0.事案の概要
この裁判例は、ウィキペディアのコピーで学術論文を作るなど、問題行動の多い准教授に対する教授会の様々な措置について、有効と判断しました。1審の判断が維持されましたので、1審の裁判例に対する検討内容を、ここでも引用しましょう。
1.教授会の権限と限界
この事案から特に学ぶべきポイントは、大学研究者と大学との関係です。
すなわち、教授会が研究者の研究活動や教育活動を制限する決定を行ったのですが、その正当性はどこにあり、限界はどこにあるのでしょうか。特に、最近の労働判例で見かける裁判例や判例には、大学をはじめとする研究教育機関でのトラブルと、病院をはじめとする医療機関でのトラブルが増えています。
これが、会社と従業員の関係であれば、労働契約関係から会社側の人事権が導かれます。すなわち、労働契約は、従業員がチームとして働くことを内容とします(画家や各種専門家のように、業務を請け負っているのではありません)から、会社側には、「チームの一員として」このように労務を提供しろ、という指示命令権が包含されます。この「チームの一員として」の様々なバリエーションから、配置転換、人事考課、昇格降格などの人事上の措置を講じる権限、さらには懲戒処分権が生じてくるのです。
これに対し、大学では、憲法と学校教育法の定める「大学の自治」により、教授会に様々な決定をする権限が与えられ、同時に、大学教員の教育・教授の自由により、かかる決定の限界が設けられます。
すなわち、①一般的な労使関係のような労働契約ではなく、教育機関の位置付け、構造、内容などを定める公的なルールの中に、教授会の権限の正当性の根拠と限界が包含されていること、②したがって、その権限の根拠と限界は、いずれも、会社の営利的な目的とは異なり、教育的な観点から検討されるべきこと、が分かります。
実際、この事案での教授会による処分の合理性について、大学の利益、という観点ではなく、適正な教育の確保、等の観点から検討されています。たしかに、大学の名誉と信用の毀損も問題にされますが、それも、大学の利益、という観点ではなく、適正な教育の確保、という観点から問題にされているのです。
2.実務上のポイント
学問の自由、等と聞くと、抽象的で観念的な議論がされるように思うかもしれません。
しかし、ここで示された裁判所の判断は、他の労働事件と構造的に全く同じです。
すなわち、問題となった行為や処分に対し、一つひとつその合理性が検証されること、しかもそれは、具体的な事実に基づいて行われ、処分前後のプロセスや実際の両当事者の言動まで含めて検討されていること、がポイントとして指摘できます。
特に注目しているのは、教授会自身が、充分な情報と検討を踏まえて処分を決定し、相当な期間が経過後に措置を解除しているなど、処分のプロセスも重視している点です。近時の労働判例では、特に会社側の処分や過失を検討する際、そのプロセスの合理性も重視されますが、その傾向とも合致するのです。
ところで、1審2審の判断を読んで改めて注目されるのが、明治大学は非常に慎重な対応をした点です。労判1196.58では、論文の盗用事件に関する裁判例が3つ紹介されていますが、そのいずれも「懲戒解雇」「懲戒解任」されているからです。事案の悪質性なども考慮したうえで、慎重な手続きも踏まえて判断したのでしょうから、何が何でも懲戒解雇、というわけではない柔軟で適切な判断が必要である、という意味で、明治大学の対応は非常に参考になります。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。
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