0.事案の概要
この裁判例は、協調性のない数学教師を解雇した事案で、解雇を有効と判断した事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は1点あります。
1.地裁と高裁の違い(ルール)
解雇の有効性に関し、1審では無効、2審では有効と判断しています。この、事実認定及び評価に関する違いが、重要なポイントになります。
まず、ルールを対比しましょう。
1審は、勤務態度不良に関し、解雇相当となる敷居を、極めて高く設定しています。
すなわち、①会社の業務遂行への影響が、「容易には対処しがたい具体的支障を生じさせるほどの重大な程度」に達していること、②注意指導、改善機会付与にも関わらず、勤務態度改善の余地がないこと、③解雇を回避する相当な手段がないこと、の3つが必要とされています(労判1176.54)。
2審は、1審の示した敷居を低くしたかどうか、判決文の該当箇所を見るだけではすぐには判断できない表現を取っています。
すなわち、客観的合理性の有無は、①解雇事由の程度、②その反復継続性、③改善・是正の余地の有無、④雇用契約継続の困難性、⑤過去の義務違反行為の態様、⑥従業員の対応、などを総合的に勘案する、とします(労判1176.22)。
2.地裁と高裁の違い(事実認定)
1審と2審は、従業員の協調性のないことを示す様々なエピソードに対し、一つ一つ証拠で認定し、評価を加えています。その一つ一つをここで検証しませんが、傾向としては、以下のように対比されます。
すなわち、1審では、例えば従業員が会議を欠席したのは過失にすぎない、参加しなくても影響がない、例えば学生に分かりやすく回答例を書き直すという指示に対して、一回は書き直しており、それ以上対応しなくても、上司の指示が悪い、例えばテストの出題範囲を学校で決めた範囲外から出したことについて、平均点が大きくずれてないから構わない、例えば従業員の文化祭の会計管理の杜撰さについても、会計のプロじゃないし、大きな影響がないから構わない、など、周囲に迷惑をかけていても、全体の業務に影響がなければ構わない、という評価をしています。さらに1審では、従業員の極めて非協調的な言動を詳細に認定し、人格的な問題があることや、その改善が難しいことを明確に認定しているにもかかわらず、したがって、トラブルを生じさせるリスクがあると明言しているにもかかわらず、現時点では業務の停滞が生じていない、として、結果的に解雇の合理性を否定しています(労判1167.54-59)。
これに対し、2審では、具体的な認定事実は1審と大差ありませんが、協調する意識がなく独善的、反対者には徹底的な反発、2年4か月の間繰り返され、度重なる指導でも改善せず、かえってエスカレートして学校長の指導も通らない状況、と評価しています。そのうえで、学校への業務に具体的な停滞や信用の失墜がなかったとしても、解雇に合理性があるとしています(労判1167.22-25)。
組織が業務をこなしているということは、そのうちの誰かが業務を怠ったとしても、他の従業員が分担してこれをリカバーします。1審の判断は、他の従業員に当該問題従業員の尻ぬぐい業務を強要することにほかなりません。会社業務に結果的に影響が出なければ、個人の行為に問題がなかった、というのは、個人と組織の関係を混同するものです。会社業務に結果として影響が出るようになれば、それこそ本当に「終わり」であり、会社業務に結果として影響が出なくても、他のメンバーに迷惑をかけているのであれば、それで個人の債務不履行・不法行為として十分具体的な結果(違法な結果)が発生しているのです。
この意味で、1審判決が2審で覆されるのは、当然のことでした。
3.実務上のポイント
常識的なハードルが示されたとはいえ、やはりハードルを越えなければ、解雇は無効となります。
そして、実務上忘れてはいけないポイントは、この訴訟で、2審が1審を覆したのは、会社側が原告の非協調性に関するエピソードを、大量に、しかも詳細に、証拠として提出したからです。
「皆がひどい奴と言っている」などの、小学生が口を尖らせて言い訳するような、抽象的な感想をいくら積み上げても、合理性の立証はできません。不幸にして、協調性のない従業員と争う事態になった場合には、その非協調性に関する具体的なエピソードが重要です。しかも、具体的なエピソードを、リアルに描写し、できるだけ沢山、丁寧に証明できるよう、準備する必要があるのです。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。
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