0.事案の概要
この事案は、定年退職時の期末手当の計算方法が、誕生日月を退職月とし、他方、賞与にいわゆる「在籍要件」が課される結果、4月生まれの社員にとって不利益であり、不公平であるとして、4月生まれの従業員Xが、会社Yに対して損害賠償を請求した事案です。裁判所は、Xの主張を否定しました。
1.合理性
裁判所は、4月生まれ=7か月分、9月・3月生まれ=6ヶ月分、8月・2月生まれ=5か月分、7月・1月生まれ=4か月分、6月・12月生まれ=3か月分、5月・11月生まれ=2か月分、10月生まれ=1か月分、期末手当を受給できないのであって、4月生まれとの違いは相対的なものであることを認定しています。
その上で、賞与は「支給対象期間の勤務に対する賃金の意味」だけでなく、このほかに「功労報酬的な意味、生活補填的な意味及び将来の労働への意欲向上策としての意味も有している」とし、上記のような段階的な不利益の発生は制度上避けられないこと、迅速・画一的な対応は事務処理上不合理でないこと、から、「在籍要件」設定の際の裁量の幅を超えていない、と評価しています。
2.実務上のポイント
最近は、労契法20条の問題、すなわち有期契約者と無期契約者の間の不公平が問題になりますが、この事案は、同じ無期雇用者同士の違いですので、直接は参考になりません。
けれども、労契法20条の判断枠組みが、ハマキョウレックス最高裁判例以降、問題となっている手当や条件について、それぞれ個別に、その趣旨や目的と、実際の内容の合理性を判断する、という枠組みで固まってきました。
そして、ここでも、賞与の趣旨を検討したうえで、実際のルールの合理性をこの趣旨に照らして評価していますので、同様の判断枠組みを応用している、と評価することも可能でしょう。
その中で、この事案の特色を上げると、多くの事案で問題となる「不公平」は、会社が最初から意図的に設定した区別です。けれども、この事案で問題となった「不公平」は、「在籍要件」制度と退職月の設定という技術的な理由によって発生してしまった相違であり、わざわざ意図的に設定した区別ではありません。つまり、制度設計の意図がそのままダイレクトに当てはまるのではなく、このような制度だったら、どこまでの相違を受け止められるだろうか、という消極的な理由での相違です。他の制度とのバランスが問題になる点が、この事案の特徴と言えます。
将来、有期契約者と無期契約者の間でも、同様な、意図しない相違の合理性が争われるかもしれません。その際、この裁判例が示したような枠組み、すなわち、他の制度の導入に伴う相違をどこまで受け入れられるのか、あるいは、当該制度と他の制度とのバランス、という評価方法が、参考にできるように思われます。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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