判例

労働判例の読み方「復職拒否」【ビーピー・カストロールほか事件】大阪地裁平30.3.29判決(労判1189.118)

0.事案の概要

 この事案は、従業員がパワハラを受けた、という主張に加え、復職の際の対応が不適切であり、解雇も不当であると主張した事案です。すなわち、上司との折り合いが悪く、うつ病になった従業員は、就業規則により5か月の療養休職期間が与えられるところ、H26.10.21~H27.1.31の療養休職(そのうち1.141.31がリハビリ勤務)の後、復職したものの、H27.4.14にうつ病の診断を受け、有休消化後の4.22~10.21の休職が命じられました。さらに、この休職はH28.5.21まで8か月延長されました。
 ところが、H28.5.17の復職前の打ち合わせで、折り合いの悪い上司と打ち合わせた翌日、従業員は厚労省のHPでも閲覧可能な、「こころの健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に基づく職場支援プログラムの実施や、折り合いの悪い上司の処分を求め、出社しないことを通知しました。

1.問題点

 様々な問題点がありますが、ここでは、解雇権の濫用かどうか、という点に絞って検討します。
 ここで注目したいのは、近時広く採用されるようになった、傷病休職者に対する「復職支援プログラム」との関係です。この事件の従業員が、復職を拒否したさいに、この復職支援プログラムの履行を求めていることからも、この裁判では復職支援プログラムの不存在が、会社の責任の根拠とされているのです。
 この制度は、休職期間満了時に、産業医などの診断だけで復職可能性を無理に判断しようとしてトラブルになるのではなく、当該従業員のために復職の機会を与えるために、軽作業から徐々に慣らしていきながら、復職可能な状況かどうかを見極める制度です。
 本連載2月9日の「三洋電機事件」でも、復職後の会社のサポートが問題になりました。この「三洋電機事件」では、復職後に、実際の仕事をいろいろ試そうとしていたところ、従業員が出社しなくなったので、復職支援プログラムと同様の対応をしていたと評価できる面もあります。
 しかし、このビーピー・カストロール事件では、従業員が復職後全く勤務せずに出社を拒んでいるため、復職支援プログラムと同様の対応はありませんでした。

2.裁判所の判断

 その代わり、復職前に主治医と人事担当者と従業員が面談し、復職後の勤務条件を確認し、業務量を減らすなどの配慮を行っていることや、休職期間を所定の倍以上に延長していること、等の点が考慮され、会社は損害賠償責任を負わない、と評価されました。

3.おわりに

 この事案では、判決のかなりの部分を、パワハラの有無に関する認定と評価に割いています。
 結果的に、パワハラを認定されておらず、したがって会社側の従業員に対して求められる配慮義務のレベルも低くなっているように思われます。
 けれども、結果的に従業員がうつ病になり、その原因が上司との人間関係であることは動かせない事実のようですから、パワハラが無かったという評価が、高裁で維持されるかどうか予測が難しい状況です。
 そして、仮にパワハラの認定がされた場合に、復職の際の配慮が十分だったかどうかの判断がどのように影響を受けるのかも、予測できません。
 控訴審の判断が注目されます。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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