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スタートアップが知財戦略において考えるべきこととは?

スタートアップ企業にとって、重要なのは独自性、創造性のある事業アイデアです。新たなモノやサービスを生み出す源泉となる事業アイデアを広げ、企業を成長させていくためには、独自のアイデアを保護するための知財戦略が重要となります。

今回の記事ではスタートアップ企業における知財戦略の重要性と考えるべきポイントについてご説明します。

1.知財戦略とは

(1)知的財産権とは

スタートアップ企業において必要となる事業アイデアや創造されたモノやサービスのような「人間が知的活動において生み出した、財産的な価値があるもの」を総称して「知的財産」と呼びます。

「知的財産権」とは、そういった知的財産の中で法律上保護される利益に係る権利や、法律で規定された権利のことを表します。

(2)知的財産権の種類

知的財産権は、以下の9種類に分類されます。

・特許権:新たな優れた技術アイデア(発明)の保護

・実用新案権:特許権より軽度な小発明の保護

・意匠権:モノの形状や模様などにおける斬新なデザインの保護

・商標権:自社サービスを他社サービスと区別するための文字やマークの保護

・著作権:コンピュータープログラムを含む芸術の範囲内において、作者の思想や感情が創作的に表現された著作物の保護

・回路配置利用権:独自開発の半導体チップの回路配置の保護

・商号:法人の場合には会社名など、商人が自己表示のために使用する名称

・不正競争の防止:事業者間の競争が自由競争の範囲を逸脱した場合に不正競争として防止する

・育成者権:植物の新品種の保護

スタートアップ企業は構造上、どうしても高い成長性が求められます。スピード感を持って企業を成長させていく上で、周囲の競合他社との競争性を高めるのに重要になってくるのがこれらの「知財」です。

なるべく早い段階から知財について戦略を練っていくことが、今後企業が成長を続けられるかどうかのカギとなります。

2.スタートアップ企業における知財戦略の重要性

スタートアップ企業において知財戦略の構築を行なうことは、他社から横槍を入れられないというだけではなく、以下のような重要な役割を持ちます。

(1)防衛としての役割

自社のコアバリューを保護することで、他社からの模倣を未然に防ぐほか、模倣された場合でも差しどめや損害賠償の請求を行なうことができます。

また、将来的に必要とされるであろうその技術やアイデアが他社から奪われる心配もありません。

(2)収益源としての役割

独自の有益な技術は他社にとっても魅力的です。知的財産が生み出すサービスの収益のほかにも、その知的財産そのものをライセンスとして貸し出すことによって収益を上げることができます。

(3)クロスライセンスの役割

2つまたは複数の企業がお互いの知財を互いにライセンス契約することによって、独自の技術では難しかったモノやサービスを生み出す相乗効果を期待できます。自社で知財を持ち他社と連携していくことで、より高いステージへ企業を上げることができます。

(4)企業価値としての役割

技術やビジネスモデルの特許は投資判断においてプラスの判断材料になり、大企業の協力や投資家からの資金を引き出すことも可能です。スピード感のある情報社会において革新的な技術やサービスが次々と求められている中、知的財産は競合他社と差別化できる大きな優位性を持つことにもつながります。

知財戦略には工数、費用、期間が必要になりますが、これらの役割を踏まえると早期の知財戦略は十分なリターンを生み出し、企業の持続性や成長性を高めるために役立つと言えます。

3.知財戦略の基本ルール

知的財産の保護は各国の法律で定められているため、様々なルールがあります。ここでは知財戦略において重要な特許権、意匠権、商標権における基本ルールを説明します。

(1)権利の存続期間

特許権、意匠権、商標権は特許庁で審査を経て、ようやく権利となります。特許法で定められた権利であり、存続期間がある点にご注意ください。

・特許権の存続期間:特許権出願日から起算して20年間

・意匠権の存続期間:意匠権登録日から起算して20年間

・商標権の存続期間:商標権登録日から起算して10年間(更新をすれば継続可能)

(2)知的財産権は各国ごと

知的財産権は属地主義の原則が取られており、その国の法律で定められた基準を満たしたものだけが知的財産として保護されることになっています。そのため日本の特許を取得しても、海外に進出した際にその知的財産が保護されることにはなりません。外国でも権利が必要な場合は、その国の特許庁に出願をしなくてはいけません。

なお、国際出願制度という各国での権利取得の手続きを簡略化するための制度があります。最初から国際進出を視野に入れている場合、以下の制度の利用を検討することをお勧めします。

・特許権の国際出願制度:特許協力条約(PCT)に基づく国際出願

・意匠権の国際出願制度:ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際出願

・商標権の国際出願制度:マドリッド協定議定書による国際出願

(3)特許出願は1年半後に公開される

これは特許権において特に注意すべき制度で、特許を出願するとその後権利化されるか否かを問わず、1年半後にその出願書類が公開されます。特許出願においては発明を公開しても良いかどうか、という点を必ず視野に置いて検討を進める必要がある点に注意です。

(4)特許には職務発明制度がある

従業者が発明した技術が特許を取得した場合、職務発明制度に基づきその従業者には「相当の利益」を手当てする必要があります。特許の出願時、事前に職務発明規定を整備しておくことでトラブルの原因を取り除くことに繋がります。知財デューデリジェンスの確認対象でもありますので要注意です。

知的財産権における基本ルールは以上となります。これらのルールを踏まえた上で、知財戦略を構築していきましょう。

4.知財戦略の活用例

日経新聞の2019年2月4日の以下の記事に、知財戦略によって成長性を高めた企業の事例が紹介されています。

「スタートアップ、知財重視に 大企業の協力得やすく」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40730810R30C19A1FFR000/

(1)無線LAN基地局の開発技術特許の例

九州大学発スタートアップのPicoCELA(ピコセラ、東京・中央)では、無線LAN基地局を山林部や農村部などの従来であれば大量の有線ケーブルが必要となる場所に設置する技術で特許を出願しています。

同社の特許出願数は国内外を含めて20件以上に登り、独自技術を特許出願によって守っています。「知財戦略なくしては起業はありえない」と語るこの会社の経営者は、前職NECで第3世代移動通信(3G)規格の国際標準作りに関わっていて、米国との特許戦争において特許取得の攻めと守りの両軸での強みを実感しています。

(2)ビジネスモデル特許の例

2018年5月にベンチャーキャピタルから9億円の資金調達をしたことで話題を呼んだカケハシ(東京・中央)は、創業半年後にビジネスモデル特許を出願しています。

カケハシの特許は「薬局の店頭で専用タブレットを操作しながら患者に処方薬を示し、飲み方の指導が終わると薬歴情報が自動登録されるシステム構造」であり、実際の製品のリリース前に特許を取得したことで、大手の資金力と販売力に打ち勝ちシェアを広げていくことに繋がりました。

知財戦略を計画的に行なうことができるかどうか、ということが今後のスタートアップ企業における成長性のカギになります。知財戦略は企業のコアとなり、資金調達へも繋げてくれる重要な役割を担っています。

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