0.事案の概要
この歳判例は、雇用期間5年の歯科医長を、病院が半年もたたずに解雇した事案で、裁判所は解雇を無効と判断しました。
実務上のポイントとして特に注目している点は、病院の解雇プロセスです。
1.ルール
本題に入る前に、前提を確認しておきましょう。
この事案では、労契法17条が適用されますので、解雇には「やむを得ない事由」の立証が必要です。すなわち、期間の定めのない労働契約の場合の解雇よりも、厳しくその合理性が検討されます。
しかも、歯科医療行為の高度の専門性から、歯科医師には相当広範な裁量が認められるとしたうえで、医学的根拠がなかったり、患者に実際に危険が及んだりした場合でなければ解雇できない、という趣旨の厳しいハードルを設定しています。
この点の立論には、特に異論はないでしょう。
2.あてはめ
この事案では、病院の主張する25の解雇理由と19の問題行為を逐一詳細に認定し、その多くを否定しています。一部は認めていますが、それだけでは上記ハードルに届かない、というのが結論です。
特に注目されるのはプロセスです。
すなわち、病院は、①歯科医長に解雇理由を事前に説明せず、反論の機会を与えませんでした。この点は、解雇のプロセスが不適切である事情として、病院側に不利に働いています。
さらに、②勤務中の解雇理由や問題行為について、病院側は注意指導がないだけでなく、病院内で対応が協議検討されたこともありませんでした。この点は、25の解雇理由と29の問題行為の認定に際して否定的な事情とされており、すなわち、本当に解雇理由や問題行為があれば、病院側に何らかの動きがあるはずなのに何もない、ということは大した問題ではなかったはず、として、病院側に不利に働いています。
このように、解雇の際のプロセスだけでなく、管理の段階でも、適切な対応がなかったことが、大きな問題とされているのです。
3.実務上のポイント
この裁判例から見えるポイントの1つ目は、適切なプロセスの重要性です。
今日、労働法は、プロセスや会社組織の合理性が中心的な論点と位置付けられています。
たしかに、解雇理由を25、問題行為を19も指摘しているように、実体法的な評価も重要です。
けれども、プロセスが伴わなければ、その効力は認められません。プロセスの重要性が、この裁判例により再確認されます。
2つ目は、特にハイレベルの従業員の中途採用の在り方です。
時期的に見れば、入社半年内での解雇であり、試用期間中の解雇と状況が似ています。したがって、試用期間をこの歯科医長にも設定し、合意されていれば、本採用の拒否のためのハードルは下がりますので、病院側の主張が認められる可能性は高まっていたでしょう。(但し、プロセスがネックになり、病院の主張が否定される可能性も相当あると思います。)
会社は、特にハイレベルの従業員の中途採用に関しては、即戦力であることを期待するのが通常でもあり、その能力を見極めるプロセスを設定すべきでしょう。その意味で、試用期間を設けておけば、この事案の経緯も随分変わっていたように思われます。
もし、歯科医長の反発が強くて試用期間を設けられなかった、などの事情があったのならば、雇用期間を5年でなくもっと短く設定したり、要求される業務内容や業務水準をより明確にして、こまめに評価を行い、雇用条件の見直しをより柔軟に行えるようにしたりするなどの、条件を交渉するべきだったかもしれません。
これだけハイレベルの専門家であり、かつ管理職である従業員の採用として見た場合、これだけ短期間にミスマッチが現実化するということは、明らかに、採用プロセスに問題があるはずです。
この事案と同じようなことが会社で発生してしまったら、採用プロセスの見直しと、それにマッチした法的なルールやプロセスの見直しを(どちらか一方ではなく)合わせて行う必要があるでしょう。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。
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