判例

労働判例の読み方「パワハラ」【国・さいたま労基署長(ビジュアルビジョン)事件】東京地裁平30.5.25判決(労判1190.23)

0.事案の概要

 この事案は、退職強要などのパワハラによりうつ病に罹患した、と主張する元従業員(うつ病による休職後、休職期間満了により退職)の労災(休業補償給付)を求めたのに、不支給処分されたことについて、この不支給処分の取り消しを求めた(つまり、労災の給付を求めた)事案です。
 これに対し、裁判所は、会社から受けたストレス強度が「強」であると認定し、元従業員の請求を認めました。

1.判断枠組み

ここでは、他の判例や裁判例と同じく、厚労省の認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基本的に従う、と判断しています。
 そこでは、職場でのストレスの程度を測定した後に、業務以外のストレスや、個体側要因(体質、性格など)の影響を評価します。
 この裁判例も、この枠組みで判断しています。

2.職場でのストレス

元従業員のストレスとして、裁判所が最も重視し、その強度を「強」と評価しているのは、退職強要です。
 すなわち、反省の意を示すために退職すると言ったものの、①これを撤回しようと代表者に申し入れたところ、強い口調でこれを拒まれ、②評価会議の場でも強い口調でこれを拒み、③代表者の意を汲んだ課長が土下座する気持ちで謝罪するように伝えた、という一連の状況から、ストレスの程度を「強」と評価したのです。
 もし、①~③の事実をバラバラに評価すれば、どこにも「辞めろ」という明確な発言がなさそうですので、退職強要とは評価されなかったかもしれません。①~③が一連のものとして評価されたことが、「強」という評価、ひいては労災該当の判断に繋がったように思われます。

3.その他の原因

 他方、元従業員が、プライドが高いことや、労働基準監督官に対して強い口調で労災認定を迫ったこと等が問題にされました。うつ病でありながら、反抗的な態度を示した点に、労働基準監督官が違和感を覚えたのでしょうか。
 ところが、裁判所は、これが影響を与えた可能性はあるとしつつも、精神障害の影響の可能性もあり、「平均的な労働者の範疇に入る」と評価しました。うつ病であっても、怒りのエネルギーを振り絞ることがある、ということなのでしょうか。
 すなわち、最初の枠組みで示されたような、業務以外の要因や個体側要因を否定し、「強」である職場でのストレスが原因である、として労災を認めたのです。

4.実務上のポイント

 教訓として活用する立場から見た場合、ハラスメントによるメンタル、という事案の中で判例や裁判例によって確立してきた判断枠組みを、この裁判所はそのまま適用しており、この裁判例は、「事例」を学ぶ裁判例としての価値があります。
 特に注目している点は、上記2で指摘した、①~③を一連のものとして捉えた点です。特に、厚労省の示した認定基準は、チェックシートのように使われ、パーツごとにバラバラに分解してあてはめてしまう発想になりそうですが、ここではそのような分解をせず、一連の事象の実態に着目する、という視点が示されているからです。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

ABOUT ME
芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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