判例

労働判例の読み方「団体交渉」【国・中労委(日本郵便[晴海郵便局])事件】 東京地裁H30.12.20判決(労判1210.52)

0.事案の概要

 この事案は、通勤災害後長期欠勤中だった期間雇用社員(6月)に関し、上司が雇止めの可能性を説明した際、当該社員が在籍しているために人員補充できない、などと発言した事案です。
 ここで、労働組合Xが会社Yに対して、①更新拒絶の撤回と、②パワハラへの謝罪を求め、団体交渉が行われたところ、話し合いの進展が期待できないとして、Yが団交の継続を拒否したところ、Xは①②が不当労働行為に該当すると主張しました。都労委は、全体について(①②を特段区別せず)不当労働行為が成立すると認定しましたが、中労委は、②についてだけ不当労働行為が成立すると認定しました。
 中労委の認定に対し、Xがその取り消しを求めて訴訟を提起したところ、裁判所はXの主張を認め、①②いずれについても、不当労働行為に該当しないと判断しました。
 なお、一般には、原告がX、被告がYとされることが多いですが、ここでは従業員側(したがって労働組合)がX、会社側がYとされています。

1.特徴

 この裁判例の特徴は、不当労働行為に該当しないとする①と②の理由の違いです。
 すなわち、①は、対話を続けてもこれ以上進展の見込みがない(Yが具体的な反論をせず、ただひたすら雇止めの撤回の要求を繰り返す)、というのがその理由です。
 他方、②に関し、Xは、パワハラの事実がないと主張するだけで、何ら具体的な説明をしていませんが、裁判所は、この事案の本質的な交渉事項は①であること、①と違って②では録音などの客観的な証拠に基づいて議論できる状況にない(水掛け論に終わってしまう)こと、がその理由です。
 このうち、②については、労判の解説が早速問題提起をしており(同55頁)、またこの判決が控訴されていることから、今後議論が深まることと思われます。

2.実務上のポイント

 会社の対応に対する不満が争われる場面は様々です。何も、組合がクレーマーや暴力団員と同じにするわけではなく、不満の言い方の問題ですが、上記のように裁判所が整理したような言い方は、クレーマーや暴力団員の苦情にも多く見られるものです。
 すなわち、苦情の本来の要求内容(例えば、製品に瑕疵がある、会社の対応が名誉を棄損する、など)について、会社側の主張に理があり、クレーマーや暴力団員側に理がない場面で、それでも引き下がらないクレーマーや暴力団員は、会社側の応対の悪さや段取りの悪さ、時間がかかっていること、など本来の要求内容から離れた点を問題にします。
 また、いわゆる水掛け論の場合には、言った言わないについて、自分の方にも証拠がないのに、証拠を出せない会社の嘘が明白だ、などの強引な理論で非難を執拗に繰り返しますが、当事者同士の話で結論が出ないことは明らかです。
 そもそも、不当労働行為とされるのは会社が誠実に交渉に応じない場合ですが、ここで示された2つのポイントは、いずれも、まともな話し合いにならない典型的な場合であり、交渉を継続する意味のないことは、経験的にも明らかです。労働組合の交渉を無下に断る口実に濫用されてはいけませんが、怒りに任せて感情的な非難と要求を繰り返すだけの団体交渉が存在することも事実です。
 会社側の不当労働行為が禁止されるのは、労使双方が合理的な話し合いをするためです。したがって、経験上明らかに不合理である行為について、会社側の交渉応諾義務を否定した裁判所の判断は、今後の労使交渉の場面で、適切な話し合いの方向に議論を進めるために、有効に活用されるべき判断と評価できます。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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