判例

大麻を所持していても無罪!?違法収集証拠排除法則について解説!

先日、大麻取締法違反で起訴された男性が、警察による捜査方法に違法があるものとして、無罪判決を言い渡されたというニュースがありました。

仙台地裁(島田環裁判官)は18日までに、大麻取締法違反(所持)の罪に問われた仙台市の男性(27)の判決で、警察官による職務質問時の所持品検査の手続きに「令状主義の精神を没却する重大な違法」があったとして無罪を言い渡した。判決は15日。産経ニュースより

このニュースに対しては、「結局大麻を持っていたのは事実なのに、無罪はおかしい!」、「捜査の違法は別に考えるべきではないのか」、「裁判所は犯罪者を野に放つのか」といったコメントが寄せられています。

確かに、証拠品として大麻が押収されているにもかかわらず無罪判決が下ることに対して、違和感を覚える方は多いと思います。

そこで今回は、判決の基礎となった、「違法収集証拠排除法則」について、法律の知識がない方でもわかりやすいよう、基礎から解説します!

違法収集証拠排除法則は、法治国家においては絶対に知っておかなければならない大原則ですので、この機にしっかりと勉強しておきましょう!

1.違法収集証拠排除法則とは?

違法収集証拠排除法則(単に「排除法則」ともいいます)とは、証拠の収集の手続・手段に違法がある場合には、裁判において当該証拠の証拠能力が否定される、というものです。

例えば、警察官が捜索差押令状を得ることなく被疑者の自宅を強制的に捜索し、覚せい剤を押収した場合、この押収された覚せい剤を裁判で証拠として用いることは許されない、ということになります。

確かに、令状のない捜索や差押は、憲法上保護された国民の権利(憲法35条)を侵害するものであって、違法です。

しかし、「たとえ捜査方法に違法があったとしても、覚せい剤が発見されたのは事実でしょう?捜査の違法は、覚せい剤の裁判とは別の裁判で警察官を処罰すれば良いのでは?」という疑問が湧きませんか?

違法収集証拠排除法則を理解するためには、そもそもなぜこのような法則があるのかについて、その根拠をしっかりと理解する必要があります。

2.違法収集証拠排除法則の根拠

実は、違法収集証拠排除法則について、憲法にも刑事訴訟法にも、明文の規定はありません。

あくまで、過去の裁判や学説の蓄積によって、解釈上認められてきた運用にすぎません。

では、どのような根拠から排除法則が導かれるのでしょうか?

排除法則の根拠については学説の対立がありますが(排除法則そのものを否定する学説は少数派です)、おおよそ以下のような理論的根拠から導かれています。

(1)適正手続の保障

刑事裁判は、被告人が本当に罪を犯したのかという事案の究明を行うことが目的とされているものの、個人の人権の保障を全うしつつこれを行わなければならないとされています。

刑事訴訟法1条

この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。

また、国家が個人の人権を侵害する場合には、法律に定められた適正な手続きによらなければならないとするのは、憲法の要請でもあります。

憲法31条

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

すなわち、違法な捜査によって得られた証拠によって被告人を罰することは、法の要請に反し、手続的正義に反するものであって許されない、という解釈が導かれます。

(2)司法の廉潔性

裁判所は、立法権・行政権と並んで、国がもつ大きな権力にほかなりません(死刑制度によって、人の命を合法的に奪うことさえ出来ます)。

そのため、裁判所は、国民からの信頼を獲得しながら運営されなければなりません。

しかし、もし裁判所が、違法に収集された証拠を採用して被告人を処罰するのであれば、裁判所に対する国民の信頼を損ない、裁判所不信をまねいてしまうおそれがあります。

そのため、裁判所としては、違法収集証拠のような「汚れた証拠」を裁判から排除することによって、裁判所としてのあるべき姿を保たなければならない、とされています。

(3)将来の違法捜査の抑止

違法収集証拠排除法則の根拠として、将来の違法捜査を抑止するため、とするものがあります。

捜査機関は、日本の治安を維持するべく、正義感をもって、被疑者の犯罪を証明するための証拠収集を行っています。

そのため、捜査機関としては、苦心して集めた証拠が裁判で使えないとなると、捜査の苦労が水の泡となるため、精神的なダメージがとても大きいものです。

そこで、違法に収集した証拠を裁判で使えなくすることによって、将来また同じような違法捜査を行わさせないようにする、というのが、違法捜査抑止の観点です。

3.違法収集証拠排除法則が適用される基準

ここまでは、違法収集証拠法則の概要と、その理論的根拠について紹介してきました。

しかし、やはり「証拠の収集手段に違法があるとしても、証拠自体があることに変わりはないのだから、裁判で使えないのは不当ではないか?」という疑問が残ります。

実際、裁判においては、証拠収集手続の違法が軽微である場合などには、違法収集証拠であっても証拠として用いるケースもあります。

それでは、裁判において拠排除法則が適用される・されない場合の基準とは、どのようなものなのでしょうか。

排除法則を適用する際の基準については、①証拠収集手続の違法が重大であるかどうか、②証拠排除することが相当であるかどうか、という2点からの検討がなされます。

以下から、それぞれについて詳しくみていきましょう。

(1)違法の重大性

まず、証拠収集手続の違法性がどれほど大きいかを判断する必要があります。

もし違法が軽微なものであるならば、人権保障よりも、真実の究明(さきほどの刑事訴訟法1条をご参照ください)を優先すべきだからです。

排除法則が適用される重大な違法とは、「証拠物の押収等の手続に、憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法」をいうとするのが、判例により確立された基準となっています(最判昭53年9月7日刑集32巻6号1672頁)。

憲法35条

第1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

第2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

刑事訴訟法218条1項

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

すなわち、裁判所が発布する令状が無いにも関わらず、捜査官が被疑者の住居等を捜索したり、証拠物を差し押さえた場合には、その手続には「令状主義の精神を没却する」重大な違法があり、排除法則がはたらくことになります。

令状主義とは、捜査機関が捜索や差押をするためには、現行犯逮捕などの一定の場合を除いて、あらかじめ裁判所が発布する令状によらなければならない、とする原則のこと。

(2)排除の相当性

次に、先ほどの判例は、「(違法に収集された証拠を)証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定される」としています。

これは、証拠排除した場合の弊害(罪を犯したと思われる被告人が無罪となるなど)と、証拠採用した場合の弊害(違法捜査が助長されるおそれなど)を比較し、排除する必要性の有無を考えるということです。

具体的には、①違法の程度、②違法行為と当該証拠との間の因果関係、③同種の違法行為が行われる可能性・程度、④当該証拠の重要性、⑤事件の重大性、などの諸般の事情を総合的に考慮して、排除が必要であり、しかも相当である場合には、排除法則がはたらくことになります。

したがって、たとえ証拠収集手続に違法があったとしても、その違法が軽微であって人権侵害の恐れが少なく、将来の違法捜査を助長するおそれがない場合などであれば、排除法則は適用されず、当該証拠が採用される可能性があります。

4.今回の事件を振り返ると?

今回の仙台市のケースについては、判決文がまだ公表されていないため、具体的にどのような事案だったのか、また、裁判所がどのような評価を下したのかは明らかではありません。

報道によると、警察官は職務質問をした際、被告人の男性が車内の検査を拒否したにもかかわらず、捜索差押令状がないまま車のドアを開け、車内から大麻を発見したそうです。

本来、職務質問とこれに基づく所持品検査は、対象者の承諾を得なければ行うことができません。

しかし本件では、被告人の男性が車内の検査を拒否したにもかかわらず、無令状で車内を捜索し、よって大麻が発見されています。

これは、明らかに「令状主義の精神を没却するような重大な違法」であるといわなければなりません。

そして、大麻取締法違反は重大な犯罪ではありますが、所持品検査を拒否する被疑者の車内を無令状で捜索することが許されるとするならば、今後も同様の違法捜査が行われてしまうおそれがあるため、排除の相当性も認められます

なお、本件では、捜査官が被告人の男性を5時間にわたって駐車場にとどめ置いたことも違法と判断されています。

そして、裁判所としては、検察官または弁護人が提出した証拠以外から、犯罪事実があったことを認定することは許されていません。

刑事訴訟法317条

事実の認定は、証拠による。

そうすると、(おそらく唯一の証拠であった、)車内から押収された大麻について排除法則を適用し、証拠排除した場合には、ほかに被告人の男性の犯罪事実を認定できる証拠がない以上、無罪判決を下すのが当然、ということになります。

なお、現行の大麻取締法には、大麻の「使用」について罰則は設けられていないため、仮に尿検査をして大麻の使用が明らかとなっても、これを罰することはできません。

以上より、報道による情報をみる限りでは、裁判所の判断は妥当であるとの結論を導くことができます。

5.まとめ

今回は、違法収集証拠排除法則について取り上げました。

排除法則は、憲法や刑事訴訟法に明文規定のあるルールではありませんが、捜査機関の違法捜査を抑制し、ひいては国民の権利を守るために、非常に大切な原則のひとつです。

もしも排除法則がなかったのならば、警察官があなたの家に突然押しかけて、令状なく家中を捜索してまわったりするおそれがあります(実際に起こるかどうかではなく、その「おそれがある」だけでも大問題なのです)。

したがって、排除法則について理解をしておくということは、捜査機関や法律家だけではなく、この国で生きている私たち全員にとって非常に大切なことです。

今回の事件をきっかけとして、少しでも多くの人に憲法や刑事訴訟法について興味を持っていただけたら幸いです。

 

労務・労働問題についての専門家相談窓口はこちら

スタートアップドライブでは、労務や労働問題の相談に最適な専門家や法律事務所を無料で紹介します。
お電話で03-6206-1106(受付時間 9:00〜18:00(日・祝を除く))、
または24時間365日相談可能な以下のフォームよりお問い合わせください。






 


この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
ブロックを追加