0.事案の概要
この事案は、大学の特任准教授Xが、更新拒絶されたため、大学Yとの間の雇用関係が継続していることの確認を求めた事案です。1審は、3年間について雇用関係の存在を認め、2審は、5年間について雇用関係の存在を認めました。
なお、Xは雇用関係の継続を前提に、講義参加、構内立ち入り、論文発表、教授会出席、図書館利用、研究室利用の権利も主張し(妨害排除など)、裁判所は、図書館利用についてだけXの請求を認めましたが、この点については、検討を省略します。
1.更新の期待
1審と2審が共通している点は、Xの更新の期待を認めた点です。
この点は、学生アンケートで高い評価を受けたこと、1年で3つの論文を執筆したこと、FD委員会の副委員長や(付属)中高校長特別補佐の職に就任したこと、などの豊富な業務量と高い評価が実績としてあり、雇止めの直前まで、Yの代表者自身が、雇止めしないことを繰り返し発言していたこと、2年目の担当課目が決まっていて、パンフレットやゼミ生の募集なども行われていたこと、等の認定事実を見れば、特に異論のない判断でしょう。
2.期間
問題は、その期間です。
1審は、募集要項の、更新は最大2回で最長3年まで雇用することがある旨の募集要綱の記載を根拠にしていますが、2審は、就業規則の、通算した契約期間が5年を超えるときはこれを更新しない、という規定を根拠にしています。
すなわち、2審は、実際の運用(H23年以降に新たに雇い入れられた教員の契約更新について、最大3年として運用されていたとは必ずしも言えない)を前提に、募集要綱は契約内容ではない(募集要綱は個別の契約申込行為ではない)、として、就業規則の定める5年間について、「更新についての期待に合理的な理由があると認められる可能性が高い」と評価しました。
もちろん、契約そのものではなく、「合理的な期待」の問題ですから、契約形式上の問題(契約内容かどうか)が決定的な要素ではありません。したがって、2審は実際の運用も根拠として明示しているのです。
けれども、さらに言えば、上記更新の期待で示された、Xの豊富な業務量と高い評価という実績の影響が大きいように思われます。もしXが、ギリギリの評価で何とか更新の「合理的な期待」が認められたのであれば、3年と認定された可能性が高いと思われます。
それは、就業規則の規定も、5年について、その間必ず更新される、と定めたのではなく、更新の上限を示したにすぎず、募集要綱の記載と、内容的に見て同様だからです。すなわち、仮に就業規則の規定の方が優先するとしても、5年は上限にすぎないのだから、その上限いっぱいまで更新の「合理的な期待」があったとするのは、もともと更新の期待がそれだけ大きかったはずなのです。
3.実務上のポイント
この事案では、Xの担当課目が決まり、ゼミ生の募集も行われ、対外的にも広報されていた状況なのに、YがXの更新を拒絶した理由は、学園の再建問題について、Xが執行部の考えに反対する立場の意見を表明したことなどの、政治的な背景があるようです。
学内での政治的な対立が原因となって、教員が解雇されたり雇止めされたりする事件は、ときどき労働判例の中でも見かけますが、Yの対応は、あまりにも拙速でした。
Yは、金銭的な解決を期待したのかもしれませんが、高校教員から大学教員に転じて、精力的に活動してきたXが、金銭的な解決よりも、自分の名誉を重視して、あくまでも判決に拘る、という事態を予測できなかったのでしょうか。さらに、その場合裁判所も、金銭的な損害賠償だけでなく、より踏み込んで、職場復帰まで命じる(労働契約存在確認)可能性が高い事案であると、認識しなかったのでしょうか。
その結果、Yは学内での対立を整理するどころか、かえって対立を抱え込み、より複雑で深刻な状態にしてしまいました。単なる政治的な主張の対立問題でとどまらず、Yは労働権を濫用し、違法な雇止めを行った、という負の実績を作ってしまったのです。
Yの側が政治的に動いたからといって、Xの側が政治的に動くわけではありません。Yにとって、冷静に、客観的な立場から状況を評価し、アドバイスしてもらうことが必要だったのです。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。
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