判例

労働判例の読み方「復職拒否」【綜企画設計事件】東京地裁平28.9.28判決(労判1189.84)

0.事案の概要

 この事案は、うつ病で休職していた従業員の復職に関するトラブルです。すなわち、会社と従業員が、1か月間の休職期間の延長とその間の「試し出勤」に合意し、実際に試し出勤が行われ、計3回、休職期間の延長が行われました。ところが、この3回目の「試し出勤」中に、会社は、解雇・休職期間満了による退職を通知したため、従業員が職場復帰(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認)を求めました。裁判所は、従業員の職場復帰を認めたのです。

1.ルール

 まず注目されるのは、復職の請求が認められるべきルールを整理して示した点です。
 つまり、従前の最高裁判例などを整理し、復職が認められる場合のルールを示したのです。(なお、従前の業務が合わない場合には、他の業務が可能かどうか、すなわち業務の変更も問題になりますが、この事案では問題にされていません。)
 ここでは、原文のまま引用しましょう。
 「当該労働者の勤怠や職務遂行状況が雇用契約上の債務の本旨に従い従前の職務を通常程度に行うことができるか否かのみならず、相当の期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合であるか否かについても検討することを要し、その際には、休職原因となった精神的不調の内容、現状における回復程度ないし回復可能性、職務に与える影響などについて、医学的見地から検討することが重要になると言うべきである」

2.事実のあてはめ

 使用者側の対応の不十分な点を、大雑把に括ると、①使用者がうつ病が治っていないと判断した主な理由が、相変わらず仕事に対する意欲が無く、仕事の詰めも甘い、という評価が、主な原因であること、②このことを、医師に確認するなど、医学的な裏付けを取っていないこと、にあるように思われます。
 これでは、仕事への意欲が無いから「うつ病」だ、と決めつけていることと変わりませんので、うつ病を理由とする復職拒否に根拠がない、とする裁判所の判断も、合理的と評価されるでしょう。
 復職可能性を直ちに判断できない場合に、復職支援も兼ねて、「試し出勤」を延長すること自体は、一般的にそれを不当と評価することはできません。むしろ、従業員の復職の機会を与え、同時にその可能性を適切に判断するためのプロセス、と評価できますので、「試し出勤」の延長は、一般的には合理的と評価できるでしょう。
 けれども、その結果を医学的に検証しなければ、復職可能性を適切に評価したことになりません。このままでは、単に判断の先送りだった、と評価されるでしょう。

3.おわりに

 運用する過程から見た場合、従業員との交渉の結果、「試し出勤」を延長することになりましたので、使用者側の判断が間違えていた、と評価するわけにはいきません。
 けれども、医学的な論点(うつ病かどうか)よりも、法的な論点(業務遂行能力が足りるかどうか)なのであれば、医学的には健康な状態に戻った、という医学的な状況を確認したうえで(つまり、後になって、矢張りうつ病でした、という蒸し返しが無い状況を確認したうえで)、業務遂行能力を客観的に測定する、という対応も検討すべきだったでしょう。
 すなわち、法的に債務不履行である、と批判されると、メンタルの問題だったと医学的な問題で反論し、医学的にうつ病は治って復職したはずだ、と批判されると、法的に適切に業務遂行していると反論するなど、復職の可否が議論になる場面で、論点が定まらず、時間ばかり経過してしまうことが多く見受けられます。
 そこで、この事案を例に取れば、まずは医学的に問題ないことを双方が確認し、法的な問題、すなわち業務遂行力の問題に論点をしぼり、業務遂行力があるかどうかを実際の業務の中で見極めていく、というプロセスが考えられるのです。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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