0.事案の概要
この事案は、消化器科外科部長・消化器疾患センター副センター長を解任し、がん治療サポートセンター長に任命(配転命令)し、一切の外科診療を禁止する措置(診療禁止命令)を不服とする医師Xが、その無効を争ったものです。1審はXの請求を否定しましたが、2審はXの請求を大筋で認めました。
1.判断枠組み
裁判所は、①XとYとの間の労働契約上、黙示の職種限定合意があった、と認定しています。これは、Xには25年間にもわたる外科医としてのキャリアがあること、その技術・資格を維持するために臨床に従事することが不可欠であること、Yもそれを前提Xを雇用したこと、等が根拠とされています。
理論的に言えば、この合意に反した人事上の措置なので、配転命令や診療禁止命令は、これだけで無効と認定できるはずです。
けれども、裁判所は、②念のためとして、配転命令と診療禁止命令について、権限濫用に該当するかどうかも検討し、権限濫用、という観点からも無効と判断しています。
これは、この手続が「仮処分」手続きであることが、大きな理由になっていると思われます。というのも、本来の訴訟のように、証人尋問などを十分行ったうえでなく(行ったかもしれないが)、それに代わる「陳述書」「報告書」などの書面審査中心であるため、審理が十分でないことから生じる間違いの可能性が否定できないこと、XYいずれも、仮ではない本来の訴訟を提起することができるところ、その本来の訴訟で同じ議論が再度行われた時に、簡単に判断がひっくり返るような事態を避けるべきであること、①②両方について検討し、判断を示しておくことによって、特にYに対し、(権利として争うことが可能であるにしても)これ以上争うのではなく、裁判所の判断を受け入れるように促したいこと、が背景にあるように思われるのです。
2.実務上のポイント
判断の分かれ目は、1審では、XがYの指示に従わず、医師としての技量にも問題がある、と評価しているのに対し、2審では、逆に、Xが上司に反抗的ともとれる発言をしたのは、上司の手術に問題があったことが原因であること、さらに、Xが部長をしていた時の方が、売り上げも多く、チームもまとまっていたこと、と評価している点でしょう。
併せて、コミュニケーション能力の不足を理由に、部長などを解任しながら、新たな職務はコミュニケーション能力が重要、と説明したり、新たな職務の遂行に協力しなかったりするなど、新たな職務はXに外科の診療をさせないための口実である、とも認定しています。
整理すると、外見だけ見れば、職務命令への不服従があり、1審はこの点を重視したのですが、その職務命令に合理性が無い場合には、権限濫用となり、2審はこの点を重視しています。
すなわち、人事上の命令と、それに対する不服従、という外形だけ整えるだけでなく、その命令に合理性があることを十分検証しなければ、処分の合理性が否定されるリスクがあるのです。
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