判例

労働判例の読み方「同一労働同一賃金」【日本郵便(非正規格差)事件】大阪高裁平31.1.24判決(労判1197.5)

0.事案の概要

 この事案は、有期契約労働者達Xが、期間の定めのない労働契約を締結している正社員との処遇が不平等であると争ったもので、裁判所はいくつかの手当てや処遇条件について違法と判断し、会社Yの損害賠償責任を認めました。

1.判断枠組み

 この裁判例は、ハマキョウレックス事件で示された枠組みを使って判断しています。すなわち、労働条件の相違が不合理かどうかを判断するには、当該条件(手当など)の趣旨を個別に考慮し、趣旨の合理性と、その趣旨のための条件として適切かどうか、という点で判断します。
 詳細は検討しませんが、特に注目されるのは、長期雇用を前提とする正社員に有為な人材を確保し、長期的なインセンティブを与えるため、という手当の趣旨を認容している点です。このような趣旨については、適切ではないとする批判も見受けられるところですが、この裁判例は合理性を認めています。

2.扶養手当

 特に注目すべき点の1つ目が扶養手当です。
 1審判決は、基本給を補完する生活保障給としての性格があると趣旨決定し、職務内容によって必要性の程度が大きく左右されないこと等を理由に、待遇の相違を不合理としました。
 これに対して2審判決は、扶養手当を含む家族手当は、長期雇用システムの下で家族構成や生活状況が変化することによる生活費の増減を前提にしていること、会社が家族の生活費も負担することで有為な人材の獲得、定着を図るものであること、と趣旨決定し、この趣旨は長期雇用を前提としない契約社員には当てはまらないとして、待遇の相違を合理的としました。契約社員の場合の家族構成の変化などによる生活費増は、転職などによって対応することが想定されている、と説明しています。
 条件の相違の趣旨について、それを定めた会社側が「この趣旨は~である」と主張すれば終わりなのではなく、裁判所で吟味され、評価されるところですので、運用上のポイントとしては、有期雇用契約者の処遇が正社員と異なる場合には、その趣旨を合理的に説明できるように十分吟味しておく必要が明らかになりました。

3.年末年始勤務手当など

 郵便局での勤務ですので、年末年始が忙しいことは容易に理解できます。
 ですから、1審判決が、この忙しさに正社員も契約社員も差が無いだろう、という意味で、これらの手当てを不合理としたことも、それはそれで理解できます。
 他方、2審判決は、一般的に契約社員は忙しいときの労働力の補充のために、実際、短期間採用されるもので、むしろ年末年始にこそ働いてもらうものだから、年末年始勤務手当がないことは、一般的に合理的である、という趣旨の説明をしています。
 そのうえで、このことは長期間続けて採用されている場合には該当しない、などの理由で、5年以上継続勤務している契約社員については、年末年始勤務手当を支払わない扱いは不合理である、と判断しています。
 なぜ5年なのか、について理由は明記されていませんが、5年で無期転換されるとする労契法18条を参照していますから、そのことと水準を合わせる、という趣旨もあるでしょう。
 ここでも、裁判所が実情に応じて合理性を判断していますので、上記2と同様、条件の相違は、その合性を十分説明できるようにしておくことが、実務上のポイントとして指摘できるでしょう。

4.実務上のポイント

 このように、正社員と非正規社員との間での雇用条件の違いの合理性は、その条件の違いを設けた趣旨の合理性と、その趣旨に照らした場合の規定内容の合理性によって判断される、という構造は固まってきたと評価できます。
 けれども、各手当の合理性は、簡単に一般化できるものではなく、会社ごとの実情に応じた評価がされますので、例えば「住居手当」ならいつでも有効、などと簡単に判断せず、会社ごとの実情に照らしてもその合理性を十分説明できるように検証しておくことが必要です。
 今後、労契法20条に関する裁判例が数多く出され、様々な手当てや労働条件ごとに、相違の有効性に関する判断が示されていくことになるでしょうが、一般化を急いで、会社ごとの事情に応じた検証が疎かにならないように、注意しましょう。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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