0.事案の概要
この裁判例は、ドイツのカリキュラムに基づく教育を行うインターナショナルスクールで、第二外国語(HPや関連するデータを見る限り、おそらくフランス語)を指導する教員が、19年間12回更新された労働契約(1年契約10回、3年契約3回)の更新を拒絶され、これを不満とする教員の請求を認め、学園と教員の間の労働契約の存在を確認したものです。
1.19条1号と2号(ルール)
裁判所は、19条1号の適用を否定しつつ、2号の適用を肯定しました。
すなわち、更新手続きが形骸化していないので1号の適用はない、としつつ、教員が基幹的な労務に従事し、長期の契約更新も想定されていたので2号の適用がある、としたのです。
この2つのルールがどのような関係にあるのか、整理する必要があります。文言を読む限り、2号ではなく1号の方に、反復更新の文言が入っているため、長期の更新を重視する本件事案では、2号ではなく1号の方が適用されるべき様にも見えるからです。
けれども、いずれ19条が適用されるので、実務上、両者の関係はそれほど重要ではありません。
これよりも重要なのは、19条が適用されるかどうかを判断する際、どのような事情が考慮されるのか、という点です。この点から見た場合、①更新手続きが形骸化しているかどうか、②従事する業務が基幹的なものかどうか、③長期の契約更新が想定されていたかどうか、というポイントが示されました。
少なくともこの三点が、19条適用を判断する事情として、考慮される事情の具体例となるのです。
2.更新拒絶の合理性(あてはめ)
この事案で学園側が特に強く主張しているのが、教員の作成した試験問題などがドイツ政府の定める基準に合わない、したがってドイツ政府に与えられた公認が取り消されかねない、など、教員やその仕事ぶりが所定の基準に合致せず、学園の運営にとって有害である、というものです。
裁判所は、ドイツ政府の反応などが学園の主張するほど深刻なものではなく、教員の能力や言動に大きな問題がなかったと認定しています。新しい学園長になって急に問題になっていることを見れば、新しい学園長の方針変更や個人的な相性の問題があるのかもしれません。
そもそも教員やその業務は、それまで永年特に問題なかったのに、突然、能力や言動が変化して問題が出てくるような類の業務はありませんから、それでも教員側に問題があったとする学園側の主張はかなり立証が難しいはずです。
あるいは、特に大学の研究者や医師の紛争でよく問題にされる点ですが、専門性の高いこれらの業務では、専門家としての裁量が広く認められ、したがって専門家として力量不足の立証が難しくなります。ドイツ政府公認の学校でフランス語を教える、という特殊な状況での教員の専門性を考慮すれば、同様に裁量が広く認められる面があるのかもしれません。
3.実務上のポイント
労契法19条1号と2号の関係は、未だ整理されていませんが、これまで一般的に議論されてきた、更新手続きの形骸化だけでなく、他の事情によっても適用されることが確認されました。
更新拒絶の判断基準として、参考にされるべき裁判例と評価できるでしょう。
※ 労働契約法
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。
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