判例

労働判例の読み方「更新拒絶」【日本郵政(期間雇用社員ら・雇止め)事件】最高裁二小平30.9.14判決(労判1194.5)

0.事案の概要

 この事案は、日本郵政公社時代から非常勤職員として勤務していたXらが、日本郵政公社から業務を引き継いだY(日本郵便)に期間雇用社員として勤務していたところ、65歳をその上限とする「上限条項」により契約更新を拒絶されたものです。

1.判断枠組み

 2審の裁判所は、①これを労契法10条の問題、すなわち就業規則の不利益変更に関する問題と位置付けたうえで、上限条項の効力を認めました。②この結果、労契法191号が適用されるものの、上限条項によって更新拒絶を適法としました。
 これに対して最高裁は、①これを労契法7条の問題、すなわち新たに制定される就業規則の合理性の問題と位置付けたうえで、上限条項の効力を認めました。②この結果、労契法19条の1号と2号いずれも適用されないとして、更新拒絶を適法としました。

2.労契法10条か7条か(①)

 最高裁が、7条の適用を認めているのは、Yに関し、特殊法人と株式会社とで法的性格が異なること、Xに関し、国家公務員と民間企業の従業員とで法的性格が異なること、Xに関し、当然にYの職員になるべき対象ではないこと、を指摘しています。
 事業承継の場合の雇用関係について、合併のように当然に承継される場合と、逆に、事業譲渡のように合意のある場合にだけ承継される場合がありますが、2審では前者と同様、最高裁では後者と同様、に扱われているのです。
 この違いは、法人格が同一かどうか、という観点から判断されることが多いですが、最高裁は、法人格の同一性について言及しておらず、公法的な法律関係と私法的な法律関係が異質である点を強調しています。当然承継の有無を、法人格の同一性以外の要素で判断することを前提とするのかどうか、判然としない表現です。
 今後、当然承継の有無を、法人格の同一性以外の要素で判断することが、ルールとして適切かどうかについて、議論がなされるかもしれません。

3.労契法19条は適用されるか(②)

 2審は、労契法19条適用後、上限条項を適用しましたが、最高裁は、上限条項適用の結果、労契法19条は適用されない、としました。
 そこで、技術的には、労契法19条と上限条項を別々に検討するのか、労契法19条の中で上限条項を考慮するのか、労契法19条と上限条項のどちらを先に検討するのか、等の問題が生ずることになります。
 けれども、これらは検討過程の技術的な整理方法の違いでしかありません。この事件に関する限り、結論に差がありませんから、議論する実益があるのか、現時点ではよく分かりません。
 将来、上記検討方法の違いによって結論に差が出るような事案が発生した場合、現実的な論点になってくると思われます。

4.実務上のポイント

 最高裁の判断は、定年を設定するような就業規則の変更が認められた事例としての「先例」として見た場合、その適用可能な範囲を、郵政公社など、公法人が民営化されたような場合に限定する効果がありそうです。すなわち、2審の判断構造であれば、事業承継の際に定年を設ける場合全てについて、「先例」になり得る一般性を有しますが、最高裁の判断構造であれば、特殊な事案に関する特殊なルールにすぎない、という評価が可能なのです。
 他方で、労契法7条の適用の問題、すなわち定年制度の合理性の問題として、上限条項の内容の合理性やプロセスの合理性が検討されており、労契法10条が適用される場合と、判断構造に大きな差はありません。また、結論も同じですから、両者の具体的な違いも、判然としません。むしろ、労契法7条が適用される場合であっても、労契法10条適用の場合と同様の判断がなされる「先例」と評価できるかもしれません。
 実務上は、ルールが具体的にどのように使われたのか、が重要ですから、労契法7条か10条かにかかわらず、上限条項を導入する場合には、内容の合理性とプロセスの合理性を確保しなければならない、という点がポイントになるでしょう。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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