0.事案の概要
この事案は、外科医長として採用された医師(地方公務員)について、その条件付採用期間(試用期間)中に免職処分を受けた(解雇された)ことの違法性が争われたもので、裁判所は免職処分の合理性を認めました。
1.判断枠組み(ルール)
公務員に関する地公法の解釈の問題ですが、特に注目されるのが、条件付採用期間中の公務員の免職処分(解雇)に関し、そのための条件を定めた地公法28条の適用が排除されているものの、地方公共団体は自由に免職できるのではなく、その裁量権は合理性が必要、と判断しました。
民間企業の場合には、試用期間中の解雇も解雇だからその合理性を(会社側が)説明できないといけないけれども、通常の解雇よりも解雇しやすい、という構造です。したがって、(実質的な意味での)立証責任や合理性の程度に関し、異なる配慮が必要ですが、雇主側に一定の権限があるが、限界もある、という意味で同様の状況にある、と評価可能なのです。
2.合理性(あてはめ)
結果的に、免職の合理性が認められましたが、その根拠を検討しましょう。
裁判所は、一方で、ハラスメントがあったというYの主張を退けましたが、他方で、諸事情を挙げて勤務成績が不良であるとした評価と、それに基づく免職の判断を合理的としました。特にこれは、Xが整形外科医長として部門を管理すべき立場にあることを前提にした評価です。この評価を、民間企業の場合になぞらえて整理してみましょう。
解雇や減給など、従業員にとって不利な処分を行う場合の合理性は、大きく分けると、①業務遂行能力の欠如と、②業務命令不服従、職場秩序破壊などのその他事情の、2種類があります。多くの場合、この両者が共に問題になります。
これを法的に見た場合、①業務遂行能力は、労働契約上の主債務の債務不履行・不完全履行であるのに対し、②その他事情は、労働契約上の付随義務の債務不履行・不完全履行と位置付けられます。
すなわち、この事案で裁判所は、②その他事情に該当すべきハラスメントは認定しなかったものの、①管理職者として必要な、他の従業員とのコミュニケーション能力不足(理由なく怒鳴る、詰め寄る、体当たりするなど)や、医師として必要な能力の不足(複数回の判断ミス、業務放置など)を認定しています。
このように、裁判所は、主に、①業務遂行能力の不足を重視して、Xの免職を有効と評価したのです。
3.実務上のポイント
一見すると、ハラスメントのように明らかに不合理な行為が否定されたのだから、免職は難しいのではないか、と感じる人もいると思います。
しかし、②業務に付随して配慮すべきその他事情よりも、①従業員として雇われた本来の業務を履行できないことの方が、一般的に、より重大な問題であるはずです。特に、小さい病院でチームをまとめ上げる役割は、その影響も大きく、その肝心のマネジメント力が否定されたのですから、病院側の期待に対する裏切りの程度は極めて重大です。
従業員にとって不利益な処分を課す場合のポイントとして、ハラスメントなどのように不合理な言動がマイナス評価されることは当然ですが、労働契約違反の程度、という観点から、債務不履行の程度や悪質性を評価する、という視点を理解してください。
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