0.事案の概要
この事案は、有期契約のトラック運転手Xが、無期契約の正社員との間で労働条件が異なる点について、労契法20条違反を主張したものです。著名な最高裁判決によって、その一部について会社の責任が認められましたが、皆勤手当ての相違の合理性についてだけ、審理を尽くすように差し戻されていました。裁判所は皆勤手当ての相違は不合理、と判断しました。
判断枠組みについては、この裁判所もこの最高裁判例が示したもの(単に金額を比較するのではなく、当該雇用条件の趣旨から個別に検討する、等)を踏襲しており、ほぼ定着したようですので、特に検討しません。
1.代償措置
Yは、有期契約者に皆勤手当が支給されないものの、皆勤となれば契約更新後(次期)の時間給が増加する点などから、皆勤手当とは別の制度(代償措置)によって、雇用条件の相違が合理的な範囲におさまっている、という趣旨の主張をしました。
裁判所は、代償措置は合理性を基礎づける事実になり得る、と一般的な可能性を認めました。
けれども、この事案については、契約更新が確実でないうえに、皆勤の事実も時給の算定に必ず反映されるわけでなく、仮に時給が最大限上がったとしても、15円だけであり、正社員が受け取る月額1万円の皆勤手当ての代償措置としては不十分、と評価しました。
2.実務上のポイント
相違の合理性について、金額の差だけでなく、当該雇用条件の趣旨を個別に、総合的に評価する、という判断枠組みの中で、「総合的」な評価の一項目として、他の制度である代償措置も含めて考慮されうることから、人事制度設計上の柔軟性はある程度認められることになりました。
けれども、「契約社員と正社員との間で、能力の開発と人材の育成、活用に資することを目的とする等級・役職制度の有無や、配転及び出向の可能性などの点での相違」の合理性に対して一定の理解を示しつつ、これらの違いは、「皆勤手当の趣旨とは合理的な関連性がない」と評価しています。
すなわち、長期雇用を前提とする正社員と、そうではない有期契約者の処遇が異なり得るとしても、人手の確保という皆勤手当の趣旨に照らせば、トラック運転手として同じ業務を行っている本件では、長期雇用の違いは理由にならない、ということになります。
この点から見ると、同じ皆勤手当でも、例えば、長期雇用を前提にする正社員についてだけ特に出勤率を高く維持する必要性があれば、合理性の根拠になり得る、と言えます。
他の勤務条件の相違についても同様ですが、皆勤手当というだけで画一的一般的に合理性の有無が決まるのではなく、その趣旨に照らし、会社ごとの事情も考慮して個別に検討されるのです。
ところで、差戻前の最高裁判決(平30.6.1判決、本連載12月17日、労判1179.20)のロジックとの関係で、気になる点を1点だけ指摘します。
例えば住宅手当について、高裁では、正社員を厚遇することで有為な人材を確保できる、というロジックが認められていましたが、最高裁では、このような抽象的で検証できないロジックを採用しませんでした。
ところが、この最高裁によって差し戻された高裁が、ここで紹介した判決の中で、「契約社員と正社員との間で、能力の開発と人材の育成、活用に資することを目的とする等級・役職制度の有無や、配転及び出向の可能性などの点での相違」に一定の理解を示しています。
つまり、有期契約者と無期契約者の間で、人材としての活用方法が違い得る点の合理性は、一定程度評価されているのです。結果的に、皆勤手当ての違いの合理性は無い、と結論付けていますが、有期契約者と無期契約者の処遇や手当の違いの合理性の説明方法について、今後、議論されていくかもしれません。
この最高裁判決と、差戻審の違いは、前者では「有為な人材確保」目的が問題になり、後者では人材の活用方法の違いが問題になった点でしょう。正社員と言われる無期契約者を、有期契約者よりも広く活用すること自体の合理性はそれなりに評価されているのですから、それを突き詰めると、正社員として「有為な人材」を確保することも、それ自体がおかしい、不合理だ、ということにならないように思われるのです。
そうすると、最高裁が「有為な人材確保」目的をロジックとして採用しなかったのは、そのような目的が不合理である、ということよりも、「有為な人材確保」の具体的な検証がされていなかったことに、その理由があるように思われるのです。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。
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