0.事案の概要
この事案は、持続性気分障害、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)等を理由に休職していた従業員の復職の不可と判断し、従業員が休職期間満了による退職となった事案です。
裁判所は、会社の判断を支持し、従業員の職場復帰の請求(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認の請求)を否定しました。
1.ルール
まず注目されるのは、復職の請求が認められるべきルールを整理して示した点です。
つまり、従前の最高裁判例などを整理し、復職が認められる2つの場合のルールを示したのです。
① 休職前の業務が通常の程度に行える健康状態となっていること、または当初軽易作業に就かせればほどなく上記業務を通常の程度に行える健康状態になっていること。
② これが従前にできないときには、被告Y社においてXと同職種で、同程度の経歴のある者が配置されている現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、Xがその提供を申し出ていること。
2.主治医と産業医
次に注目されるのは、主治医が復職可能と診断しているのに対し、これを不可と判断した産業医らの評価を重視した点です。
一部に、産業医の判断が絶対、と誤解している人がいますが、実際は、主治医と産業医のどちらの判断の方が合理的か、という観点から評価されます。
この事案では、休職期間中に通わせた「リワークプログラム」への通所率が低いことや、このプログラム担当医が復職困難とした判断を重く見て、産業医の見解を採用しています。
ところで、復職制度の運用について、休職期間満了時に、産業医の面談だけで復職の可否を判断する方法が、これまで多く見られてきた運用方法ですが、この方法だと、産業医の評価を判断に利用できるとしても、この事案とは異なって裏付けも乏しく、主治医の判断よりも合理的、と評価される可能性が低くなります。
他方、この事案での「リワークプログラム」は、(主目的は復職のためのリハビリであるものの)そこで得られた様々な情報が産業医の判断に役立ち、ひいては産業医の判断の合理性を高めます。
このように、復職の判断に先立って「リワークプログラム」のようなプロセスを経ることは、産業医の判断の合理性を高めることにもつながりますので、実務上、導入を検討すべきです。
3.おわりに
ところで、上記②のルールの適用に際し、裁判所は、従業員の回復の程度だけでなく、従業員の病気の態様も考慮して、配属可能性を検討しています。
すなわち、人との接触でストレスを感じる症状であり、実際、同じ職場の限られた人であってもこれを感じていたのに、新しい職場で、新しい人との人間関係を構築する場合には、よりハードルが高くなる、という趣旨の評価をし、結果的に他の配属先も存在しない、と判断しています。
これは、この従業員と同様の症状に苦しむ従業員であれば、同様に別の配属先の選択肢が大幅に狭まることを意味しますから、従業員の立場から見た場合、厳しい面がありますが、だからと言って病気ごとの特性を無視した画一的な判断をすることにも問題がありますから、難しい問題です。
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