判例

労働判例の読み方「更新拒絶」【エヌ・ティ・ティマーケティングアクト事件】岐阜地裁平29.12.25判決(労判1185.38)

0.事案の概要

 この事件は、3か月の有期労働契約が、最短411か月(22回)、最長約12年(51回)更新された従業員らが、会社のリストラに伴う更新拒絶の適否を争ったもので、裁判所は、更新拒絶が無効と判断しました。
 「期間の定めのない雇用契約との差異などを十分に踏まえつつ」と留保しながら、整理解雇で用いられる標準的な判断枠組みにそって判断した点も注目されます。
 けれども、ここでは、労契法1912項の違いを検討しましょう。
 すなわち、この裁判例では、労契法19条の1項の適用を否定しつつ、2項の適用を肯定しました。以前この連載でも検討した「高知県立大学後援会事件」労判1183.18と同じ構造です。同じ視点からの検討となるので、内容的に重複しますが、ご了承ください。

1.労契法1912項の違い

 条文を見てみましょう。
 1項(実質無期契約型)は、①過去に反復更新されたこと、②無期従業員の解雇と「社会通念上同視できる」こと、の2つが要件です。
 2項(期待保護型)は、③更新の期待に「合理的な理由がある」こと、が要件です。
 そして、①が無いのに③が認められる場合は限られるでしょうから、①は大きな違いではありません。
 ②と③は、文言上、とても違うように見えます。すなわち、②は、相対的な評価(無期従業員との比較)であり、③は、絶対的な評価(期待のレベル)、という文脈です。
 他方、いずれも漠然とした概念であって、単に事実を並べるだけでなく、その事実を評価しなければ判断できません(評価的事実、規範的事実)。

2.あてはめ

 さて、両者を判断する前提として裁判所が指摘する事実を確認しましょう。
 1項では、更新回数が多い点や、契約書のやり取りが更新後になっていた場合もある点を指摘しつつも、①契約に3か月の期限が明記されており、②更新後の契約書作成が「常態化」しておらず、③従業員側の意向を契約書で確認するなどの運用がされていたから、「形骸化」していない、という事実です。これにより、「社会通念上同視」できない、として1項の適用を否定しています。
 2項では、①更新回数が多いこと、②恒常的に存在していた基幹的な業務であること、③更新の際に打ち切りの可能性などを聞いていない、あるいは継続を期待されるような説明を受けていたこと、④雇用後進の可能性について「有」と明記されていること、という事実です。これにより、更新を「期待することについて合理的な理由がある」として、2項の適用を肯定しています。
 こうしてみると、1項の「実質無期契約(社会通念上同視)」のハードルは、従業員側からから見た場合には高く設定されており、会社側から見た場合、極端に解釈すれば、契約書で従業員の更新の意向を確認する運用を継続することによって、1項の適用を免れる、という評価もできそうです。
 他方、2項の「更新の期待」では、①③④がよく見かける事情ですが、②が特徴的です。すなわち、重要な業務を任されており、もしかしたら正社員への登用もあると(実際に言われた人もいる様子です)期待するような状況が、根拠の1つとして指摘されているのです。

3.実務上のポイント

 労契法1912項の違いがよく分からない裁判例も見かけますが、この裁判例では、両者の違いが比較的理解しやすいように思います。
 すなわち、1項(実質無期契約)では、更新が独立した契約と言えるかどうか、というプロセスを重視しているのに対し、2項(更新の期待)では、与えられた業務の内容、という実体関係を重視しているように思われます。
 1項と2項を厳密に分けて考えなくても、いずれかに該当すれば、更新拒絶の判断が厳しくなってしまうのですが、1項はプロセス、2項は実体関係、という整理方法は、検討すべき諸事情の整理に役立ちそうです。

※ 参考資料
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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