0.事案の概要
この事案は、学校法人の運営する専門学校(Y)で外国語を教えている外国人講師3名(まとめてX)が、有給休暇を取得したところ、欠勤扱いされたことを不服として訴訟を提起したものです。裁判所は、有給休暇の取得を認め、Xの請求の一部を認めました。
ここでは、就業規則の英訳がないなど、Yの不親切さが「パワハラ」かどうかも争われていますが、その点についての検討は省略します。
1.論点
有給休暇について、Yには明確なルールが定められていませんので、労働基準法39条の規定が直接問題になります。特に問題になるのは、次の2点です。
① 継続勤務
Xは非常勤講師であり、各学期ごとの契約なので、長年勤務した従業員にだけ付与されるはずの有給休暇は、付与されないようにも見えます。
けれども、毎年、授業の様子などを見極めながら、翌年の採用が決まるなど、Yの運用によれば、Xのうち2名については、数年間の継続雇用があると評価されています。
契約の形式面ではなく、実態面に着目して規制される労働法の特徴が表れている問題です。
② 夏休みなど
非常勤講師は、授業のない期間があります。
このことから、継続勤務にならない、とYが主張したのですが、裁判所は、非常勤講師の勤務形態から生ずるもので、これを「重視することは相当でない」、すなわち、夏休みなどがあり、学期ごとに契約しているからと言って、継続性が無いと決めつけるわけにはいかない、と評価しました。
Xは、労基法39条3項により、パートタイム労働者のように、勤務日数や勤務時間の少ない者も有給が取れる「比例付与」の制度が取られていることと比較しても、有給休暇が付与されるべきであると主張していましたが、裁判所も、明確にこれを引用していないものの、この主張をそれなりに評価しているようです。
2.実務上のポイント
労基法の有給休暇の規定は、強行規定です。
したがって、当社には有給休暇はありません、という主張は、少なくとも長期・無期の契約者との関係では、法的に誤りとなります。就業規則や雇用契約で明示されていなくても、法的に強制的に有給休暇が付与されるのです。
未だに、労働審判などで、「当社は労働基準法を採用していません」と言い放つ経営者を見かけますが、これは法的に誤っているだけでなく、労基違反を犯してしまえば刑事罰が与えられる可能性すらある、危険な発想ですので注意してください。
有給休暇も、労基法が、当事者の意向と無関係に強制的に従業員に与えてしまう権利です。この裁判例によって、「何回も契約しているけど、常に別の契約だから長期契約でない、したがって有給休暇は発生しない」、という解釈が、危険な解釈であることがわかりました。
契約の形式面ではなく、運用の実態に照らして判断する(継続雇用)、という労働法の基本原則が有給休暇のルールでも適用されました。形式を整えて安心するのではなく、実際の運用も確認し、会社のルールがどのようにあるべきなのかを考えるようにしてください。
※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中か、特に気になる判例について、コメントします。
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