0.事案の概要
この裁判例は、産休育休取得中に行われた解雇を無効とし、いわゆる職場復帰を命じた事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は2点あります。
1.産休育休との関係
均等法や育休法は、産休育休を理由とする解雇を禁じています。
裁判所は、たとえ形式上、産休育休を理由にしていなくても、解雇の合理的な理由がない場合には解雇が無効になる、というルールを示しています。
根拠となる法規定が、労契法16条ではなく均等法9条3項や育休法10条になるものの、産休育休中であるか否かで、実質的な判断基準の違いはなさそうです。
実務上のポイントは、解雇の合理的な理由が必要である、という一般的な基準がここでも適用される、ということでしょう。
2.解雇の合理的な理由
この事案で、解雇を言い渡された従業員は、従前からかなり協調性がなかった、ということが認定されています。
協調性がなくても解雇が無効とされた実務上のポイントは、以下の点です。
1つ目は、業務成績です。
この事案では、チームワーク以外の項目でいずれも高い評価が与えられています。この事案で実際にどうだったのかわからないのですが、一般論として、問題社員について高い評価がつけられてしまう事例は多くあります。その理由として多いのは、問題社員をなだめすかし、「褒めて」その気にさせるために高い評価を付ける、あるいは、良い評価を付けることで他の部門に引き取ってもらい易くする、というものです。けれども、実際に訴訟に発展する事案を見る限り、そのような恩は仇となり、問題の先送りは、事態の深刻化となって返ってきます。毅然と、実態に即した厳しい評価を与えることが必要です。
2つ目は、プロセスです。
原告の度重なる問題行動がありながら、会社は、注意指導を十分行っておらず、懲戒処分や文書での注意もないことなどから、会社側には、原告を急いで解雇すべき緊急性がない、と評価されています。適切な処分や注意がなければ、問題社員の更生の機会が与えられませんので、会社にとって不利な事情となるのです。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。
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