判例

労働判例の読み方「安全配慮義務」【日本総合住生活ほか事件】東京高裁平30.4.26判決(労判1206.46)

0.事案の概要

 この事案は、樹木選定作業中の転落事故によって四肢麻痺の後遺障害を負った、二次下請業者の従業員Xが、直接の雇用主(二次下請業者)だけでなく、一次下請業者、元請業者の損害賠償責任を求めた事案です。
 一審判決では、二次下請業者の責任が認められたものの、一次下請業者と元請業者の責任が否定されました。二審判決では、一次下請業者と元請業者の責任も認めました。
 ここでは、一審と二審で判断が逆になった、下請業者と元請業者(あわせてY)の責任について絞って検討しましょう。

1.判断枠組み(ルール)

 判断枠組みは、一審と二審で同じです。
 すなわち、「元請負人と下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係が認められる場合には、元請人は、信義則上、当該労働者に対して安全配慮義務を負うと解するのが相当である(最高裁…平成…3年4月11日第一小法廷判決・集民162号295頁)」と示しています。引用している判例は、三菱重工業神戸造船所事件と称される事件です。
 すなわち、原則ルールとしては、元請負人は責任を負わないけれども、例外ルールとしては、「特別な社会的接触」があれば、安全配慮義務を負う(安全配慮義務違反があれば責任を負う)、という判断枠組みが採用されたのです。
 さらに、具体的にこの「特別な社会的接触」の有無は、「元請人の管理する設備、工具等を用いていたか、労働者が事実上元請人の指揮、監督を受けて稼働していたか、労働者の作業内容と元請人の従業者のそれとの類似性等の事情に着目して判断する」という、考慮すべきポイントまで示されているのです。
 この判断枠組みは、一審と二審で異なりませんので、判断の分かれ目は、両者の事実認定・あてはめの違いです。

2.あてはめ

 ここで、一審判決は、Yの現場作業への関与は、一般的な指示にとどまっていた、具体的な指示は行っていない、XはYの指揮・監督を受けて稼働していたとは認められない、などの理由でYの責任を否定しました。
 これに対して、二審判決は、特に安全装置に着目しています。
 すなわち、本来は二丁掛の安全帯の使用が徹底される必要があるのに、Yは一丁掛の安全帯で十分と誤解し、わざわざ一丁掛の安全帯の使用を徹底するよう、二次下請業者に指導し、実際そのようにXに対して指導が行われました。
 一般的に見れば、実際の指導監督などに関わっていないけれども(一審)、特に問題となった安全帯の使用については、わざわざ誤った指導を徹底させた点(二審)が重視されているのです。

3.実務上のポイント

 安全配慮義務の内容として、一般的な環境の問題であれば一審のとおりかもしれませんが、実際に具体的な事故原因がわかっている時に、誰がそのような作業方法を教えたのだ、ということになれば二審の判断の方が合理的に思われます。
 例えばハラスメント事案でも、環境型セクハラのように、職場環境が問題になる場合と、具体的な言動が問題になる場合とでは、会社の予見義務・回避義務の内容も異なってきます。
 したがって、会社は、トラブル防止に対して一般的な体制を構築するだけでなく、想定される様々な事態に対する対応も必要である、ということが明確に示された、と言えるでしょう。この点は、下請か直接雇用かで違いがないからです。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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