子もありません。
こうしたビジネスに関連するアイデアを、第三者や他社による模倣を防ぐ手段としてあるのが、「特許権」等の知的財産権です。
今回の記事では、ベンチャーやスタートアップを起業したい、又は起業して1,2年以内の起業家の方を対象に、起業における特許のメリット・デメリットとその活用方法について解説させていただきます。
目次
1.起業の際に特許を取得するメリットは?
(1)特許を侵害された場合に、差し止めや損賠賠償請求が可能に
特許は、発明を保護するための制度であり、特許権が付与された技術を第三者が模倣した場合、差し止め請求や損害賠償請求が可能となります。損害賠償では、他社の模倣によって得られていたであろう利益が損害額として認められるため、大きな金額を得ることができるケースが多くあります。
(2)ライセンス収入を得ることができる
また、自社で特許を実施しない場合であっても、他社に対してライセンス提供を行い、発明を実施してもらえればライセンス収入を得ることが可能です。
(3)資金調達やM&Aの際に有利に
最近では、融資や出資の際に特許の有無を判断材料の一つとすることも増えてきました。特に、技術力が重要となるテックベンチャーなどの場合では、特許は差別化要素として高く評価されます。
(4)事業の技術アイデアを明確にすることができる
また、事業のスタート前のタイミングで特許を取得しようとした場合、その過程でサービスや製品のアイデアが明確になっていく、という利点もあります。サービスを実際に開発することと比較すると、特許出願の費用は低く済みますので、特許の調査や出願を通じて競合サービスの調査を行って競合分析をしたり、自社の技術の強みを理解したりといったことが可能となります。
2.どういったアイデアが特許になるのか?
それでは、特許とは何か、特許とはどういうものが権利として確保できるのか、について解説させていただきます。
(1)特許の対象となる発明は「物」「方法」であることが基本
特許の対象となるものは、発明と呼ばれていますが、発明とは「自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの」と定義されています。
この定義では少しわかりにくいので、具体的なお話をしますと、例えばゲームのルールや、人の育成方法等のように単なる人為的な取り決めなどは除外されるということです。
したがって、例えば何か物体の構造としての「物」や、画像処理などをコンピューターで行う処理の「方法」等が特許の対象となります。
(2)ビジネスモデル特許とは?
ここで、よく話題に上がる「ビジネスモデル特許」の場合、上記には当てはまらないのでは?と思う方もいらっしゃると思います。
ビジネスモデルって、単にビジネス上の取り決めなので自然法則を利用していないのでは?と感じるのではないでしょうか?
実は、その視点は正しく、いわゆるビジネスモデルというものは特許権の保護対象ではないのです。ビジネスモデル特許として保護されるのは、何らかのビジネス上の仕組みをコンピューターなどのハードウェアを活用することで自動化し、処理できるようにしたものなのです。
したがって、ビジネスモデル特許を取得するためには、プログラミング等により自動化したアイデアでなければなりません。
3.スタートアップが特許を取得するべき時期は?
特許がどういうものかはご理解いただけましたでしょうか?
続いて、特許を起業のどのタイミングで取得するべきかを解説させていただきます。
(1)起業する前の働いてる時に出願する
まず選択肢としてありえるのが、起業前に出願をしてしまう、ということです。特許は、実は製品として完成していなくても出願して取得することが可能です。例えば、あるITサービスを立ち上げたい場合において、そのサービスを製品としてプログラミングをしていく場合には、それなりの時間と費用が掛かってしまうと思います。実は、特許はこうした製品が完成していなくても出願することが可能であり、アイデアとして固まっていれば出願が可能なのです。
特許出願には弁理士に依頼して出願書類を作成してもらう場合に費用は掛かりますが、この費用は実際に製品を作っていくことと比較すると、金額的には小さいものとなるでしょう。特許を出願する中で、アイデアが明確になり、製品として必要な機能の仕様も固まってきますので、仕事を辞めて起業する前に、それまでの貯蓄の中で出願してしまうというのも一つの選択肢でしょう。
(2)起業後、製品・サービスリリース前に出願する
続いで、実際に起業して会社を設立し、製品やサービスをリリースする前に出願する場合もあるでしょう。特許は、いまだ世の中に出ていない技術を保護する目的のための制度です。したがって、例え自分のサービスであっても一旦世の中に対して公開されてしまうと、特許を取得することができなくなってしまいます。そのため、公開することによってその技術がわかってしまうものについては、特許取得を行いたい場合、必ず製品の発表前に行うべきです。
(3)製品やサービスリリース後に軌道に乗ってきたタイミングで出願する
製品等を公開してリリースした後でも特許を取得する方法はあります。特許は未公開の技術を保護するものであるため、一度公開してしまうと特許をとることができなくなってしまうのは上述した通りですが、例えば
・サービス公開時には最低限の機能のみを実装しており、特許の対象となる技術については後から追加開発して公開する場合
・サービス公開時に搭載はされているが、バックグラウンドで処理をする技術であるため、サービスを見てもその技術が公開されているかどうかはわからない
などの場合は、特許を取得することは可能です。特許出願には費用が掛かるため、まずはサービスやプロダクトをリリースして、事業性を判断してから出願するかを検討したい、という方はこのやり方を検討してみましょう。
4.特許の取得の流れは?
特許の出願の時期についてはイメージがわきましたでしょうか?続いては、特許を取得するための出願手続きの流れについて解説させていただきます。
(1)出願に必要なアイデアや仕様を文書として固める
まずは特許のアイデアを明確にするためにそこを資料として作成していく必要があります。特許として出願するためには、その資料を見た人がその技術を利用して自分でも発明を利用することができる水準で情報を記載している必要があります。したがって、特許出願の前にはそういった技術的な資料を作成していきます。例えば、ITサービスの特許の場合、画面のUIUXや、データベースの構成、主要な処理の部分のフロー図などは最低限必要な内容になっています。
(2)専門家である弁理士に相談する
技術資料がある程度できた段階で、特許出願の専門家である弁理士に相談します。特許出願は自分でも行うことができますが、非常に専門性の高い文書を作成する必要があるため、独力で出願して権利を取得するのはかなりハードルの高いものとなっています。
技術分野に精通した弁理士に相談すれば、新しい技術のアイデアを出してもらえたり、足りない部分を指摘してもらえたりするため、特許としてよりよい権利を得るのにも役立ちます。
(3)出願書類を弁理士と作成する
弁理士と相談してみて、特許にできそうという所感を得ることができた場合、弁理士に特許出願明細書と呼ばれる書類の作成を依頼します。作成には大体数週間~1か月程度かかります。こちら作成した内容を確認し、追加する点や修正点などがないかをやり取りしながら、文書を仕上げていきます。
(4)特許庁に出願する
完成した特許明細書は弁理士によって特許庁に提出します。
(5)審査請求を行う
日本における特許制度では、出願しただけではその特許出願は審査がされません。
出願から3年以内に特許の審査を希望する場合は、特許庁に対して、出願審査請求という書類と、特許審査料を支払い、特許審査を行ってもらいます。
(6)拒絶理由通知に対応する
特許審査が開始されると、通常何回かの拒絶理由が通知されます。これは、進歩性や新規性といわれる特許性を具備しているかどうか、等の観点から拒絶理由通知を特許庁の審査官が通知してきます。この拒絶理由通知はほとんどの出願に対して通知されるため、拒絶されたからと言って、特許がとれないのかと諦める必要はありません。こちらの拒絶理由通知に対応する補正や意見書を提出することで、特許の権利範囲が定まっていきます。
(7)特許査定が出たら、特許料を支払う
特許庁の審査官は、拒絶理由がそれ以上見つからないとみなした時点で、特許査定を行います。特許査定がでると、あとは特許料を支払うことで特許権が成立します。
5.特許取得にかかる費用は?
特許取得には費用がかかることは上述した通りですが、この章では費用の詳細について見ていきましょう。
(1)特許出願料
特許出願料は、特許の出願時に特許庁に支払うものであり、12,000円と一律になります。
(2)弁理士への代理人費用
弁理士に特許出願を依頼した場合にかかる費用です。弁理士の報酬体系は、弁理士ごとにことなっていますが、目安としては
出願時:30万~50万
登録時:20万~50万
とトータルで50万~100万円程度の報酬となるケースが多いようです。
(3)審査請求費用
審査請求費用は、特許出願の審査請求を行う際に特許庁に支払う費用です。特許制度では、必要性の高い特許のみを審査請求をしてもらうという意図によって、出願時の費用は低額とし、審査請求費用を高く設定しています。
新料金 | |
通常の特許出願 | 118,000円+請求項数×4,000円 |
(4)中間対応費用
中間対応費用は、拒絶理由に対して弁理士が意見書や補正書を作成する際に必要となる費用です。特許庁に対しては費用は掛かりませんが、弁理士に対して1回あたり5万円~15万円程度の報酬となります。
(5)特許料
特許料は、登録査定がでた特許出願を特許として登録し、維持していくための費用です。料金は、更新するごとに高くなっていき、最長20年間が特許権の期間として設定されています。
項目 | 金額 | |
第1年から第3年まで | 毎年 2,100円に1請求項につき | 200円を加えた額 |
第4年から第6年まで | 毎年 6,400円に1請求項につき | 500円を加えた額 |
第7年から第9年まで | 毎年 19,300円に1請求項につき | 1,500円を加えた額 |
第10年から第25年まで | 毎年 55,400円に1請求項につき | 4,300円を加えた額 |
6.まとめ
いかがだったでしょうか。特許の全体像がわかりましたか。
スタートアップだからこそ少ない資金とリソースで市場にインパクトを与えるために、効果的に特許権を取得しておくこともメリットがあることがわかります。
これを機に、自社製品やサービス、または新しい事業アイデアが特許権で保護できないか考えてみるのもよいでしょう。