0.事案の概要
この事案は、会社は、固定残業代を定めた就業規則に基づいた、と主張するのに対し、元従業員らが、残業代などが支払われていない、として未払の残業代などの支払いを請求した事案です。
裁判所は、固定残業代に関する就業規則は効力が発生しておらず、固定残業代のルールは、元従業員らに適用されないとして、残業代の支払いを命じました。
1.固定残業代のルールの適用
ここでは、①元従業員らの就職時に固定残業代の制度について説明されておらず、契約内容でない、と判断しました。一時期から、固定残業代の説明を開始したが、それ以前には説明していない、というのがその大まかな内容です。
次に、②就業規則が改正された結果、これが契約内容になった、とする会社の主張に対しては、就業規則が「周知」されていたかどうかが問題となりました。裁判所は、会社側の主張や供述が変遷していて、実際に従業員が就業規則の存在を知っていて、閲覧が容易にでき、固定残業代に関する改正も知らされていたような事実が認められないと判断しました。
①②いずれについても、詳細な原因は不明ですが、会社が就業規則の適用に必要な手続きや記録化を怠っていたことが、裁判所の判断の根拠と言えるでしょう。
2.諸手当
固定残業代のルールが適用されないとなると、法定の残業代が計算され、支払われます(支払いを命じられます)。そのためには、計算の基礎となる基礎賃金の額が問題になります。
ここで、裁判所は、全ての諸手当ではなく、一部の諸手当についてだけ、基礎賃金に含めることとしました。
裁判所が、基礎賃金に含めるとした手当は、地域手当です。これは、会社も認めています。
他方、基礎賃金に含めないとした手当は、①業績給と、②住宅手当です。
①業績給については、労基法37条5項・同法施行規則21条4号の「臨時に支払われた賃金」に該当する、と判断しました。不確実な一定の条件に結び付けられていることから、通常の労働時間・労働日の賃金と言えないからです。
住宅手当については、労基法37条5項・同法施行規則21条3号で「住宅手当」と明示されています。労働の量や内容と無関係な個人的な事情で決まるからです。
3.実務上のポイント
実務上は、従業員にどのようなルールが適用されるのかを適切に管理すべきことが、教訓として指摘できます。
特に、この事案では途中入社の従業員が多く、その傍らで人事上のルールも変遷しています。入社時期に応じて適用されるルールが変わっていき、就業規則の改正でそれが揃えられる、というような管理を行う場合には、従業員のうち誰にどのようなルールが適用されるのか、が分かりにくくなります。
この事案では、①入社時に適用されることになっていたルールと、それが当該従業員に適用されるために必要な手続きを経ているのか、が問題になります。②さらに、就業規則の変更について、法が要求する条件やプロセスが欠けると、それだけで効力が否定されます。
このように、形式的と思われることが、労務管理上重要な意味を持ちますので、従業員に適用されるルールの管理状況を確認しましょう。
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